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コラム

ISM(インストア・マーチャンダイジング)入門(5)

スーパーやコンビニなどの異業種小売業態で活用されているマーケティングテクノロジーを自動車業界で応用できないかを全5回のシリーズで考えてみようというコーナーです。

最終回の今回は、「商品買上度数の向上とまとめ」です。
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過去 4 回にわたって、次のようなお話をしてきました。

(1)スーパーやコンビニなどの小売業態では、ISM (インストア・マーチャンダイジング)と呼ばれる、来店客の行動を分解して各々のポイントで店舗側が「品揃え」と「陳列」の面で効果的、効率的な刺激を与えることで、「買上客数」と「買上個数」を増やすための仕掛けが展開されている。
(2)自動車小売業では、購買意思が強くて来店頻度が極少の来店客が多いので、ISM を活用する価値と必要性はより大きい。
(3)だが、スーパー、コンビニと自動車小売業態の間では扱う商品の購買特性(店内購買決定率の低さ)、パッケージセールスの難しさ、日本の自動車小売業特有の事情という違いが制約条件となって単純な応用は難しい。
(4)日本の自動車小売業態には既成概念がはびこっている。柔軟に解釈すれば、実は自動車小売業においても、「動線長」、「売場立寄り率」、「商品視認率」、「商品買上率」を高めて、「買上客数」を増やすアイデアはいくらでもある。

今回は、買上一回あたりの買上点数を増やすことにより、「客単価」を向上させる仕組みを考えていくことにします。

●買上度数とは

繰返しになりますが、ISM の目的は「来店客の客単価向上」にあります。
これを「来店客の買上客化」と「買上客あたりの買上点数増加」に分解して、前回までは前者を考えてきたわけです。後者のことを「買上度数」といいます。

「買上度数」を増やすためにはどんな方法があるでしょうか。大きく二つに分かれます。一つは、ある商品を 1個だけ買おうとしているお客様に、同じ商品を 2 つ、3 つ買っていただく「まとめ買い」。もう一つは、ある商品に関連して別の商品をついでに買ってもらう「ついで買い」です。

スーパーでの定番は、「まとめ買い」を誘うために「2個買うとおまけ付き」、「3個まとめて買うと単品買い 3 回よりもお得」という価格設定や、POP (商品横広告)表示を行ないます。「ついで買い」を誘うために、鍋物の具材(生鮮 3 品売場)の周りに鍋やガスコンロ(雑貨売場)、ポン酢(乾物売場)や鍋つかみ(衣料品売場)等、本来他の売場にある商品を並べる陳列方法や「七味を切らしていませんか」といったショウカードの手法が採用されます。乾電池がよく置いてあるレジ周りは「ついで買い」のゴールデンゾーンです。

●ショッピングバスケット分析

上記の鍋の例(専門的には関連想起購買といいます)なら、「ついで買い」が発生するメカニズムが分かりやすいはずです。ところが、コンビニ業態には古くから「紙おむつはビール売場の近くに置け」という一件関連性の薄い「ついで買い」(非関連想起購買)の定石があります。これはどういうロジックなのでしょうか。

週末や夜間、奥さんから「赤ちゃんの紙おむつを切らしたから買ってきて」と頼まれたご主人が、紙おむつを見つけて帰ろうとしたら、自分のビールを切らしていたことを思い出して、つい手を伸ばすという購買行動が起きやすいからだそうです。そんなことをどうやって見つけたのか。脳の構造分析から出てきたものではありませんし、アンケートを取ったわけでも、店内で観察調査をやったわけでもありません。

その秘密が「ショッピングバスケット分析」または「レシート分析」といわれるものです。レジの記録を見ると、なぜかこの異質な二つの商品が同時に買われていることが多い、それも週末と夜間に限って、ということをコンビニの本部が発見したのです。それがなぜなのかは分かりません。 そこで、レジで買上客のデータを入力するようにしたのです。そのデータとつき合わせて見ると、30 代前半の男性が週末と夜間に紙おむつと一緒にビールを購入していること、そういう客層が買上客の中でかなりの数になることが分かりました。「なるほどそういうことか」というわけで、上記の仮説に辿りつき、週末や夜間に意識的にビールの隣に紙おむつを置くようにしたら売上が急増したことで仮説が実証されたというものです。

第 1 回で、ISM とは「小売店頭における価値工学」だという専門家の定義を引用しましたが、スーパーやコンビニでは「ついで買い」を誘う手法も(最初は偶然でも)勘や思いつきではなく、科学なのです。

さて、ここでこのシリーズのテーマに戻って、「まとめ買い」や「ついで買い」の手法が自動車小売業態でも使えないだろうか、と考えてみましょう。 普通に考えれば、「シーマを 2台買えばマーチが付いてくる」とか、「ワゴン R を 1台ずつ 3 回買うより一度に 3台買った方が 3 割お得」といったアプローチが自動車の世界で通用するはずがありません。冬場にパジェロの周りにスノーボードやストーブを置いても多分誰も買っていかないでしょう。

しかし、そこで思考停止してしまっては自動車小売業態への ISM 導入はいつまで経っても進みません。いくつかサンプルをご紹介しますので、これを参考にして頭を柔らかくしてみて、もっと効果的な方法を発案してみてください。

●自動車小売業態における「まとめ買い」

厳密な意味での ISM の対象は、「店内」での購買決定であり、「まとめ買い」はある商品の購買時点で同時に発生するもののことを指します。
しかし、前回触れたように、訪問販売が中心の日本では「店内」の概念を営業マン自身もしくはその活動範囲まで広げて考える必要がありますし、日本では即納が出来ないカタログ販売が中心ですから、時間軸も少し広げて考えることが可能だと思います。
2個目、3個目の商品の購買が 1個目の購買の時点でのマーケティング活動によって引き起こされたと考えるに足る因果関係が認められる限りは、広い意味での「まとめ買い」が成立したと考えてよいのではないでしょう
か。

◇オートリース、バルーンペイメント
そうすると、オートリースやバルーンペイメント(残価設定型ローン)は「まとめ買い」を誘発する ISM の一つということができます。
リース満了時やローン最終回支払時に、お客様は店舗(営業マンを含む広い意味での店舗)に戻ってくる必要があります。その際に買取や再リース(ローン)という選択肢もありますが、代替した方がお得なように商品設計しておけば代替が促進されるでしょう。
昨今、5年リース契約ながら 自社ブランドへの乗り換えに限り 3年経った時点で解約可能という商品が登場しています。さらに乗り換え手数料を割安に設計しておき、3年時点での乗換えを一層促進する方法も考えられます。

◇2台目特典購入権
さらに店内の概念を営業マンの活動範囲(テリトリー)まで拡張して考えれば、後日奥さんやお子さんが自動車を購入される際にも同じお店で買
っていただくための仕掛けも ISM の「まとめ買い」誘発装置です。
第 2 回で触れた通り、地方では一家で 3台、4台の自動車を持つ家庭がざらにあります。1台目の購入時点で 2台目、3台目を購入される場合に有効な特典購入権(義務ではなく権利)を渡しておけば、2台目需要が他ブランドや他店に流出することを防ぐことに少しは貢献するでしょう。

◇紹介謝礼
ダイハツのお店であれば、ダイハツ以外の自動車からの乗り換え客を紹介してくれたお客さんに成約 1台につき 2 万円等の成約報酬を支払うというもので、クレジットカード業界によく見られる手法です。

先ほどの「2台目特典購入権」や、この「紹介謝礼」が、ISM の「まとめ買い」の一つだというと、学者や専門家からは異論が出るでしょう。それは 最早 ISM の世界の話ではなく、ブランド(ストア)ロイヤリティやプロモーションの話だと。このシリーズに一貫した筆者の主張ですが、そのように狭く固定的にモノを捉えるから、店舗側に当事者意識や具体的施策のイメージがなかなか沸かないのではないでしょうか。
定説としてマーケティング全体の中でどこに位置付けられるかということを議論するよりも、店舗の理解や行動に繋がるロジックの方がよほど意味があるのではないでしょうか。

●自動車小売業態における「ついで買い」

米国では商談が成立すると、F&I オフィスと言われるところに連れて行かれ、そこでローン、自動車保険(場合によっては生命保険も)、延長保証契約の商談を行なうことになります。米国のディーラーでは新車を 1台売っても殆ど利益がなく、新車部門ではローンの利鞘や保険のキックバックが重要な収入源になっていることが、独自のクロージングプロセスが生れる背景にあります。経緯はともあれ、ISM の側面から見ると、これこそ
が「ついで買い」を狙った施策の極致です。

新車販売の収益性が低いのは日本も同様ですが、日本の文化や社会はF&I オフィスをあまり受け入れないでしょう。もう少しスマートな日本流の「ついで買い」の仕掛けが必要だと思います。

◇商談成立直前の視認

レジ周りが「ついで買い」のゴールデンゾーンだと述べました。また、「ついで買い」誘発の手法として、陳列とショウカードがあるとも述べました。要は、目で見る、気付かせる、思い出させる方法です。

<陳列>
前回、「商品視認率向上」の仕掛けに触れた際に、PC 端末を使ってバーチャルに商品を体感してもらうことを提案しました。商談終了間際にこれをもう一度使って、様々なカスタマイズパーツや、ディーラーオプションを見せる方法があります。

これらの商品は一度は見たものですが、長い商談プロセスを経て、商談成立近くになると、ローンの計算が気になってすっかりお客さんの頭から離れてしまいがちです。レジの周り(商談の終盤)に置いて「見せる」ことが、気付きの機会、想起の機会になります。
<ショウカード>
「こするかも保険」のような陳列の難しい商品には、「冬の鍋物コーナー」に置く「七味を切らしていませんか」というショウカードのアプローチが有効ではないでしょうか。
商談テーブルやサービスショップの待合室に、「クルマのこすり傷が気になる、でも財布の保険の等級も気になるから直せないという方へ」「ビギナーの味方」といった POP やショウカードを置いてみる方法があります。

◇ショッピングバスケット分析

これだけでは科学になっていません。先ほどの「ビールと紙おむつ」のように、統計的にどんな顧客層がどんな「ついで買い」をしているのかを分析した上で仮説を立て、最も効果的な陳列を考える必要があります。 しかし、自動車の場合は「ついで買い」の機会も、顧客サンプル数もコンビニ等より圧倒的に少ないので、店内での「ついで買い」のデータだけを集めて分析(レシート分析)してもあまり効果的な成果を生まないのかもしれません。

少し、発想を変えて考えてみましょう。
店内での「ついで買い」だけでなく、自動車購入とほぼ同時期にお客さんが購入した商品は何かを(商談中のヒアリングで)データとして集めて、大きな買い物カゴの「ショッピングバスケット分析」をするのです。
すると、何か出てきませんか。新車とほぼ同じ時期に、新居に引っ越した、大型家具を買った、カーテンとカーペットも買った、エアコンと冷蔵庫を買い換えた、(買ったわけではありませんが)子供が生まれた、等。

その結果が意味するところを推論するわけですが、大型家具、カーテン、カーペット、エアコンの購入は、新居引越しの結果出てくる従属要因かもしれません。子供の誕生は、新居引越しの動機になったかもしれませんが、引越しの結果とは考えにくいので独立要因でしょう。
そうすると、自社の商圏内で新車を購入する人の中に「新居引越しか、子供の誕生を機会に新車に買い換える人」が沢山いることが分かりますから、次に取るべき施策のイメージが沸いてくるはずです。

住宅販売会社、大型家具店、カーテン業者、家電量販店、ベビー洋品店との共同展示会、顧客の相互紹介、特典(ポイント、クーポン等)の相互乗り入れ等です。また、新築住宅、引越しトラックの搬入先等の情報は訪問販売先のリストの更新情報として入れておく必要があります。
自動車小売業態では「ついで買い」アイテムがあまりないと言われる中で、「この車種に最適設計された」という POP を付けたチャイルドシートなら、立派な「ついで買い」品目になるでしょう。

<まとめ>

5 回にわたるこのシリーズでは、第 1 回で ISM の概念、目的、基本公式と主要施策を説明し、第 2 回では ISM 導入にあたってのスーパー、コンビニと自動車小売業態との共通点と相違点を整理しました。第 3 回以降は、基本公式と自動車小売業態の特殊性や制約条件を踏まえた ISM 導入の具体的施策例、応用展開例を提示してきました。

ここまで読んできて、小売現場からは「そんなことでクルマが売れたら現場の苦労はない」という異論が出てくるかもしれません。その通りです。ここで提示した施策例は議論を誘発するための叩き台に過ぎません。「もっといいアイデアがあるぞ」という提案が小売現場で続々と上がってくることを期待してこのシリーズを始めたといっても過言ではないのです。

現在、日本の自動車の小売現場には「既成概念」と「無力感」と「他者依存」の3つがはびこっていると感じます。

「既成概念」とは、このシリーズで上げてきたような、ディーラーの店舗レイアウトはこんなもの、スーパーと車の売り方は違うもの、「商品視認率」なんか改めて議論しなくてもお客さんにはショールームでちゃんと視認してもらっている、自動車には「まとめ買い」なんかありえない、要するに今のディーラーのあり方が唯一不変のものと思っている業界の常識のことです。

「無力感」というのは、自動車ディーラーは所詮自動車メーカーの支配下にあり、品揃えや価格設定の自由度もない、従ってディーラーが自己裁量、自己責任で出来ることは接客と商談のマネジメント以外に殆どないという諦めのことです。新車部門では特にそういう感覚が強いようです。

「他者依存」というのは、既成概念と無力感の結果、(A) ディーラー経営の主要課題が、自動車メーカーから如何に多くの理解と支援を得るかということに向かいがちであることと、(B) ディーラー内部でも、品揃えや店舗レイアウト、情報インフラ等のマネジメントレベルでの課題が軽視され、営業マン個人の接客技術やクロージング能力ばかりに焦点があたりがちということを指します。

このシリーズで述べてきたことは、結局、科学を武器にした、自動車小売業態における「既成概念」と「無力感」と「他者依存」の打破なのです。 業界の常識の中には科学的根拠がないもの、矛盾するものが多数あります。無力だと思われている仕事領域の中にも実は考え方次第、やり方次第で出来ること、まだ手を付けていないだけのことが沢山あります。自動車メーカーや営業マン個人の能力や技術に依存するばかりでなく、小売店舗自身ができること、マネジメントがやるべき仕事が一杯あります。
そうしたことに自動車小売業のマネジメントが早く気付き、実行に移して欲しいと、切に思います。

なぜかといえば、自動車小売業態でも「他者依存」はもう成立しなくなり始めています。自動車メーカーは、専売制の顧客接点を多数保有することの恩恵よりも、その維持コストの高さが気になり始めています。オートロックマンションが増え、訪問販売が難しくなってきたことで、ディーラー内部でも営業マン個人の能力に依存した従来型のクロージングプロセスが成り立たなくなってきています。
「無力感」に苛まれて、何も考えない、何もしないのではなく、制約条件を意識しながらも出来ることは何かを考え、出来ることから実行に移して行こうではありませんか。
幸い、他店はまだ「既成概念」に囚われていますから、その壁を一足先に乗り越えることで競争優位に立てる可能性は高いと思います。
自動車小売業界内部の革新力に期待しています。  <完>

<加藤 真一>

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