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コラム

デンソーなど部品メーカー 100 社以上、フォードへの供給…

◆デンソーなど部品メーカー 100 社以上、フォードへの供給契約の更改を拒否

フォードが、購入した部品の技術をグループで共有するとの条項を契約に盛り込んだ事に対し、デンソーやアイシン精機、独ボッシュ、シーメンスなど百数十社が知的財産権流出の懸念を強めて反発し、部品供給契約の更改に応じていないことが明らかになった。新車開発に支障が出る可能性も。

<2004年08月23日号掲載記事>
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ナッサー CEO が去った後のフォードでは、「リバイタライゼーション・プラン」という活動の中で、欧州および米国での整備・修理事業(クイックフィットおよびコリジョン・チーム・オブ・アメリカ)の売却など、意識的なナッサー以前への回帰も含めた様々な分野でビジネスフォーマットの見直し、再構築が活発に行なわれてきた。

かつて年間 40 万台を売ってアコード、カムリとベストセラーを争った主力車種トーラスの廃止や、主力工場(当面は Norfolk、Louisville、Dearboarn、AAI、Chicago の 5 工場。今後、Hermosillo、Oakville、Atlanta 工場にも展開予定)へのフレキシブル生産設備の導入に見られる大鑑巨砲主義からの訣別と多種少量生産への対応強化や、自前主義への拘りを捨てて、グループのリソースを本格的に活用(マツダ 6 のプラットフォームを使って最大 10 車種を新規開発)した開発スピードと品質の強化に乗り出したこともその一貫である。

2000年の Covisint (ビッグ 3 共通の部品資材共同購買サイト)設立後も自前主義に拘って投資育成してきた(それが Covisint の発展を阻害した一因と言われる)同種の事業 Everest を清算決定したこともこの流れにある。

最近では Blue Oval という名称で展開してきた、ブランドロイヤリティーと顧客満足度(CS) の向上に投資してきたディーラーに対する報奨プログラムを、来年 4月以降大幅に見直すことを発表している。従来、フォードの認証テストを合格したディーラーだけを対象にして、販売 1台あたりステッカー価格の 1.25% (約 330 ドル)を支払っていたのを、広く(対象は全ディーラー)、薄い(販売目標達成率次第だが平均で 175 ドル)ものに変えると見られている。

これらは企業戦略の変更であって、朝令暮改と非難するのは当たらないし、そもそもスピード経営が求められる時代に必ずしも朝令暮改が悪いとは思わない。これまで当然と思われていたビジネス構造を時々ゼロベースで見直して、社内の形骸化した制度を廃止したり、最新の顧客ニーズや競争相手のスピードに対応できなくなったシステムを抜本的に作り変えるということはあっていい。
特にトップの交代や経営基盤に影響を与える事象が起きつつあるタイミングでは、会社のビジョン(方向性)の変更を伴うことが多いから、その時機を捉えて既存のビジネスフォーマットの必然性や合理性を再検証しようという動きが出てくるのは寧ろ健全だと考える。

そういう意味でフォードがいまビジネスフォーマットの再構築活動を進めていること自体には全く異存ない。しかし、ビジネスフォーマットの変更の方向性やタイミングが、企業戦略全体や、市場での競争関係、他分野における自社の施策との間で、整合性、一貫性の取れたものになっているかどうかには議論の余地があろう。フォード以外の多くの会社でも犯しやすい間違いのヒントを提供してくれているように思えてならない。

今回の記事が取り上げているのは、グローバルコントラクトと呼ばれる、フォードと各サプライヤーとの基本契約である。米 Automotive News 誌の記事によれば、争点になっているのは、次の 3 つの通りと解釈できる条項が今年 1月にフォードが各サプライヤーに提示したドラフトに含まれていることだ。

(1)フォードは、サプライヤーから得た技術情報を自由に利用できる。
(2)フォードは、サプライヤーに対する部品代金支払いに際して、保証(ワランティー)責任負担分として、一定の金額を留保した支払いを行なうことができる。
(3)フォードは、当該契約をいつ、いかなる理由でも、あるいは理由なしでも解除できる。

(2)と(3)もかなり一方的な内容ではあるが、表現の問題を別にすると、他社でも実質的に同じような条項があり、ある意味で自動車業界の慣行と言えるかもしれない。問題は、(1)で、常識的にも多くのサプライヤーにとって受け入れ不可能であることは容易に想像がつく。もっと噛み砕いていえば、サプライヤーの技術情報を基にフォードが内作することも可能だし、他のサプライヤーに開示して、より安い製品、より高機能な製品を作らせることも出来るということになるからだ。

この点についても、知的財産権の価値評価が低いという意味では、フォードだけが特別なのではないという指摘もある。ある時、異業種から自動車産業に進出した企業から次のような声を聞かされた。「自動車産業は、ソフトやノウハウ等の付加価値に対価を払うという異業種では当然の市場原理が働かない特殊なムラ社会。耐久性など要求が高い割に価格建ては業界全体としてコストプラスの発想を出ないので、設備投資や最新技術投入の動機付けに薄い。」こうした認識が広まると、自動車産業の革新と成長の抑制要因になる恐れがあり、業界全体で考えなければならない問題である。

とはいえ、多くの自動車メーカーがサプライヤーの知的財産権そのものを露骨に蹂躙するようなことはしていない中で、フォードの提案は突出している。
この条項に込められたフォードの狙いは、ナッサー時代のバリューチェーン戦略において小売、サービス、金融をコアとする企業への再生が進められた結果、技術開発、製品開発が遅れがちになった部分を一気に取り返そうというものだろうと推測される。

しかし、基本契約の中にこういう条項を織り込むことは、技術革新の目的遂行手段としては逆効果ではなかろうか。決め事としてこうした条項が含まれ、実際にそのように運用される恐れがあるとサプライヤーが感じた場合、フォードに対して、リスクと資金を負担して開発した最先端の技術成果を積極的に提供していこうというサプライヤーは逆に少なくなるのではないかと思う。

実際には、フォードと取引のある数千社のサプライヤーの殆どが新フォーマットのグローバルコントラクトに調印済みだという。「この契約書にサインしない限り、今後の取引はない」というプレッシャーをフォードから受けてきたのだから当然かもしれないが、その殆どはコモディティーパーツサプライヤーであり、サプライヤー側で実質的に失うものはなかったようだ。

つまり、「レモンの原理」に従って、フォードはその期待とは裏腹に、グローバルコントラクトが陳腐で二流の技術ばかりを吸引し、最も欲しかった最先端の革新的技術をますます遠ざけてしまう結果に陥るリスクが高いといえる。

この契約政策、購買政策がナッサー時代に打ち出されたものであれば理解できないこともない。フォードの作る自動車には、ハードウェアとしてのイノベーションが強く求められるというよりは、ブランドやサービス等のソフトウェアを提供していくためのプラットフォームの役割をシンプルに、効率的に果たすことの方がより強く求められたと考えられるからだ。

また、この条項は、Covisint や Everest との協調性や親和性も高いはずだ。同じ技術要件、品質要件、納期要件、生産性要件に対して最も低コストで供給できるサプライヤーは誰かという共同購買サイトの利用価値を高める上では情報の公開が避けられない。

しかし、時代は移り、冒頭述べた通り、フォード自身の企業戦略は変更されている。一言で言えば、本業回帰、本業の競争力強化であり、Covisint は売却され、Everestは清算される方向にある。
日本の自動車メーカーの内作率は 20-30% 程度で、Big3 はそれよりも多少高いとはいえ、本業の競争力向上のためには、圧倒的にサプライヤーの競争力や貢献に依存する部分が大きい。

タイミング的にも、トーラスに見られる大鑑巨砲主義を捨てて、年間 10 数万台の生産でも利益が取れる多種少量生産体制に移行する時である。
また、テキサスやノースカロライナでの訴訟や予算の制約からフォードブランドに投資してくれたディーラーだけでなく全てのディーラーに広く薄い支援しかできない状態になる。
それだけでもサプライヤーの目には、フォードに対するコミットメントや投資を強化することが得策とは映らない状況にあると思われる。
そのような環境の中で、フォードは、サプライヤーの従来以上、他社に対する以上、の協力を引き出し、技術革新のために一層の支援を要請しなければいけない環境にある。

Automotive News 誌の 8月 9日号の社説によると、Planning Perspective Inc.社が、毎年サプライヤーを対象に行なっている自動車メーカーに対する信頼や満足の調査結果として、Big3 に対する信頼度は年々低下しており、サプライヤーが経営資源を Big3 から日系メーカーにシフトする動きが見られるとのことである。

フォードの契約政策、購買政策が、法務部や購買部だけの視点で検討、決定されるのは非常に危険で、本来こうした状況を踏まえて戦略俯瞰的、戦略統合的に検証、調整されなければならないはずである。

英 Economist 誌は、「フォードの最大の弱点の一つが、独立した部署に細分化され、それぞれが異なったマーケットをターゲットとしている製品開発である。この結果、開発技術をシェアすることができず、規模の経済を享受することもできないこと」だと指摘している。製品開発分野だけでなく、あらゆる企業活動の中で部分最適ばかりが追求され、全体最適が省みられなくなっているとしたら、かなり問題の根は深いことになる。

<加藤 真一>

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