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コラム

今回の金融危機が自動車業界に促す変革

◆日産、2009年3月期の営業利益予想を前年比65.9%減の2700億円に下方修正

                    <2008年11月01日号掲載記事>

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【金融危機と自動車メーカーの株価】

 連日、世界的な金融危機のニュースが新聞紙面を賑わせている。

 米国に端を発した金融危機は、他国に比べて比較的金融システムが安定している日本の円買いをもたらし、円高は一時、90円台まで進展した。

 また、円高と反比例するかのように日本企業の株安が進み、日経平均は一時、7100 円台まで落ち込んだ。つい 3 ヶ月前の 7月 31日には 13300 円台であったことを考えると、日本を代表する企業の株式価値が 3 ヶ月で約半分にまで落ち込んでしまったことになり、まさに異常事態といえる。

 この株安は、今や、日本株売買シェアの約 6 割を占める外国人投資家が金融危機の中、手元現金を確保するため、なりふりかまわず、日本株を売却しているためとも言われているが、円高が進展する中、輸出産業が中心である日本企業の将来性を悲観しての行動だとも言われている。

 当然、輸出産業の代表格である日本の自動車業界にもその影響は及び、各社の株価は3ヶ月前と比較して、以下のように下落している。
「乗用者メーカー各社の株価」

      7/31 10/31 下落率
トヨタ   4660  3730  20.0%
日産     840   493  41.3%
ホンダ   3490  2400  31.2%
マツダ    626   213  66.0%
三菱自動車  179   134  25.1%
富士重工   582   336  42.3%

 経営危機に陥っているフォードの影響が株価に織り込まれているためかマツダの下落率が 66.0 %と突出しているが、その他のメーカーも一様に 20 %から 40 %程度下落している。
【乗用車メーカーの中間決算】

 では、10月中旬~下旬にかけて、自動車メーカー各社の中間決算が続々と発表されているが、実際のところ、今回の金融危機はどの程度、自動車メーカーの業績に影響を及ぼしているのだろうか。

 最大手のトヨタの決算発表はこのコラムを執筆している 11月 3日時点では発表されていないので、その他の乗用車メーカーが発表した中間決算を横並びで比較してみたいと思う。

 4月~9月累計での各社の業績は以下のとおりとなっている。

      販売台数   売上    営業利益   純利益
日産    190.2    48,693   1,916     1,263
      (4.7 %) (-3.9%) (-47.8%) (-40.5%)

ホンダ   189.2    56,941   3,702     3,029
      (0.7 %) (-3.5%) (-27.1%) (-19.1%)

マツダ    70.1    15,755    607      295
      (6.0 %) (-5.0%) (-17.0%) ( 2.0%)

三菱自動車  60.2    12,140    254      128
      (-13.0 %)(-7.6%) (35.1%)  (-56.0%)

富士重工   28.2     7,442    183      44
      (4.0 %) (5.0%)  (-3.0%)  (-43.9%)

単位:販売台数は万台、その他は億円
( )は前年同期比

 現段階では販売台数が減少しているメーカーは三菱自動車だけだが、その三菱自動車を除く各社が減収減益(営業利益)となっており、営業利益が前期からほぼ半減している日産をはじめとして、各社が一様に利益を減少させている。

 営業利益の増減要因を見てみると、各社とも為替が大きな減益要因となっている。具体的には日産が 989 億円、ホンダが 1284 億円、マツダが 280 億円、三菱自動車が 198 億円、富士重工が 200 億円である。

 また、それ以外にも日産、ホンダはクレジットリスクやリース残価リスクの引当がそれぞれ627 億円、918 億円の減益要因となっており、主に北米での金融事業によるものと推測される。

 また、今回の中間決算発表時にスバルを除く各社は通期見通しを下方修正、各社とも営業利益が前期比でほぼ半減するとの見通しを立てており、金融危機の影響が中間決算以上に各社の業績に現れてくるものと思われる。

 減益要因としては、上述した為替や金融事業の引当に加え、売上高の減少・車種構成の変化という要因が大きな割合を占めている。北米市場の低迷、及び、消費者ニーズが利幅の大きい大型車から燃費のよい小型車へとシフトしたことにより、日系自動車メーカーの経営に大きなインパクトを及ぼすことが予想される。(具体的には売上高の減少・車種構成の変化により日産が 2240 億円、ホンダが 1240 億円の減益になると見込んでいる。)
【今回の金融危機が自動車業界に促す変革】

 このように今回の金融危機は日本の自動車業界に対して短期的には業績の悪化をもたらしているが、中長期的に取るべき方向性に対してはどのような変革を促すのだろうか。

 勿論、デトロイト 3 の低迷により、自動車業界における日系自動車メーカーの地位が向上し、より一層トップランナーとしての行動が求められるようになるということはあるが、それは以前から言われてきたことであり、今回の金融危機でその傾向が加速したに過ぎない。

 このように、基本的には、目新しい課題が出てくるということではなく、以前より日本の自動車業界の課題として認識されていたものの、平時にはそれが見過ごされたり、先送りされたりしてきたものが、今回の金融危機のような有事により眼前に突きつけられる、また、早期の対応が促されるようになるものと思われる。

 まず第1には環境性能に優れた車の早期導入である。

 現在は一服ついた感のある原油高であるが、今後の石油資源の枯渇を踏まえると自動車産業としては、燃費性能に優れた車を開発しなければならないという命題に変わりはない。

 今回の金融危機により世界最大の市場である米国において、ピックアップやSUV といった大型車の需要が低迷し、ニーズが燃費のよい小型車やハイブリッド車にシフトしたことは、日系自動車メーカーに対し、環境性能に優れた車の早期開発、早期投入を促すことになるだろう。

 また第 2 には販売地域の分散である。

 今回の中間決算における販売台数の地域別内訳を見ると、北米の割合は日産35.0%、ホンダ 45.4 %、マツダ 28.6 %、三菱自動車 11.8 %、富士重工 32.3 %となっており、日系自動車メーカーの多くが北米市場に依存する事業構造となっている。これまで北米市場は利幅の大きい大型車のニーズが多い市場だったこともあって、利益面では上記販売台数比率以上に北米市場に依存してきた。

 これは裏返せば、日系自動車メーカーの強みであったわけだが、一方で、今後の自動車産業は新興国の市場が牽引するとも言われており、各社とも日米欧の三極体制から販売地域の分散を進める必要に迫られていた。今回の金融危機による北米市場の低迷は、この方向性に対しても早期対応を促すことになる。

 そして、第3にはより一層の現地化の推進である。

 今回の中間決算における輸出比率(輸出台数/国内生産台数)を見ても、日産 51.1%、ホンダ 53.8 %、マツダ 78.0 %、三菱自動車 79.8 %、富士重工64.9 %となっており、各社とも国内で生産した半分以上を輸出に回している。また、下位メーカーほど現地での販売台数がまとまりにくいため輸出で対応するという傾向になり、輸出比率が高い。

 円安の局面においては、無理をして現地生産を行うよりも輸出で対応したほうがよいという風潮もあったが、今回のような為替が急上昇する局面においては先送りしてきた課題が突きつけられることになる。実際、通期の見込みにおける営業利益の減益要因を見ると、為替によりマツダが 780 億円、三菱自動車が 710 億円、富士重工が 400 億円の減益を見込んでいる。

 現地化するには販売台数が少ないという事情もあるだろうが、現在の構造を維持するかぎり、為替変動に左右され続けることになるため、小規模生産でも収益が確保できるような柔軟性のある生産体制を早期に確立することが望まれる。

 第4には国内市場の活性化である。

 数年来、国内市場は低迷しており多くの自動車メーカーの国内事業は厳しい状況に置かれている。

 海外の景気、及び為替に過度に左右されないようにするためには、内需を活性化しなければならないということは、日本経済全体として言われているところであるが、自動車業界としても、経営を安定させる、また現地化を推進しつつも国内の雇用は維持するという観点からいくと、国内市場の活性化は避けては通れない。
【外部環境の変化がめまぐるしい時代の経営】

 つい、1年前まで好調な業績を謳歌していた日本の自動車産業がこのような突然の外部環境の変化により、負の影響を受けていることに驚いているのは筆者だけではない。

 7月には 147 ドル/バレルだった原油先物価格が 3 ヶ月で 67 ドル/バレルまで急落したことに象徴されるように、昨今の外部環境の変化はめまぐるしいものがある。しかし、昨今のような状況は異常事態とは言えども、今後、外部環境の変化する速度が速まることはあれ、遅くなることはないだろう。

 そのような時代においては、外部環境の変化に迅速に対応できる俊敏性(agility:アジリティ)のある経営が重要になり、それは自動車メーカーも例外ではないだろう。

 サプライチェーンの短縮や開発期間の短縮といった市場の変化にすばやく対応するための施策は勿論のこと、意思決定の迅速化や企業文化、組織体制も俊敏性のある経営を行ううえでは変革していく必要があるだろう。

 このように今回の金融危機は、短期的に見て、日本の自動車業界にとって負の影響を及ぼすものではあることは間違いないが、これまで平時では見送られてきた課題を見つめ直し、着手する好機ともいえるのではないだろうか。

<秋山 喬>

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