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コラム

顧客と同じ目線に立つことが自動車シフト成功の鍵

◆三菱化学、顧客企業との共同開発拠点「カスタマーラボ」を開設

<2007年03月18日号掲載記事>

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【三菱化学の自動車シフト】

三菱化学は今月、四日市事業所に、顧客企業との共同開発拠点「カスタマーラボ」を開設した。試作から、様々な試験、製品評価ができ、中部地区に集積する自動車産業との共同開発態勢を整えることで、自動車関連事業の拡大をめざす。

同ラボには、バンパーや内装パネルなどを試作する大型の射出成型機や、温度・湿度など異なる環境下で樹脂の性能評価ができる環境試験室などもある。

4月には自動車や自動車部品メーカーとの窓口組織である「自動車関連事業推進センター」を新設する予定であり、同ラボも活用し、グループ全体での自動車産業向けの国内売上高を、05年の 1100 億円から、2015年には 4000 億円に拡大する計画だ。

「自動車関連事業推進センター」にはグループの自動車分野における総合力を発揮するため、三菱化学本体のオプトエレクトロニクス事業部、機能性樹脂グループ、HEV 推進部のほか、自動車に関連するグループ内の主要な子会社、関連会社が参加する予定である。
また、「自動車関連事業推進センター」はマーケティング部と開発部から成り、マーケティング部は、複数の事業にわたるテーマや新素材に関するお客様のニーズを取り扱う総合窓口の機能を、開発部は、マーケティング部の情報をベースに複合素材や新素材・モジュールなどの次世代テーマに関しての共同開発を推進していく。

【素材メーカー各社の取り組み】

自動車業界は環境、安全対応として、車両の軽量化や電子化といった取り組みを推進しているが、高機能樹脂や高機能繊維、電子材料といった材料面からのアプローチが必須の状況となっている。そのような新素材に関する知識、技術はこれまで自動車業界内に十分蓄積されてきたわけでなく、業界外に目を向ける必要があるが、それに呼応するように、素材メーカー各社も自動車業界に注力する姿勢を打ち出している。

代表的な企業の名前を挙げると、今回の三菱化学に加えて、東レ、帝人、デュポンなどが該当するだろう。

東レも、三菱化学同様、繊維や樹脂、フィルムなど 5分野を横断的に統合した社長直轄の「自動車材料戦略推進室」を 2006年 2月に設置しており、2005年度実績 1000 億円の自動車業界向け売上高を、2010年までに倍増させる計画としている。

東レが特に注力しているのが、車両の軽量化に大きな効果を発揮すると考えられている炭素繊維である。炭素繊維強化プラスチック(CFRP=Carbon FiberReinforced Plastics)は、炭素繊維にエポキシ樹脂などの高分子材料を含浸した後、硬化させて成形した複合材料で、強度に優れ、鉄やアルミなどの金属に比べ、同じ強度・剛性であっても、より軽量化できるという特長を有している。

CFRP は既にプロペラシャフトやリアスポイラーなど、自動車部品の一部に採用されているが、シャシーやボンネットなど車体の根幹をなす部分への採用はこれからの段階である。東レは「自動車に使われている鋼材のすべてを炭素繊維に置き換えたとしたら、車両重量を 2~ 3 割軽量化できる」としており、今後更なる注力をしていく方向である。

帝人は 2006年 2月に公表した 2006年~ 2008年の中期経営計画『 STEP UP 2006 』の中で、全社増分営業利益の 80 %以上を「自動車・航空機」「情報・エレクトロニクス」「ヘルスケア」「環境・エネルギー」の「注力 4 市場」で確保するとしている。

産業用繊維における強みを生かし、先述の炭素繊維に加え、アスベスト代替材料としての用途が見込まれるアラミド繊維に注力しており、既にブレーキパッドの材料として採用されている。その他、PET (ポリエステル) 繊維とアラミド繊維の中間に位置づけられる PEN (ポリエチレンナフタート)繊維がブレーキホースや V ベルトの補強材として使用されている。

また、世界第 2 位の化学メーカーであるデュポンも 2005年 11月、愛知県名古屋市にオートモーティブセンターを開設している。オートモーティブセンターには自動車分野に関する 7 つの事業部と合弁会社を含む 5 つの関係会社が参画し、自動車に関する技術開発、技術サポート、マーケティング、プロジェクトマネージメントなどのさまざまな機能を結集し、自動車業界に対する提案活動を強化している。

【顧客と同じ目線に立つことの重要性】

上述の通り、素材メーカー各社はアグレッシブな目標を掲げ、自動車業界専用の組織をつくり、自動車シフトを鮮明にしているわけだが、子会社で一部、部品の成形まで手がけるところはあっても、狙いはあくまで自動車材料の売上拡大にある。

今回のニュースの三菱化学についても狙いは同様であり、そういった立場にありながら、カスタマーラボに試作のための大型の射出成形機や試験設備などを導入している点は、素材メーカーが自動車業界に注力していくうえで、示唆に富んだ事例ではないかと思われる。

昨今、B to B ビジネスでは自社の顧客や競合他社のみならず、顧客の顧客や競合他社までを視野に入れて、ビジネスを行うことが必要だといわれている。言い換えれば、顧客と同じ目線に立ち、顧客のパートナーとしての役割を果たすことが求められているということである。

今回の場合、三菱化学の顧客は主に成形メーカーであり、顧客の顧客とは自動車メーカーとなる。顧客の顧客であり採用の最終決定権を持つ自動車メーカーに対して、材料置換を提案することを考えた場合、素材、材料のままでは評価してもらえず、材料置換した場合の部品設計をどうするかも提案する側が行わなければならない。

そのようなことを踏まえた上で、顧客と同じ目線を持つパートナーとして顧客である成形メーカーを支援してあげることが自社のビジネスにもつながる。今回の場合、三菱化学があくまで素材メーカーであることを考えると、成形を行うにあたっての試作や試験評価は本来であれば、成形メーカーの役割である。

しかし、その部分まで材料メーカーである三菱化学が戦略的にやってあげることで、材料置換のスピードが加速し、結果的に三菱化学の自動車材料の売上も伸びるだろうし、パートナーとしての信頼性も高まることになる。

そして、素材メーカーが自動車シフトを行うに当たって、このようなアプローチは有効と考える。なぜならば、自動車業界全体として部品メーカーが納入先に対し、積極的に提案し、納入先の仕事を積極的に引き受けるという考え方が根付いているからである。

2004年に弊社が自動車メーカーに勤務している人を対象に行ったアンケートで、評価できる部品メーカーという質問に対し、デンソーと回答した人が 50 %以上という結果になったが、その主な理由としては同社の技術開発力が挙げられ、自動車メーカーの視点に立った開発ができるという意見があった。

自動車メーカーの視点に立った開発とは、個別部品であっても車両全体を見据えた開発や、消費者のニーズを見通した開発ということを意味しており、先程の話とレイヤーこそ違えど、顧客の顧客、競合他社を視野に入れるという点では同じことである。

人は自分が普段やっていることを、他人がやってくれないとそこに違和感を感じるものである。その意味でも、自動車業界に注力しようと考える素材メーカーは自動車業界の考え方が上記のようなものであるということを認識して行動していく必要があるだろう。

【自動車文化の汎用性】

自動車業界の事例で、顧客と同じ目線に立って、顧客の顧客、競合他社までを視野に入れることの重要性を論じてきたわけだが、これはやはり自動車業界特有ということでなく、B to B のビジネスを行ううえで共通して重要なことではないかと考える。

先日、ある総合電機メーカーの車載部門の OB の方とお会いする機会があり、QCD を含むものづくりの考え方が他の事業部門と随分違っていたが、自動車部門が現在その会社の業績を牽引していることを考えると、自動車の文化こそ生き残りの文化だと今は考えている、という話を伺った。これも自動車文化の汎用性を物語る一つのエピソードといえるだろう。

前述したとおり、素材メーカーは自動車文化を認識して行動していく必要があるが、一方の自動車業界は業界の裾野がこれまで以上に広がってきていることを認識し、自らの文化を積極的に発信して、普及させ、業界外の優れた技術を取り入れていく必要があるだろう。

<秋山 喬>

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