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寺澤 寧史 執筆記事
 
 
 
国内製造業の屋台骨たる自動車産業。国内 11 社の自動車メーカーの動向は毎
日紙面を賑わしている。

しかし、消費者にとって、より身近な存在であるはずの自動車流通業界のプレー
ヤーについては、あまり多く知られていないのも事実である。

群雄割拠の国内の自動車流通・サービス市場において活躍する会社・人物を、
この業界に精通する第一人者として業界内外で知られる寺澤寧史が、知られざ
る事実とともに紹介する。

第 12 回は、VT ホールディングスを紹介する。

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 冒頭加藤が述べているとおり国内自動車ディーラーの平均営業利益率は 1 %
台と、低収益性に甘んじている。

 そうした状況下で、営業利益率 4.2 %を誇る自動車ディーラーグループがい
る。業界の風雲児高橋一穂氏率いる『 VT ホールディングス(VTHD)』がそれ
である。

 1998年には名古屋証券取引所に上場を果たし、2000年にはナスダック・ジャ
パン(現ヘラクレス市場)にも上場した 躍進著しい企業である。

 しかも同社は、自動車ディーラー 3 社以外に、中古車輸出業トラスト、レン
タカー事業の J-net レンタリース、住宅販売事業のアーキッシュギャラリー、
家具通販のホームダイレクト、投資・コンサル事業のブイティ・キャピタル、
環境関連事業のアイコーエポック、美容整形病院運営事業のセイシンワークス
など 13 社を傘下に従える多角化事業体でもある。

 今回は、VTHD が他の自動車ディーラーとは異なる強み、急成長の原動力や、
多角化の理由がどこにあるのかを探ってみたい。その風雲児ぶりからは意外に
聞こえるかもしれないが、同社の歴史は「必要以上の無理をしないこと」とい
うものであり、そこに原点があるように思えてならない。そこで、VTHD のこれ
までの足跡を振り返ってみよう。

【中古車販売店エフワン】
 高橋社長と、自動車ビジネスとの最初の関りは、愛知日野自動車でトップセー
ルスマンとして 7年活躍した後に 1978年に創業した中古車販売会社「エフワン」
である。

 手元資金が潤沢になかった創業当初のエフワンは、無店舗販売(ブローカー)
から始まっている。生来の才覚で僅か 2年で数千万円の資金を蓄えた高橋氏は、
その資金を元手に、中古車センターを開設している。ブローカーとして自分一
人の才覚だけで可能な事業拡張の余地には限界があることを悟り、徐々に店舗
を拡充していったもので、最終的には 4 店舗(輸入中古車販売店 2 店、国産
中古車販売店 2 店舗)を持った。

 しかし、有店舗販売に移行した後も高橋社長が心がけたことが 2 つある。一
つは店舗ごとの完全独立採算制であり、今一つは属人性を排して仕組みで儲け
ることである。前者は目の届く範囲以上の管理責任を一人の人間に負わせない
ということである。後者は次に見ていくとおり特徴的だがシンプルなビジネス
モデルを構築することであり、いずれも人に本来備わっている能力以上の無理
をさせないためのものになっていると解釈できる。

「カープラザ 39」
 オークション仕入原価 30〜 39 万円の中古車を 39 万円均一で販売するとい
うもの。売価を最初に定めてそれを店名にも謳うことで、そこで採算が取れる
商品だけを仕入れてくるように仕入工程を簡素化するとともに、認知確立のた
めの広告宣伝費用も圧縮する。また、安く仕入れた商品を高く売ろうとすれば
個人の才覚、力量が重要になるが、ここでは商品そのもので儲けようとはせず、
登録諸費用、自動車ローンのキックバックで儲けを捻出するビジネスモデルと
した。

「東京中古車流通センター」
 東京靴流通センターと同色の看板を掲げ、とにかく安い車だけを並べて、わ
ざとピカピカにしないで販売するアウトレット店である。

 一般に「アウトレット」の安さは、在庫処分であったり、機能的には支障が
ないが、商品的には傷ものであったりすることによる、いわば「訳あり」の安
さであることを消費者は心得ている。

 それを変にピカピカに磨き上げたりすれば、消費者には、どこかに不透明さ、
不誠実さを勘ぐられることになり、逆効果であるというのが高橋社長の考え方
である。ここでも安く仕入れた商品を無理に高く売るのではなく、あるがまま
に売る、という手法で成功したという。

 せっかく独自の価値観とビジネスモデルで成功した中古車販売店事業である
が、次に述べるホンダベルノ東海の設立で新車事業に進出すると、僅か 5年で
中古車事業からは完全撤退している。新車事業と中古車事業は成功要因が異な
る。同時にあれもこれも手を出して虻蜂取らずになることは避ける、という高
橋社長の「無理はしない」精神がここでも発揮されたと見ることができる。

【ホンダベルノ東海】
 1983年 4月には本田技研工業とベルノ店取引基本契約を締結し、愛知県東海
市加木屋町に最初の新車販売店舗を開設した。

 この時、本田技研工業から取得したテリトリーは、知多半島及び名古屋市の
西側地域で、当時は人口が少なく、新車販売の不毛地帯と見なされていた。
 しかしながら、その頃の高橋社長は、新車販売事業に無限の可能性を信じて
いたといい、当時はかなり無理(というより無茶)をしている。本田技研工業
も驚く新車販売手法を駆使して一躍トップディーラーに踊り出た。

 新車販売事業において、一定の上方限界があることを悟ったのは、広告宣伝
手法やノルマ達成のための越境販売等に対してメーカーから異例の始末書を 3
枚も要求される結果になったこと、更にその後主力モデルのプレリュードがモ
デルチェンジ末期に差し掛かる中、積極的に在庫を取ったことが災いして赤字
決算を経験したことからである。

 こうした経験を経て高橋社長は新車販売事業に関して一つのベンチマークを
持った。「新車ディーラー一拠点の営業利益率は 3 %が限界。5 %行くのはプ
ロダクトがいいときだけ。3 %まではやり方次第で確実によくなるが、それ以
上に突っ込むと失敗する。寧ろ、そこまで達成できたら、拠点数を拡充して額
を稼ぐことに専念するべきだ。」というものである。

 ここにも「無理をしない」という精神が生きているし、多角化の原点もそこ
に見られる。また、「無理をしない」という発想は、ミクロのレベルでもディー
ラーオペレーションのあちこちに見受けることができる。

<新車営業>
(1)訪問販売の禁止
  他社であれば、早朝のチラシまき、飛び込み訪問、長期間を掛けての他社
  顧客の獲得などを営業マンに求めることが多い。固定費の掛かっている営
  業を遊ばせておくのは勿体ないとか、営業マンは額に汗して稼ぐのが美学
  だとされるためである。VTHD ではこれらのことを一切させない。

  それだけで、営業は疲弊するうえに、仕事をした気になってしまうから、
  最も力を入れるべき成約の段階で集中力や忍耐力を失ってしまうとの理由
  による。

(2)必要以上の集客チラシを作らない
  通常販売促進に使用されるものに新聞チラシがある。一般にディーラーの
  チラシには何十台もの商品が掲載され、来店獲得のためだけのノベルティ
  配布やイベント開催の記事も踊っているが、VTHD のチラシは数台の目玉商
  品とワンプライスの特価だけが掲載されるシンプルなものである。

  この違いは来店成約率と成約一台あたりの広告費の差となって現われる。
  他社では実際にクルマを買う気のない来店客も多数訪れ、来店客の応対の
  ために営業マンの工数が割かれるから来店成約率は 10 %程度と言われる
  が、始めから来店客を絞込み、価格交渉もない VTHD では 30 %に達する。

  また、一般に来店客一人を獲得するのに必要なチラシ枚数は 7 千枚と言わ
  れ、一枚 4 円強のコストが掛かるから来店客 1 人獲得のためのコストは
  約 3 万円である。さらに来店成約率が 10 %とすると、成約 1台あたりの
  広告宣伝費は約 30 万円となり、通常 15 %程度しかない新車粗利益が全
  て飛んでしまい、値引の原資がなくなるから成約プロセスに時間が掛かる。

  VTHD では、同じ 30 万円のコストを掛けても来店成約率 30 %であるから、
  成約 1台あたりの広告宣伝費は 10 万円となり、これであれば十分値引の
  原資が残るから、必要に応じて値引を効果的に出すことでワンプライスで
  引き込んだ来店客の成約プロセスを短縮する効果が期待できるのである。
  
<中古車営業>
(1)下取りを取らない
  中古車は回転勝負の考えのもと、原則として下取り車は自社での小売玉と
  はせず、基本的には全量オークションで処分する。また、下取り価格自体
  もアップルやトラストなど外部企業の査定価格を利用しており、社内の新
  車部門に口出しをさせない。自社内での処分に拘ったり、社内での交渉や
  調整のために無駄にエネルギーを消費させないためのものである。

(2)小売用の商品はオークションから調達する
  上記の逆だが、小売に必要な商品は一番売れ筋車両情報を知っている中古
  車部門の担当者にオークションから調達させる。

<サービス部門>
(1)クイック車検はやらない
  昨今は、30分車検などクイック性を売り物とする車検チェーンなどが台頭
  し、新車ディーラーでも同様のサービスを展開するところが、多くなって
  きているが、VTHD ではこうした顧客層を無理に取り込んでいない。新車デ
  ィーラーにしか出来ない行き届いたサービスに絞り込んでいる。

 このように VTHD の新車販売事業では「無理をしない」という精神が行き届
いている。無理は、無駄な投資や費用を発生することになり、本当に大事にし
なければいけない収益性の高い顧客へのサービス性を弱めることになるという
考え方から来ているのである。逆に、「詳しくは企業機密だから」として高橋
社長から書くことを禁じられているのだが、中古車やサービスの部門で一般の
新車ディーラーが余り注力していない分野で徹底して力を入れている施策が多
数ある。

【株式公開と M & A による事業拡大】
 「自動車ディーラー事業の営業利益率は 3 %」、「ノーリスク、ローリター
ン事業」と評する VTHD の成長戦略は必然的に拠点数の拡大に向かう。高橋社
長は何度となくメーカーに対して他地域の新車ディーラーの買収を承認してく
れるよう打診してきたが、その都度メーカーから(テリトリー内での圧倒的シ
ェアの獲得以外に)「資金力」と「社会的信用」の獲得を条件とされたことか
ら、株式公開が同社の成長戦略上、不可欠のプロセスとなったという。

 高橋社長は、1998年に名古屋証券第二部上場を果たすと、すぐさま M&A に打
って出る。1999年にはホンダ自販名南、2000年ホンダベルノ岐阜、ホンダ新知
多・ホンダプリモ東海中(現ホンダプリモ東海)、中京ホンダと 5 社のホンダ
系ディーラーの買収に成功している。

 これらは、全て赤字の新車ディーラーであり、高橋社長には前述したように、
無駄な投資、費用を抑制し、中古車やサービス部門での即効性のある収益改善
策を打ち出すことで短期に黒字転換させることが可能との自信があった。

 実際に、これらの買収した新車ディーラーは、2−3 ヶ月で黒字化し、営業利
益率 3−5 %を実現している。「自動車ディーラー経営はノーリスク、ローリ
ターン事業」と評する高橋社長の言葉は実践されているということになる。

 この力量を見込んだプリヴェチューリッヒ企業再生グループが VTHD に対し
て同グループが組成したディーラー買収ファンドへの出資を要請するとともに、
この投資ファンドが買収した日産系新車ディーラー 4 社に対して VTHD からの
経営陣の派遣を要請している。VTHD は、この要請に応えて経営再建に当たると
いう新たなビジネスモデルを構築し、実際に成果を上げている。

 面白いのは、買収したディーラーの経営再建にあたって人員整理や給与体系
の変更は殆ど行なっていないこと、その結果、買収先のコストは全般に買収前
よりも上昇していることである。ヒューマンビジネスであるディーラー経営で
人の部分に大鉈を振るうという無理をせず、上述したような収益向上策を着実
に実績として示すことでモチベーションを高めるやり方を取っている。

 その上で、評価制度の透明性を高め、結果責任を明確にすることで、収益性
をベンチマークまで高めていくのである。

【異業種参入】
 VTHD にとって、自動車ディーラー経営は「ノーリスク、ローリターン」であ
り、拠点数の拡大でしか大きくなれない宿命を持っている。しかも、例え拠点
数を倍増させたとしても、その効果は 1+1=2 程度のもので、それ以上でもそ
れ以下でもない。

 VTHD 全体の成長力、収益力を加速するために補完的に登場してくるのが、ミ
ドルリスクもしくはハイリスクの事業(異業種)への投資であった。1999年に
は、異業種への投資を目的としたブイティ・キャピタルを設立している。

 しかし、ここでも VTHD は三つの鉄則を置いて無理をしないことにしている。
 1.新車ディーラー事業収益の範囲内での投資にとどめること。
2.シンプルでオンリーワンのビジネスモデルの企業だけに投資すること。
 3.成長軌道に乗るまでに時間を要する事業は早期に見切りをつけること。

 来年度以降には、「上場出来そうな企業が複数出てきそうだ」と語る高橋社
長である。今後も自動車ディーラー事業、投資・コンサル事業を軸に、リソー
スの配分を常に見直し、安定と成長のバランスが取れたポートフォリオを作っ
ていくとのことである。

 一つ懸念される材料を探すとすれば、相互に必ずしもシナジーのない異業種
への進出により多角化、巨大化した VTHD の姿はデパートのようなものになっ
ており、それが何のデパートなのか分かりにくくなってきていることだろう。
 「無理をしないバランス経営」というキーワードだけでは、産業や市場に対
してどのような価値を提供しようとする企業なのか外部には伝わりにくいし、
おそらく今後内部的にもグループ内の各企業がお互いに何を共通の価値観、求
心力としてまとまっているグループなのか分かりにくくなってくるだろう。
 VTHD とは何を目指す何者であるのかを明確にして、内外ともにわかりやすい
言葉でそれを語り続けることが求められてくるであろう。

                        <寺澤 寧史>


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