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コラム

ソフトウェアとクルマの安全技術

◆トヨタ、眼の開閉状態も検知するプリクラッシュセーフティシステムを開発

運転者の顔の向きに加え、眼の開閉状態も検知する『進化したドライバーモニター付プリクラッシュセーフティシステム』を開発。2月に発売する予定の新型車に採用すると発表。新型「クラウン」に搭載されると思われる。

自動車事故の要因の大半が運転者の認知ミスという実態を踏まえ、運転者の状態把握に一層着目し、運転者の眼の開閉状態を検知する機能を採用した。具体的には、ドライバーモニター用のカメラと画像処理コンピューターを用いて運転者の上下まぶたの位置を検出し、その位置関係から眼を開けているか閉じているかを判断する。

現在、高級車を中心に16車種に採用されているシステムは、レーダーで障害物の接近を検知すると衝突3~4秒前に警報が鳴り、ブレーキがかかる。新システムは、ドライバーが正面を向かず、目を閉じている状態が長い場合、従来より2秒程度早く作動することができ、衝突被害の軽減などが図れる。

<2008年01月22日号掲載記事>

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【トヨタの先進プリクラッシュセーフティ技術】

トヨタが、さらに進化したドライバーモニターを組み合わせたプリクラッシュセーフティシステムを開発した。今月発売予定の新型クラウンに搭載されるという。これまでレクサスの一部の車種等に搭載していたドライバーモニターは、運転手の顔の向きを監視し、正面を向いていないことを検知し、衝突の可能性が発生したときにいち早く警告するというものであった。これに加え、今回開発した技術では、顔の向きに加え、運転手の眼の開閉状態を検知することで、より早いタイミングで警報を発することが可能になるという。

今回の技術も、キーとなるのは、画像処理技術である。昨今、コンパクトデジタルカメラでも、顔自体を認識する技術、表情(笑顔)を認識する技術を積極的に採用しているが、こうしたソフトウェア等の高度化が自動車業界でも進んでおり、着実に進化している。

この技術によって、これまで防げなかった事故を回避することができるはずであり、クルマとしての安全性が向上していることは間違いなさそうである。しかし、このシステム、クリアランスソナーやサイドモニターなどの他のシステムとのセットオプションで設定され、その価格は 66 万円になるという雑誌の記事を見かけ、少し気になった。(勿論、発売前なので、実際にどうなるか、現時点では不明である。)

消費者にとって、このオプションはどう捉えられるものなのであろうか。今回は、ソフトウェア技術や安全技術の開発のあり方について考えてみたい。

【ソフトウェア技術の対価は?】

クルマの電子化は日進月歩で進んでいる。昨日、某有識者の講演を聴講したが、そこでも、「90年代後半には 20 %ちょっとであった電子化比率(製造コストに占める電子部品のコストの割合)は、今は 30 %を超えており、今後(自動車における)新システムの 90 %はカーエレクトロニクス関連になる」という話があった。そのカーエレクトロニクス分野の中でも、最も開発余地が大きく、拡大する可能性を秘めているのが、ソフトウェア技術であろう。

一方で、このソフトウェア技術であるが、自動車業界の慣習には馴染みにくく、取り扱いが難しいものでもある。

機械部品、特に素形材部品であれば、形があるものであり、その原材料、加工手段等により、部品の原価がおおむね決まってくるものが多く、自動車メーカーがその部品を調達するにあたっても、その相場感も形成されている。一般的に、自動車業界では、その部品の開発・設計に要した工数・コストよりも、原材料の調達・生産に要した工数・コストが重要視されて、その部品の価格が決まっていく傾向がある。自動車メーカーが主体的に部品の開発に関与し、図面を支給するのであれば、それでも問題なかったのかもしれない。

しかしながら、ソフトウェア技術となると、必ずしも、自動車メーカーが得意な領域ではなく、相場感の形成も難しい。いわゆるブラックボックス化である。そのソフトウェア技術の工数・コスト算出やそれを含む部品の価格決定はこれまで以上に難しくなるはずである。

今回のトヨタのドライバーモニターが、トヨタ自身が開発した技術なのか、サプライヤが開発した技術を採用したものか確認していないので、あくまで仮定であるが、仮にこれがサプライヤが開発した技術だとすると、その価格はサプライヤが提案してきた価格通りに決まるものなのだろうか。

今回追加になった画像処理技術が、ソフトウェアの高度化によって実現したものであり、ハードとしての部品は何も追加・変更がなかったとすれば、ソフトウェアの開発コストはかかっていても、部品自体の製造原価に乗せられるのであろうか。もし乗せられるとしても、サプライヤがさらに開発を進める意欲をそそられるような利益が出るぐらいの上乗せが可能なのであろうか。

【消費者はお金を払うのか?】

そこで、視点を変えて、消費者の立場も考えてみたい。

新技術の採用に伴い、消費者にわかりやすいメリットを提供できるようなものであれば、消費者もそのコストをオプション代として払いやすい。

例えば、カッコいいデザインのアルミホイールに変えたい、エアロパーツを付けたい、といった従来型の素形材部品であれば、消費者にも相場感が浸透しているし、欲しい人はそのオプション代を払って買うであろう。カーナビなどについても、十分市場に普及した今では、消費者の相場感が形成されており、欲しい人は選択するであろう。

ソフトウェア系の先進技術であっても、そのメリットがわかりやすいものであれば、消費者に伝わる。かつて、現行プリウスが発売された時に話題となったインテリジェントパーキングアシスト(自動で縦列駐車等を行うシステム)や、現在日産が CM でも積極的にアピールしているアラウンドビューモニター(上空から見ているかのような画像を表示することで、スムーズな駐車を支援するシステム)などは、消費者にとってもわかりやすい利便性を備える機能・システムの代表例であろう。ともに、高度な電子技術・ソフトウェア技術により実現したシステムである。こうしたものであれば、欲しい人はそのオプション代を払いやすい。

これらのように、消費者がその対価を払う部品・システム・機能であれば、自動車メーカーもサプライヤにそのコストを払いやすいはずである。

ところが、今回のような安全系のシステム・機能では、なかなか消費者には伝えにくい部分もある。例えば、従来型の顔の向きだけ検出するシステムの場合は○○円だが、これに眼の開閉状態を検知する機能を追加すると 5 万円高くなる、と言われ、高い方を選択する消費者はどれぐらい存在するだろうか。

特に、プリクラッシュセーフティ技術のようなシステム・機能の場合、実際にその機能を発揮する場面を想定できる消費者がどれぐらいいるか、難しい。エアバック等のように、今や当たり前のように装備されている、いざ衝突した時に守ってくれる、保険料も安くなる、というように、パッシブセーフティ技術であれば、まだわかりやすいし、その対価も払いやすい。しかし、ほんの数秒(コンマ数秒?)早く警告してくれるその新しい機能にどれだけの価値・ニーズがあるか、というと疑問である。

【安全なクルマを作るということ】

では、今回のような、プリクラッシュセーフティ技術が不要かというと、決してそういうわけではない。危険な状態を、早く警告する機能が備わることで、クルマの安全性が高まることは間違いない。

こうした安全系の技術・システム・機能については、消費者のニーズを踏まえて個々の技術を開発するというよりも、個々の技術を追求して実現した総合的なクルマの安全性を訴求していくべきものであるかもしれない。もっと言えば、追加費用を払って、オプションを付けた人だけ安全になる、というよりも、全てのクルマに搭載して、安全な交通社会に寄与する、という方が理想的だと考える。

安全なクルマを作ることは、自動車業界に課せられた大きな使命の一つであるはずである。ここ数年、交通事故死者数は毎年減少してはいるが、依然として年間 5 千人以上の方がなくなっていることも事実である。持続的に自動車業界を成長させていく上では、より安全な車を追求することは、避けては通れないテーマである。

そういう観点では、先進的な安全技術の開発は、消費者のニーズに関わらず、自動車メーカーが主体的に取り組むべき領域であり、その費用は、一種の IR 活動として割り切るべきものかもしれない。多少先行投資的になっても、他社よりも安全なクルマを作っていることが浸透したり、ヒヤッとしたときにプリクラッシュセーフティの恩恵に授かる人が増えれば、徐々にニーズも高まってくるのではなかろうか。

こうした先進的な安全技術を開発していく上で、サプライヤからの新技術導入は不可欠である。そのためにも、これからの先進技術とは切っても切れない領域であるソフトウェア技術の対価も正当に評価して、その開発・採用を促進するべきであるし、自動車メーカー自身もソフトウェア技術を高度化させていく必要があるはずである。ソフトウェア技術に代表される電子技術を高度化により、「事故を起こさないクルマ」の実現を期待したい。

<本條 聡>

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