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コラム

業界再編の目的の変化を考える

◆スズキと独VW、包括提携に基本合意したと正式発表。世界首位に

<2009年12月09日号掲載記事>

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【スズキと独 VW の提携】

厳しい局面であった今年の自動車業界であるが、年末を迎え、大きなニュースが発表となった。先週のスズキと独 VW との提携発表である。鈴木修会長とヴィンターコルン会長の共同記者会見はテレビでも大きく取り上げられ、あらゆる新聞、メディアの報道が業界を賑わせた。

今回の提携に関し、両社は、商品ラインナップや生産・販売地域の相互補完と、環境技術への共同対応の二つを提携の目的として掲げている。これに対し、各メディアは多様な側面での両社提携の効果を説明している。

小型車・低価格車技術に長けるスズキのエコノミーと、次世代環境車の開発を進める独 VW のエコロジーの融合。日本・インドに強いスズキと欧州・中国・南米に強い独 VW による地域戦略補完。低コストで良質の小型車を追求するという目的の一致。両社合わせて、世界トップクラスの生産・販売台数という規模の実現。エンジン・車両とも製品レンジが重なるからこそ可能になる部品の共通化やコスト低減。等々。

どの側面も効果が期待されるものであると思う反面、どれかだけを目的にしたものでもないであろう。それこそ、提携効果が実現するかどうかは、これからの両社の舵取り次第のはずである。

今回は、こうした自動車業界の再編の目的について考えてみたい。

【業界再編の目的の変化】

90年代後半、自動車メーカーの業界再編が大きく取り上げられていた時代、各社の目的は規模の追求であったと言われていた。それこそ、400 万台クラブという、今では死語になったような言葉が氾濫していた。

しかし、こうした規模追求型の資本提携が必ずしも成功に至るわけではないことは、読者の皆様も認識されていると思う。世界のどの地域でも年々市場が拡大している局面ではこうした規模追求型が上手く効果を発揮する可能性はあるものの、現在のように厳しい市場環境においては、その規模が大きな負担となって返ってくることもあるはずである。

一方、昨今の米国主要メーカーの経営危機に伴う業界再編では、違う方向性が見られた。詳細は、下記の弊社秋山副所長のコラムを参照して欲しいが、買収する側が買収対象の欲しい部分を良い所取りする形である。

『業界再編により一層カオス化する自動車業界』
 
特に米 GM の事業切り売りに至っては、先進国の自動車メーカーだけでなく、中国地場系自動車メーカーや投資ファンド等も名乗りを上げ、買収する側が買収対象に払える金額だけが重視され、事業統合による戦略等が後回しにされている感じさえあった。経営状態が厳しい企業をどう再生するのか、そこに目的があったと考えられる。

今回のスズキと独 VW との提携は、90年代後半からの業界再編や、昨今の米系メーカーの事業再編と比較すると、全く違うベクトルのものだと考えられる。世界的に厳しい事業環境とはいえ、両社の経営状態は、業界内では勝ち組である。その両社が手を組む目的は、規模の追求という短絡的なものでも、直面する経営危機の回避という一時的なものでもなく、もっと長期的で多面的な視点に基づくものであると考えられる。

【商品ラインナップ構造の変化】

昨今の景気動向による一時的な要因を抜きに考えても、自動車メーカーを取り巻く事業環境は決して楽観視できるものではない。自動車業界に求められる環境・安全といった社会的な責任は年々増大傾向にあるからである。去年と同じレベルの改善に取り組んでいるだけでは取り残される、そんな状況にある。

当然、開発側のリソースは慢性的に逼迫する傾向にある。特に環境問題に取り組むためには、各社がクルマという製品自身の多様化に迫られているからである。

これまで自動車メーカー各社は、ガソリン車(地域によってはディーゼル車も)を主軸にした階層構造の商品ラインナップを展開してきた。つまり、小さいクルマの方が安くて、大きいクルマになればなるほど高級感を増す、というような構図である。

しかし、昨今の環境問題に対応する次世代自動車の登場により、この商品ラインナップが大きな変化を迎えつつある。多様化するハイブリッド車、満を持して登場した電気自動車、性能向上を続けるクリーンディーゼル車、更なる技術革新が期待される燃料電池自動車、等々。それぞれのパワートレインの特長を活かし、用途や使用頻度、地域や利用環境に合わせて最適な選択肢を使い分ける、共存する市場環境が見え始めている。つまり、自動車メーカーとしては、こうした新たな基軸にも対応する多次元型の商品ラインナップを展開していく必要が生じることになる。

【自社の役割と戦略を再考する】

そう考えると、自動車メーカー各社が自社単独で全てをカバーしていくというフルライン戦略は、これまで以上に難易度が高まっていくはずである。当然、自社で取り組む領域、ラインナップを選択し、経営資源を集中させることも必要になるであろう。

こうした局面を今後迎えることを想定して、共通の課題認識を持ち、相互補完関係にあるパートナーと提携するというのも有効な戦略の一つであろう。今回のスズキと独 VW の包括提携も、まさにこうした意図を持ったものであるかもしれない。

筆者は、資本提携だけが、この時代に対応する唯一の戦略ではなく、あくまでも選択肢の一つだと考える。全てのメーカーが資本提携を目指して業界再編を進めるという必要もないはずであり、そうした戦略を取れる自動車メーカーも限られるのではないだろうか。自社の強みと弱みを認識した上で、必要な機能や領域に強いパートナーと提携する方法自体は、もっと柔軟な形で進めるべきものかもしれない。

そういう意味では、提携先としても同業他社だけではないと考える。他の移動体と融合した製品開発や、他の商品と連携した販売も考えられる。自動車業界が今後どういう方向に向かっていくのか、将来のクルマ社会がどんな形になっているのか、そうした将来図を描いて既成概念に囚われず、自社の役割と戦略を柔軟に再考することが、近い将来、再び自動車業界が勢いを取り戻す時に大きな力となるのではなかろうか。

<本條 聡>

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