日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が
深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第34回の今回は、運転資本についてです。
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今回は、企業のキャッシュフローを見る上で必要な運転資本について考えて
いきたい。
運転資本とは企業が原材料などを購入し、製造・販売する日常の活動に必要
な資金のことを言い、本来は、「ある時点での流動資産の残高」を意味してい
る。逆に設備投資などに使っている資金を設備資本と言い、これは「ある時点
での固定資産の残高」を意味している。しかし、運転資本と言うと、実際には、
正味の運転資本「流動資産の残高−流動負債の残高」を指していることが多い。
実務では、「(売掛金+受取手形+在庫)−(買掛金+支払手形)」で計算さ
れていることが多く見受けられる。このコラムでは、「正味の運転資本」を
「運転資本」と記載していくこととする。
通常企業は、材料や製品を仕入れ、販売する中で資金を得ているが、必ずし
も売上を計上したタイミングで現金を得ているわけでも、現金を支払っている
とは限らない。実際は、現金で決済される取引は多くなく、通常仕入先や販売
先との間で決められた条件によって現金が動いている。つまり利益だけでなく
日々必要な現金のを正確に把握しておかなければ、気付いたら黒字倒産などと
いう事態になってしまうこともある為、資金繰りを管理する必要がある。運転
資本はこの資金繰りを考える上で有用なのである。
例えば、ある企業が 3月に 80 で材料を仕入れ、加工し、100 で販売したと
する。(在庫は無いものとする。)、この場合に仕入先との支払条件が当月末
で、販売先との回収条件が翌月末だったとすると、3月末時点では、売上 100
と売上原価 80 が計上される為、利益は 20 となるが、キャッシュフローは、
−80 となるのである。この場合、3月末時点の運転資本は、売掛金が 100 残っ
ている為、運転資本は−100 となる。よって利益の 20 と−100 の運転資本を
引くことで、その企業の正しいキャッシュフローがわかるのだ。このことから、
この会社は 80 の運転資金を必要とする企業であることが解り、資金繰りの目
安として管理することが出来るようになるのである。
また、ある期のキャッシュフロー増減を計算する際には、その期に計上され
た利益を元に(減価償却費足し戻しなどその他の調整に加えて)前期と今期の
運転資本の増減を引いたり(運転資本増加はキャッシュのマイナス)、足した
り(運転資本減少はキャッシュのプラス)することでからキャッシュフローは
計算される。買収などに際して、DCF (ディスカウントキャッシュフロー)に
よってその企業の株主資本価値を算定する場合にも運転資本の増減は大きな影
響を与える。つまり大きな資金負担を招かないような決済条件を設定すること
が企業の価値を高めることになるのだ。
では、どのようにすれば支払・回収条件を良く(支払日を先に延ばし、回収
日をできるだけ早く)することが可能であろうか。当然、決済条件は法律で決
められた範囲内における仕入先や販売先との交渉で決まる。自社の力に過信し
て、決済条件を決めているような取引はいつまでも続かないはずである。仕入
先・販売先とどのような交渉をするにしてもお互い Win−Win になるような決
済条件にするのが好ましい。その為には、何らか自社に有利に見える決済条件
であっても、仕入先・販売先から見たメリットを提供している必要がある。仕
入先も販売先も自社にとっては大切なステークホルダ−であり、このステーク
ホルダーを満足させることは企業の根源に関わる重要なポイントだ。この決済
条件に折り合いをつけながら企業は自社の利益を最大化しなければならないの
で、運転資本はこの交渉力を定量化したものと言えるだろう。
一方、売上総利益(粗利益)との相関関係も考慮する必要がある。
上述の通り、自社に有利に見える決済条件であっても、仕入先・販売先から
見たメリットを提供している場合においてはこれが成り立つという話があった
が、自社に有利な販売先へ売値と仕入先への仕入値の設定、即ち粗利幅の確保
のためには、同様に両ステークホルダーへの価値提供が必須だ。一般的には、
支払・回収条件の交渉と単価の交渉はセットであるが、支払期間を短くすると
支払単価は下がり、支期間を長くすれば支払単価は上がる。同様に回収条件を
短くすれば、単価を下がり、長くすれば、単価は上がる、という、反比例する
関係にあるはずである。(双方を同時に有利に運ぶには、よほどの価値提供能
力と実務的には交渉力がない限り難しい)。つまり、単価と回収条件のバラン
スの中でどの条件が一番自社の価値を販売先(顧客)と仕入先(サプライヤー)
への価値提供を最大化し、結果として自社へのメリットの最大化に繋がるかを、
意識的若しくは無意識的に実践していく必要があるだろう。
同じだけ販売費及び一般管理費が掛かると仮定すれば、売上総利益を最大化
し、運転資本の増減を低く押さえることがキャッシュフローの最大化につなが
ることになる。しかし、上記のような反比例の関係の中でどうやってバランス
をとりながらキャッシュフローを最大化していくか、というのが経営者の力量
が問われるところである。
経営者には、株主などから資金を預かり、その資金を運用し、運用の結果と
して得た資金を最大化することが求められている。そのための事業であり、そ
の事業を成功させる為の活動(商品の差別化の為の研究開発や生産工程での効
率化、若しくは販売現場や購買現場における販売先・仕入先との継続的な対話)
が、決済条件に反映されるのである。
「キャッシュフロー経営」と叫ばれ続けている中で、決済条件を多少変更し
て、見栄えを良くするという手法に手を伸ばしたい欲望に駈られる経営者の方
も多いかと思うが、実際には本業での地道な活動が無ければ、すぐに決済条件
は元に戻ってしまうだろう。ステークホルダーと自社の利益の追求のバランス
を考え、且つ、単価と期間のバランスを考えながら企業として最適な結果を考
えることが、運転資本の最適化につながるのだ。
<篠崎 暁>
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