クルマ離れと言われる若者の購入意欲を高めるための考察 『第4回 石橋を叩いて渡る若者へのアプローチ』

第 4 回 『石橋を叩いて渡る若者へのアプローチ』

本シリーズは、クルマ離れと言われる若者の購入意欲を高めるための方向性や施策案を考えるものである。

方向性や施策案を考える前提として若者を取り巻く環境の変化を取り上げその変化から考えられる魅力あるクルマの姿やサービスを提言している。

第 4 回は「購入に際し石橋を叩いて渡る若者」を取り上げたい。
【購入に際し石橋を叩いて渡る若者】

「石橋を叩いて渡る若者」とは、モノやサービスの購入の意思決定の際に、「これはいいモノだ、絶対これが欲しい」という想いや一時の感情に流されず、「とはいえ、やっぱり高いよね」といったコスト意識が常に働き、本当に必要なモノなのか冷静な目で石橋を叩いて渡るが如く、費用対効果を考え合理的な判断を下す若者である。

<石橋を叩いて渡る若者が増加した背景>

もちろん、こうした若者は昔からいただろうが、最近では増加傾向にあると思われる。その背景にはバブル以降の経済の低迷を背景とした価値感の変化とお金の使い道が増えたことにあると考える。

現在の若者はバブル崩壊後のいわゆる「失われた 10年」に青春期を過ごし苦労した親の背中を見て育っている。また、終身雇用と言われた時代は過ぎつつありたとえ大企業に勤めていたとしても雇用が不安定であったり、年金問題があったりと若者は将来にわたり収入面で不安を抱えている。そうした中で、モノやサービスの購入に際し、慎重になる若者が増えてもおかしくないだろう。

実際に、フリーターやアルバイトなどの増加により、現状の給与も減少している。以下は若者の年間平均給与であるが、10年前と比較すると 10 %程度減少している。

年齢階層別の平均給与(単位:千円)
20-24歳 25-29歳 30-34歳
平成 9年    2,820 3,730 4,500
平成10年    2,770 3,650 4,390
平成11年    2,740 3,580 4,370
平成12年    2,690 3,580 4,310
平成13年    2,660 3,530 4,280
平成14年    2,590 3,480 4,190
平成15年    2,550 3,450 4,110
平成16年    2,500 3,440 4,070
平成17年    2,500 3,400  4,050
平成18年    2,510 3,430  4,040
(平成9年対比 )89%   92%   90%
出典:国税庁

さらに、ゲームや携帯電話、ミュージック・プレイヤー、パソコン、テレビなど新商品の登場や既存商品のモデルサイクルの短命化により、昔に比べて、購入資金の使い道も増えている。

つまり、どんどんお財布は寂しくなる一方で、欲しいモノリストはどんどん膨らんでいるのである。寂しいお財布と膨らむ欲しいモノリストを見比べ、どれを選ぶか、費用対効果を仔細に検討し(石橋を叩いた上で)、購買の決断を下す若者が増えているわけである。

<石橋を叩いて渡る若者の行動様式>

費用対効果を仔細に検討し合理的な判断をする若者は、自分が欲しいモノがあったとしても衝動的な購入はしない。SNS や各種の価格比較サイトをみて、実際に購入した人々の評判を確認したり、単に値段が安いというだけでなく購入後のサービス面も確認しながら、どこで買うのが最も効果的か入念に調べるのである。

とはいえ、値段が高いモノを購入しないわけではない。合理的に考え費用対効果が高いと判断すれば、高いモノでも購入するのである。例えば、ファッションにこだわる若者であれば、人の目に付くスーツは高級ブランドを購入する。
その一方で、外から見えない下着は費用をかけても仕方がないと判断し「ユニクロ」で安価なものを購入する、といった具合である。

また、同じような発想から交際相手へのアピール効果が高い記念日等の特別な日は高級レストランに食事に連れて行く一方で、普段の食事はファミリーレストラン、牛丼チェーンであったりする。

そして、特に欲しいモノがない場合には貯金や投資信託、株などで資産運用を行ったりしているようである。
【石橋を叩いて渡る若者のクルマに対する態度】

上記のような若者はクルマの費用対効果で言うと効果が低下したと感じているのではないだろうか。

例えば、本シリーズの第 1 回で取り上げた「モテる・ウケる」男子の変化である。かつてクルマの効果の一つに女性にモテるということがあったが、そいういった風潮はなくなりつつある。また、都会においては公共交通機関の発達により、モビリティ自体の価値が低下してしまった面もあるかもしれない。

そうすると都会では、買い物で都内を移動する際には公共交通機関を利用すれば十分でクルマを持つ必要がないだとか、デートで郊外に出掛ける際にもレンタカーや親のクルマを利用すれば十分であるという結論に彼らの頭の中では合理的に行きつく。

また、地方では、日常の足としてクルマは依然必要であるが、単なる足であれば安ければ安いほどよく軽自動車を購入するという結論に行きつく。

さらに言えば、昨今のガソリン代高騰のニュースは財布の寂しい若者にとってクルマの費用がこれまで以上に上昇することを意味する。
【石橋を叩いて渡る若者へのアプローチ】

それでは、購入に際し費用対効果を仔細に検討し合理的な判断をする若者にクルマはどうアプローチしたらよいだろうか。

そういった若者は、前述したように「これはいいモノだ、絶対これが欲しい」という想いに捉われず、「とはいえ、やっぱり高いよね」といったコスト意識が常に働く。

まず、こうしたコスト意識を超える効果を提示することである。もちろん各メーカーでの取り組みが進んでいることと思うが、例えば、本シリーズでこれまで述べた「オチがあるクルマ」、「仲間意識を醸成するクルマ」、「ロハス的なクルマ」も方向性としては考えられる。

「オチがあるクルマ」

「仲間意識を醸成するクルマ」

「ロハス的なクルマ」

もう一つは、費用を下げる方法である。今回は、どんなにクルマの効果を高めても、石橋を叩いて渡る若者に常に働く費用の方を中心に考えていきたい。

<ロイヤル・カスタマーになることを前提に購入時の費用を下げる> 費用の下げ方としてはインド・タタ自動車の「ナノ」に代表されるようなクルマの本体価格を下げることが考えられる。しかしながら、一定の限界はあるだろうし、導入までに時間もかかる。また、他には残価設定ローンなどの金融商品も費用を下げる方法である。加えて、購入頻度や長期の利用を確約した顧客に対して費用を下げることはできないだろうか。

つまり、携帯電話に見られる一定期間の利用を約束した顧客や本人だけでなく家族が契約している顧客の利用料金を下げる方法である。

自動車で言えば次回の買い替えを約束した顧客の初回購入価格を下げる方法が考えられる。しかしながら、それこそ将来の財布の中身は約束できないわけだから難しいかもしれない。現実的には、トヨタの「TS CUBIC カード」に見られるような用品の購入や整備入庫にポイントを与えて新車購入の際に、そのポイントを金額換算して利用できるような仕組みであろう。こうした仕組みを時間貸し駐車場や SS でも展開できないだろうか。

例えば ETC や最近普及を始めた車のナンバーを読み取るカメラを使用して、時間貸し駐車場や SS での毎月の利用頻度を計測し、一定以上の回数や金額を利用した顧客に対して割引を適用することである。

また、携帯電話でいう「家族割」のサービスも考えられる。現状では個別のディーラーで不透明な形で行われているかもしれないが、自動車メーカーが規定することも考えられるだろう。

<クルマを利用した分だけ費用を徴収し保有に関する費用を下げる>
クルマは利用しなくても、自動車税や月極の駐車場代など保有しているだけ費用が発生する。こうした現状は石橋を叩いて渡る若者の目に付くに違いない。であれば、利用した分だけ費用が発生する仕組み、レンタカーやカーシェアリングをもっと浸透させていくことはできないだろうか。

現在のレンタカーは駅前ではあるが借りる際にも返却する際にも店舗にいく必要がある。わざわざ駅まで行くのであれば公共機関を利用するという判断をする若者がいてもおかしくはない。

クルマではないが DVD やビデオをレンタルする「TSUTAYA」では店舗を構えるものの、今や店舗に行く必要がない。インターネットで予約すると自宅の郵便受けに商品が届き、返却も近くの郵便ポストに入れるだけである。

クルマの場合には法規制の問題があるかもしれないが、例えばカーキャリーなどを使用してクルマを顧客のところに持っていったり回収したりすることや、もっと言えば顧客に次の顧客に引渡してもらうことで利用料の割引を行うなどが考えられる。
【クルマの費用と効果を見える化する】

購入に際し費用対効果を仔細に検討し合理的な判断をする若者に訴求していくためには、上記で述べてきたような効果を高める仕組みや費用を下げる仕組みを導入するとともに、合理的に判断できるように見える化する必要があるだろう。

具体的には、現在のディーラーでの見積もりには下取車両価格やローン場合には金利を含めて新車購入に掛かる費用しか掲載されていない。例えばこの見積に、顧客のクルマの保管場所や利用の仕方を聞き、月極の駐車場料金や想定走行距離から導かれるガソリン代、整備料金、仮に 3年後・ 5年後に下取りに出した場合の残価などを加えて、クルマを所有することによる費用総額を見える化し、「石橋を叩く」ことをサポートしてあげるのである。

クルマを所有することによる費用総額の試算は、石橋を叩いて渡る若者だけでなく、クルマの購入を検討する人は皆、少なくとも、なんとなくはしているものである。また、値引き額もメーカーやディーラーの状況により変わるし不透明さが残る。

以前の弊社メルマガで寺澤が述べたようにガリバーは、それまで中古車の下取り価格が新車値引きと渾然一体となってしまい「本当に公正な下取価格を付けてもらっているのか」という不透明な状況を値付けシステムを全国的に標準化することなどにより見える化した。
「納得感の見える化」がアフターマーケットのキーワード」

こうした見える化する余地はまだ残っていると思われ、各プロセスで各社が個別に見える化していくだけでなく、ディーラーや SS、駐車場など業界横断的に見える化を取り纏めていくことは、石橋を叩いて渡る若者には特に有効なアプローチではないかと考える。

<宝来(加藤) 啓>