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コラム

クルマ離れと言われる若者男子の購入意欲を高めるための一考察

【若者男子の「購入意欲」の低下】

矢野経済研究所が自動車ピットサービス事業に関する調査結果を発表した。同社が取り上げたのは、カー用品店、ガソリンスタンド、車検チェーン、ディーラーの 4 業態である。

各々の業態の課題を以下のように整理している。

・カー用品店
他業態に比して作業(車検や一般整備等と思われる)に対する信頼感が低く、人材能力の向上が課題

・ガソリンスタンド
アルバイト店員が多い・入れ替えが激しいなど、作業技術に対する信頼感が低い

・車検チェーン
価格訴求路線からの脱却とチェーンブランドとしての信頼性の向上が課題

・ディーラー
新車購入の意欲がないと入店しにくいことが課題

いうまでもなく上記 4 業態の中でバリューチェーンの先頭にいるのはディーラーであって、それ以外の業態の課題をいくら解決したところでディーラーの課題を解決しない限り根本的な解決にならない。

しかも、ディーラー以外の業態の課題は売り手側の行動次第で解決の道筋が見えてくる内容だが、ディーラーの課題は気軽に来店できる顧客導線作りまでは売り手側でコントロール可能だとしても、買い手側の意識の問題である「購入意欲」まで売り手側がコントロールすることは難しい。

今回、筆者が取り上げたいのは、正にこの「購入意欲」をいかに高めるかというテーマである。

一般に自動車の「購入意欲」は低下していると言われている。筆者も各種のデータや文献から実感している。消費者全体の中で「クルマ非積極層」が増加し、従来の「クルマ積極層」の「クルマ離れ」という現象が見られる。

上記のような現象に関連する記事で特に印象的だったのは 2007年 8月 22日付けの日本経済新聞である。2000年と 2007年に 20 代に対して「乗用車を持っている」か、そして「乗用車が欲しいか」をアンケート調査した結果を纏めた記事である。

それによれば、まず「乗用車を持っている」と回答した 20 代の割合が 2000年に 23.6 %であったのに対し 2007年では 13.0 %に減少している。そして「乗用車が欲しい」と回答した 20 代の割合が 2000年に 48.2 %であったのに対し 2007年では 25.3 %に減少と、ほぼ半減しているのである。

筆者自身は 20 代でないものの、「U35」(35 歳未満)という分類では若年層に属する。そこで、若年層、特に男性若年層(ここではこの世代の感覚に沿って「若者男子」と呼ぶことにする)の「購入意欲」を刺激できるような手立てはないか考えてみたい。
【若者男子の「購入意欲」の源泉は女性にウケる・モテること】

昨年、私どもは自動車保有ニーズの多変量解析を行った。保有台数と経済・社会・自動車関連の各種指標との相関関係を分析したもので、特に自動車保有ニーズとの間で顕著に正の相関が見られた指標の一つに「年少人口比率」がある。大都市と地方に分けて言えば、この傾向は大都市において見られる現象である。一般に大都市では公共交通インフラの発達により、自動車保有のニーズが地方より低いにも拘らず、「年少人口比率」が高まるほど「保有密度(世帯あたり保有台数)」が高まる傾向は地方よりも大都市において鮮明である。

このことは、どんなに地下鉄やバスなどの利便性が高くても、小さな子供がいればやはり自動車が必要と考える家庭が多い、逆に子供がいなければ自動車を必要としない家庭が都市には多い、と見ることができる。もう少し広く捉えると、購入者を取り巻く「人間関係」が「購入意欲」に刺激を与えるという仮説が立てられる。

購入者を「若者男子」として考えてみると、若者男子を取り巻く人間関係には家族や友人、恋人といった人々があげられる。これらの人間関係のうち、最も若者男子の「購入意欲」に刺激を与え易いのは「女性」(恋人もしくは恋人にしたい女性の友人)ではないかというのが筆者の意見である。

端的に言えば、かつて若者男子が自動車の購入意欲を持っていた時代というのは、クルマがあるだけで「女性にウケる、モテる」時代だったからこそ購入意欲を高めていたはずである。

「ケンとメリーのスカイライン」がよい例のように思う。クルマがあれば、メリーのような女性と出会う機会が生まれる、メリーのような女性を恋人にすることが出来る、メリーのような恋人との関係を発展させることができる、という幻想を若者男子に与え、若者男子はその幻想を信じたし、幻想を信じることができるだけの時代背景がそこにあったからこそ、若者男子の購入意欲が刺激されたはずである。

親の身体上の都合などで若者男子自らが自動車を購入・保有・運転することが必須というようなケースを除けば、「家族」という人間関係が若者男子の購入意欲を高めることは考えにくい。「家族」で 1台保有していれば十分なわけだから、寧ろ購入意欲を下げる可能性が高い。

「友人」の影響は本来高いはずだ。周りの友人がみんないいクルマに乗って、年中クルマの話題で盛り上がっているという集団環境があれば、その輪の中に入るために購入意欲は高まるし、若者の間での「友達の輪に加わりたい、外れたくない」という「つながり」に対する思いは昔よりも高まっていることは、かつて加藤が本誌で触れたとおりである。
『ネットワークの「内部性」に注目したWeb2.0型テレマティクスの提案』)

だが、現実には一部の地方都市を除いてそのような集団環境が失われている現在、自動車業界の力で一気にそのような集団環境を作り出すことを考えることはあまり現実的とはいえない。やはり一人ひとりの若者男子の購入意欲を高めていき、それがある段階に達したときにこのような集団環境が発生し、「つながり」(ネットワーク)の力で加速度的に若者男子の購入意欲が高まる状況を想定すべきだろう。

そうすると、やはり「恋人が欲しい」、「恋人にしたい」、「恋人との関係を発展させたい」、つまり「女性にウケたい・モテたい」という若者男子共通の想いに訴えかけることが、最も効果的な「購入意欲」向上手段だと思うのである。

問題は、「ケンメリ」の時代と違って、クルマがあれば「女性にウケる、モテる」という幻想を信じられるだけの時代背景が失われてしまったことである。 自動車を購入または保有するということが腕時計を買うこと、持つことと同じように普通のことになってしまい、デートに誘うことを意図しながら「クルマを買った」、「クルマを持っている」と話しても女性の反応は「それで?」、「だから何?」と冷たい。それどころか女性の間には次のような公式が成り立つという話まで聞こえてくる。
<従来>
クルマを買った⇒クルマを買えるくらいの経済力を持った頼りがいのある人
<現在>
クルマを買った⇒限られた収入や貯蓄をクルマに使ってしまうくらい無計画で頼りがいのない人

その結果、自動車業界側がいくら幻想を与えても、今や若者男子がそれを信じることができなくなってしまった。「クルマがあってもウケない、モテない」ことが若者男子の「クルマ離れ」の原因であり、「クルマがあればウケる、モテる」という状況を復元させることができれば若者男子の購入意欲が復活するというのが筆者の見解である。
【ウケる・モテるものづくり】

そもそも「ウケる男、モテる男」の概念が変わってきている。時代の変化で注目すべきは、「お笑い芸人」だろう。週刊誌や電車の中刷りを見ていると、お笑い芸人とアイドルや女優の交際発覚という記事を見掛けることは少なくな
い。

身長が高くイケメンで高収入といったいわゆる正統派は、現代でも依然として「ウケる男、モテる男」には違いないが、そうではない圧倒的多数の中でも「オチのある話をする」若者男子も今では「ウケる男、モテる男」なのである。

「オチのある話をする」ことで「ウケる男、モテる男」の代表選手になったお笑い芸人たちは、一体どんなものづくりをするのかを学んでみたい。彼らならば、「オチのある商品」によって圧倒的多数の若者男子を「ウケる男、モテる男」に変えてくれるかもしれない。「現代のケンメリ」のヒントを提供してくれるかもしれない。

吉本興業は、「笑いをカタチに変える」というコンセプトで子会社の吉本倶楽部を通じて各種のオリジナル商品を製作・販売している。同社の商品案内によると、お笑い芸人の顔入り T シャツや携帯ストラップ、文房具など一般的なキャラクター商品がその大半だが、中には「オチのある話をする」というお笑い芸人の要素を抽象化したような商品がある。「ジホッチ」がそれである。

・ジホッチ
腕時計なのだが、時刻を示す時計の針やデジタル表示はない。そこには、懐かしの黒電話のダイヤル盤のみがある。ユーザが 117 をダイヤルすると時刻を音声で知らせるという時計である。

単に「腕時計を買った、腕時計を持っている」だけでは、女性の反応は「それで?」、「だから何?」で終わってしまう。だが、ジホッチなら若者男子がそれを活用して「オチのある話」をすることができるようにしてくれる。「ウケる男、モテる男」に近づけてくれるのである。
【ウケるクルマ・モテるクルマ】

ジホッチのコンセプトを自動車のものづくりやマーケティングに応用して、「ウケたい」「モテたい」若者男子の購入意欲を高めることはできないだろうか。「オチのあるクルマ」である。

少し時代は遡るが、SUV やステーションワゴンが若者男子に流行ったのは、クルマそのものの魅力というよりは 、「SUV にスノーボードを積んでゲレンデに行く」、「ステーションワゴンにサーフボードを積んで海に行く」という「オチ」があり、その「オチ」ならば「ウケる、モテる」という幻想を信じることができたからだと筆者は考える。
さらに遡れば、ハイソカーも同様に「それに乗って高級レストランに食事に行く」、「高級なリゾートホテルの車寄せに横付けする」という「オチ」がウケた、モテたのではないかと考える。

わざわざ新たなモデルまで起こす必要はないかもしれない。

例えば、素材のイノベーションを活用したウィンドシールドを作って、停車時には DVD の映像をフロントウィンドウ一杯に映し出せるようにしてやれば、「一緒に大画面で映画を観ないか?」といった誘い方が可能になる。 エアコンのダクトから特殊な気体を出すようにして、「このクルマに乗ると肌がきれいになるんだって」というアプローチもあるだろう。
車内カメラとテレマティクスを活用して、助手席に座った彼女の「顔チェキ」や「人相占い」ができるといったものもあるかもしれない。

もっと単純な例で言えば、軽口を叩くカーナビやカップホルダーなども考えられる。目的地を設定すると、「あそこには一度は行くべき有名な蕎麦屋があるんですよ」とアドバイスをくれる、ホット・ドリンクを差し込むと「熱い、熱い!」と喋り出すなどちょっとしたことである。

真面目なエンジニアやコスト意識の徹底した調達の人たちからは、「そんな機能的な貢献もなくコストばかり掛かる製品に何の意味があるのか」という反論があるだろうと思う。だが、オートヘッドライトとか、雨滴感知式ワイパーとか、ウィンカー付きドアミラーなども機能やコストの面では同じはずだが、現実に顧客がそこにお金を払ってくれるからこそ搭載を増やしているはずである。売り手と買い手の間には意識のギャップがあるものなのだ。

若者男子の購入意欲が低下していることの問題は、単に現在自動車の販売台数が増えないことだけではない。若い間に自動車の購入・保有の用途や価値を体験していない顧客層が年を経たときに、彼らに対してあらためて自動車の購入・保有に踏み切らせる動機付けを与えることは一層難しくなるはずである。そうすると、自動車産業は長期的・構造的に負の循環モードに入っていくことになるから、事態は深刻である。

従って、エンジニアリング的に、あるいはコスト戦略的には無意味に思えるようなことでも、こと若年層マーケティングにおいてはトライ&エラーを繰り返していくべきではないだろうか。
特に、「女性にウケたい・モテたい」という男性若年層の思いは世界共通だから、日本を土台にしてその思いに応える商品開発を検討することはグローバルにみても一考の価値があると思う。

<宝来(加藤) 啓>

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