自動車業界と××業界を比較し、製品、業界間の関連性や類似点・相違点から
自動車業界への示唆を探るこのコラム。弊社副社長の秋山喬とアビームコンサ
ルティング経営戦略事業部シニアコンサルタント山田将生の共同執筆です。
第 1 回の今回は、「自動車業界とエレクトロニクス業界」です。
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【はじめに】
今回より、始まったこのコラムだが、趣旨を説明すると、自動車業界と他業
界とを比較し、製品、業界間の関連性や製品特性、業界構造、CSF (Critical
Success Factor=重要成功要因) 等に関する類似点・相違点を把握。最終的に
は他業界との比較から見えてくる自動車業界への示唆を導き出そうとするもの
である。
コラム自体の構成もそれに基づいたものとなっているが、製品特性、業界構
造、CSF に関してはセットで類似点・相違点を把握する。というのも、まず、
どんな企業でも業界でも顧客が価値を感じ、料金を支払う製品、サービスが最
初にあり、その特性が業界構造を形作る大きな主要因になるという考え方がベー
スにある。そしてそれらがひいては業界の CSF を決めることとなる。
第 1 回の今回はエレクトロニクス業界との比較ということで、随分とぼんや
りした表現になっているが、製品としては大手電気メーカーが生産、販売して
いるようなもの、例えばテレビやオーディオ等の AV 機器、洗濯機や掃除機等
の白物家電、その他パソコン等が該当する。
またバリューチェーンという観点から、川上〜川中〜川下を含めた形で自動
車業界と比較をする。
【製品、業界間の関連性】
元々は二つの製品、業界は全く別のものとして取り扱われており、顧客から
もそのように認識されていたといえる。エレクトロニクス製品は主に家の中で
使用するものであり、自動車は主に家の外で使用するものであった。また、業
界としてもそれぞれ独立した形で存在しており、それほど交流はなかったとい
えるだろう。就職にしても理系で機械を専攻した学生は自動車メーカーに就職
し、電気を専攻した学生は電機メーカーに就職するという形が一般的であった。
しかし、徐々に自動車は単に移動のための乗り物ではなく、その空間をいか
に快適に過ごすかということが、問われ始めてきた。それにより、テレビ、オー
ディオ等のエレクトロニクス製品が形を変えて自動車に搭載されることとなり、
製品間の関連が深まってきたといえるだろう。
また、従来より自動車部品の中で電装部品というカテゴリーは存在したが、
昨今では環境対策や安全対策のために更に電子化が進展し、部品レベルで様々
な電子部品が用いられるようになっている。今後、この流れは更に加速し、よ
り関係の深いものとなっていくことが予想される。
そして、製品間で関連性が深くなってくると当然、業界的にも距離が縮まっ
てくる。自動車メーカーが電気メーカー、電子部品メーカーから購入する部品
の量は増えてくるし、それは従来の系列の外からの購入にあたるため、系列構
造を変化させる契機ともなりうる。また、人材レベルの交流も今後増えると思
われ、実際自動車メーカーは多くの電気メーカー出身者を中途採用し始めてい
る。
【製品特性、業界構造、CSFの類似点・相違点】
<製品構造の違いとそれがもたらす影響>
自動車は摺り合せ型アーキテクチャーの製品の代表格といえる。それに対し
パソコンに代表されるように多くのエレクトロニクス製品は組み合わせ型アー
キテクチャーである。これが意味するところは自動車の場合は各部品を摺り合
せる機能が非常に重要であり、そこで付加価値が発生するのに対し、組み合わ
せ型の場合はそこの機能の付加価値が低く、新規参入も行ないやすいというこ
とができる。それにいち早く着目したのが、デルであり、白物家電等の分野で
中国勢が優勢なのもそれが要因の一つとなっている。
自動車という製品において摺り合せ機能が非常に重要ということは自動車メー
カーの強さに直結し、系列という業界構造を形作った一要因ともなっている。
それに対し、エレクトロニクス業界の場合は、組み合わせ機能よりも基幹部品
の重要性が高くなる。薄型テレビなどでは、パネルが重要な基幹部品となって
おり、液晶パネルを押さえるシャープが液晶テレビでシェア No.1 となってい
るし、パソコンでは CPU を押さえるインテルの力が強い。また、そういった業
界構造ゆえに京セラ、ローム等独自の技術力を持つ部品メーカーが多数活躍し
ている。エレクトロニクス業界における基幹部品の重要性を考えると今後、大
手電気メーカーによる部品メーカーの買収、出資というのも今後増えてくるの
ではないかと思われる。
昨今、自動車業界でもモジュール化がトレンドになっていたが、完全に組み
立て型のアーキテクチャーになってしまうと摺り合せ機能の重要性が低下し、
それに伴い自動車メーカーの力も弱まってしまうため、現在はその流れが一旦
落ち着いた形となっている。但し、いつまでも自動車メーカーがその部分での
力関係の保持に固執してしまうと、肝心の市場を向いたマーケティングや商品
企画に割けるリソースが不足することとなってしまうのでその点は留意される
必要がある。
<完成した製品の特性の違い>
完成した製品の特性も自動車と電気製品では異なる。まず自動車は人を殺す
可能性もある製品であり非常に安全性、品質が重視されるし、消費者のこだわ
り、感情移入が入る製品でもある。一方で、電気製品の場合は、あくまで使用
できればいい、期待される機能を発揮してくれればいいといった購入の仕方が
なされることも多い。勿論、価格の面でも大きな差がある。例えば、トヨタを
買うか日産を買うかで迷うのと、ソニーを買うかシャープを買うかで迷うので
は、消費者がどちらが悩むかは明らかである。
そうなってくると消費者の望む購入の仕方というのもそれぞれ変わってくる。
自動車をネットで気軽に買おうという考えは起こりにくく、系列ディーラーを
何度も訪れて買うことも厭わない。
一方、電気製品の場合、消費者が望む購入の仕方(つまり様々なメーカーの
製品をその場で見比べて良いと思った方を判断して購入する)が川下における
ヤマダ電機等強力な家電量販店を生み出し、価格交渉力を持たせるに至ったも
のと思われる。
<規格競争の存在>
エレクトロニクス業界では古くから規格競争が存在した。古くはベータと VHS
の争いから最近では、次世代 DVD 規格における「ブルーレイ・ディスク」と「HD
DVD」など。一方、自動車業界では、各自動車メーカーがクルマづくりをそれぞ
れのノウハウでもって行なっており、それが各社の強みや特徴となっていた。
規格競争の有無はそれぞれの業界においてこれまで全く新しい仕組みの製品
がどれだけ開発されて世に出たかということに関連していると思われるが、最
近では規格競争は自動車業界においても無縁ではない。
ハイブリッドカー、テレマティクス等、全く新しい仕組みが自動車という製
品に組み込まれつつあり自動車という製品が変貌を遂げようとしている今、新
しい仕組みを開発するために各社に要求されるリソースは莫大であり、リーダー
企業の規格に乗っていくという選択肢は当然考えられる。
ハイブリッドカー、プリウスの基幹部品を競合他社が使用するというのもそ
うであるし、トヨタのテレマティクスの仕組みである G-Book を他社が使うと
いうのもそれに該当し、一種の規格となりつつある。
<製品の多様性の違い>
大手電気メーカーが生産している製品を見てみるとテレビ、パソコン、洗濯
機等かなり多様な製品群となっている。一方、自動車メーカーの場合、軽、高
級車、SUV 等セグメントは存在するものの、どれもクルマであることには変わ
りがない。
ある企業が複数の製品が生産するにはそこに妥当性がなければならず、それ
は例えば製品間でのシナジーや、会社のミッション、ビジョンに合致すること
などが該当する。
電気メーカーの場合、自動車メーカーと比べると、先ほど挙げたような全て
の製品群の間に明確なシナジーが存在するとは到底思えず、昨今の各社の選択
と集中という戦略もある種、当然の帰結といえるだろう。逆に自動車メーカー
の場合は生産している製品の共通性が高いため、規模の経済が働きやすく、そ
れが業界における CSF ともなっている。
また、そういった製品群の多様性の違いにより業界再編のされ方も両業界で
は多少異なる。ダイムラーとクライスラーの合併に端を発した一連の自動車メー
カー間の M&A は企業単位のものが多かったが、エレクトロニクス業界ではむし
ろ、事業、製品単位のものが主流となっている。
そういう意味で、エレクトロニクス業界では製品、事業のポートフォリオ管
理という概念が非常に重要であり、会社を運営する仕組みとしても事業部制、
カンパニー制が多く適用されている。
【自動車業界への示唆】
大きく 4 つの類似点・相違点を取り上げたわけだが、ここから自動車業界、
主に自動車メーカーに対して得られる示唆にはどのようなものがあるであろう
か。
まず、自動車メーカーが今後、バリューチェーンの中での力関係をいかにし
て維持していくかという点が挙げられる。エレクトロニクス業界の場合は自動
車業界と比較すると基幹部品を押さえる川上と消費者のニーズに後押しされた
川下の力が強く、大手電気メーカーはその間に挟まれる形となってしまってい
る。
これに対しては自動車メーカーは力関係の保持に固執するのではなく、あく
までも消費者の視点から製品を供給する仕組みとしてどういった形がふさわし
いのかを考えていくべきだろう。例えばクルマづくりの部分は徐々に部品メー
カーに権限を委譲していき、自分は消費者が望むクルマを企画する側に注力し
ていく、または完全なオートモールという形ではないにせよ、消費者が比較検
討するような車種をメーカー横断的に集めた販売形式を試験的に導入してみる
などが考えられる。
また、製品革新に伴う規格競争などはデファクトスタンダードの重要性を増
加させ、各社に業界内での自社の位置付けを明確にすることを迫るだろう。経
営理論の中でリーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーといったポ
ジショニングの概念があるが、下位メーカーなどはとにかくリーダーを目指す
というのではなく、リーダーが策定した規格に乗りつつ、他の部分で価値を発
揮するということを考える必要性も出てくるだろう。
最後に、自動車業界では当該製品に全責任を持つ主査制度が根付いており、
製品単位での考え方が主流となっているが、エレクトロニクス業界からは製品
間ポートフォリオ管理の面で参考にできる部分もあるのではないだろうか。先
ほどの位置付けの明確化の議論とも絡む話であるが、今や全セグメントをカバー
する製品ラインナップを維持できるメーカーは限られている。多少規模の経済
には目をつぶっても、自社の強みを発揮でき、製品間でシナジーが効く範囲ま
で対象を絞り込むという方向性も十分考えられるだろう。
<秋山 喬>
<山田 将生> |