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コラム

e が G を加速させる時代の自動車事業

◆米 GM、イーベイ(eBay)でオンライン販売を試験実施。11日から9月8日までカリフォルニア州の消費者らは「極めて魅力的な価格」で購入できるという。

<自動車ニュース&コラム 2009年 8月11日号>

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GM とインターネット競売最大手のイーベイ(日本のヤフーオークションに相当)は 8月 10日にカリフォルニア州の GM ディーラー 225 店が取り扱う「新車」を試験的にオンライン販売すると発表しました。期限は 09年 9月 8日までの 1 ヶ月弱。最大 2 万台の新車在庫をオークション形式のみならず提示価格ベースでの販売にて提供していく予定で、オンラインでの価格交渉も可能となるとのことです。

【購買行動の完結にまでは至らない自動車オンラインビジネス】

米調査会社 JD パワー & アソシエーツの調査によれば、米国における新車購入者が購入や事前調査の段階でインターネットを利用した比率が 2007年の 70%から昨年は 75 %超へと上昇したとのことです。
また、インターネットを経由した自動車購入の前年比伸び率は 01年に計測を開始して以来最大の伸びを示したとのことで、ネットが自動車流通に与える影響は確実に拡大していることが分かります。
しかしこうした消費者行動の変化はあるものの、これまで自動車のオンライン販売は所謂マーケティングにおける AIDMA* の最後の A である Action (購買行動)にまで至ることは殆ど無かったものと思われます。

*AIDMA
Attention (注意)
Interest(関心)
Desire(欲求)
Memory(記憶)
Action(行動)

インターネットには、「広く点在する情報を検索して比較することを容易にする」という利点があります。その意味においても、上述 75 %のインターネットを利用した購入者の殆どが、所謂最近ネットでの購買行動プロセスを表すAISAS* においても Search (検索)までの利用で留まっているものと考えられます。

*AISAS
Attention (注意)
Interest(関心)
Search(検索)
Action(行動、購入)
Share(共有、商品評価をネット上で共有しあう)

自動車においてネットで購買行動にまで至らなかった理由としては以下のようなものがあったと思います。

1)商品の状態や品質(傷やエンジンの状態、色や艶、形など)をネット上で確認できない。
2)商品の試用・使用体験をネット上で完結出来ない。
3)ローンや保険といった付帯サービスを一括してネットで完結することが難しい。→これは徐々に解決されつつあります。
4)登録手続きや車庫証明などの手続きがネットでは完結できない。

よって、これまでの自動車販売とインターネットとの関わりのパターンは、主に以下 4 つとなっていました。

・新車情報提供タイプ
スペックや発売時期、オプションなどの情報を提供する
・新車見積もりの仲介タイプ
ネット事業者が自動車ディーラーへ見積を仲介する
・中古車情報検索タイプ
既存の中古車情報誌のオンライン版
・買取見積仲介タイプ
カービューに代表される、ユーザーが自動車を手放す際に複数事業者に見積依頼を仲介するもの。

今回 GM がトライアルで実施するインターネットによる新車販売も、「最終購買ステージはディーラーを訪問して」となるとのことですが、以下二つの理由から、実は大きな可能性を秘めていると思います。

【 GM がネット最終購買までつなげる可能性①メーカーの扱う新車であること】

上で分類した 4 つの「これまでの自動車販売とインターネットの関わりパターン」のうち、最初に挙げた情報提供タイプ以外に全て共通するのは、「顧客の情報を仲介するビジネスモデルである」ことと、「扱い商品が中古車であること」。逆に言えば、「新車」の「販売」ではないということです。
インターネットで新車を直販 * するサイトは、日本でも 10年ほど前には複数存在していましたが仕入ルートの問題と運転資本の困難が伴い、現在では存在しません。

* 厳密には、ディーラーに一度卸売されたものを業販仕入れ・顧客向け販売。
しかし、メーカー直販新車が存在するとすれば話は異なります。少なくとも商品の状態や品質については一定以上であることを消費者は期待出来ますし、10年前当初に存在したベンチャーが上手くいかなかった理由の仕入れルートの問題は存在しません。また、運転資本の困難についても、通常ディーラーに与えている支払猶予期間を考慮すれば全く問題ないはずです。

【 GM がネット最終購買までつなげる可能性②ディーラー網整理の結果として】

また、インターネットを活用した新車の直販で必ず問題になるのが既存の流通網です。米国であっても、自動車メーカーは自分の商品を販売させる場所として、契約を以ってして自動車ディーラーをアポイントしており、取扱商品を制限する代わりにその採算性に関してメーカーポケットからの軍資金持ち出しで負担しているというのが実情です。
インターネットを使った新車の直販を実施しようと思うと、この既存の流通網をどうするのか、という問題は常に付きまといます。
しかし、GM の場合はこの度のチャプター 11 を通じて、ディーラー網の大幅な整理を実施したことに加えて、新たな契約を新会社で締結しているという実態があります。
新会社による既存ディーラー網整理後の、新契約に基づく新たな流通手法のトライアルには大きな可能性があります *。
* 前述の通り、今回のトライアルではディーラー在庫を eBay に掲載することと、ディーラーでの契約締結を前提としていることから、まだまだこれからの話ではあります。

【日本との差・在庫負担はメーカーかディーラーか。日本のほうがやり易い】

実は日本と米国の新車流通で一番異なるのはディーラーでの在庫の持ち方です。スペースに限りが有る日本の場合、基本的には極めて限定的な人気車種の店頭在庫のみを置いて、顧客が注文書を書いた後にメーカーにディーラーがクルマを発注するケースが多く、ディーラーはあまり在庫を保有しません。一方、米国の場合はメーカーからクルマを買い取り在庫として所有しながら、広い土地に可能な限りの在庫を置いて販売を行っています。
また、上述在庫の持ち方同様に相対的な比較でしかないですが、日本のディーラーにはメーカー資本系列のところも多数存在します。
これらの点から、実はメーカーが本当にやる気になれば新車の販売をオンライン化するという点では、日本のほうが寧ろやり易いという環境要因があるのではないでしょうか。

【 e が G を加速させる時代】

米国における今回の GM による試験は、飽くまでもチャプター 11 後の小手先の見え方の工夫なのかもしれません。しかし既存流通網が重石になっている状態という意味では、販売台数・売上の右肩増を期待できない日本のほうが重症であるのは間違いありません。e-Business の力によって、General Merchandizing の Distribution を如何に機能ごとに代替していくかは、一般商品における傾向からすると間違いない将来の方向性であり、自動車においても大きなテーマです。

その意味では、行政(政治)がやれることは週末の高速道路 1,000 円化による自動車使用価値の実質相対的低下ではなく、登録や税支払いなどの領域におけるインフラ整備など、まだまだたくさんあります。(以下、筆者コラム参照まで)

『欲しい車を特定したうえでディーラーを訪ね、契約書に押印したら納車まで平均何日待たされる?』

特に人口増加が期待出来ない日本においては、e-Business の活用 による売上増加に伴う人件費抑制という、これまでの e-Business の定説である収益逓増の法則を狙うということのみならず、売上減少による人件費抑制と付加価値低下を如何に IT により代替するか、ここで生み出された余力をもって異なる領域への注力へと充てることが出来るか、という観点で重要になっていくと思います。

自動車流通を IT の力によって変革していく企業が「日本発で世界に羽ばたく」、というのは人口減・高齢化の面で世界を(残念ながら)リードする日本という環境からすると強ち夢物語ではないと思います。

<長谷川 博史>

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