日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が
深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第20回の今回は、EPSについてです。
自動車業界においてEPSと言えば「電動パワーステアリング」を思い浮かべ
る読者が多いだろう。しかし、今回解説する EPS は「Earings Per Share」
(一当たり利益)という財務用語であり、企業の収益力を示す指標のことであ
る。
EPS は税引後利益を発行済株式総数の期中平均で割った指標であり、言葉の
通り 1 株あたりの収益力を示すものである。1 株あたりとしているのは、株
価(当然 1 株あたりの価額)との対比を行う為で、株価がその企業の収益力の
何倍に相当するかを株価の妥当性の判断基準としている投資家も多い。
また、EPS は 1 株あたりに分配される利益の原資とも言える。これは、前回の
コラムでも述べた通り、株主重視の経営(株主にどれだけ企業の収益を分配し
ているか)が重視される中でEPSは株主1人に分配できる原資がどれだけあるか、
を 示していると言える。
なぜなら、配当は当期の利益を分配することで行われる為であり、その配当の
原資と成り得る利益が1株あたりいくらあるかでその企業の分配原資が解る為
だ。
では、トヨタ、ホンダ、日産の 2005年 3月期 EPS と、配当額を見てみよう。
1.トヨタ
・連結当期純利益 : 1,171,260百万円
・連結EPS : 355.28円
・本体配当額 : 65円
・対 EPS 配当性向 : 18.30%
2.ホンダ
・連結当期純利益 : 486,197百万円
・連結EPS : 520.68円
・本体配当額 : 65円
・対 EPS 配当性向 : 12.48%
3.日産
・連結当期純利益 : 512,281百万円
・連結EPS : 124.01円
・本体配当額 : 24円
・対 EPS 配当性向 : 19.35%
注)「本体配当額」とは、連結グループ合計の配当額ではなく、当該グルー
プの親会社となるトヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車が単体で支
払う配当額のことであり、対 EPS 配当性向は「本体配当額」を「連結E
PS」で割り、配当性向を算出したもの。
トヨタの前期(2005年3月期)の決算要旨の中でも1株あたりの利益の増加に
注力する旨の記載がある通り、EPS は、自動車メーカーも注力している指標の
一つである。
一方、配当についてもトヨタは連結配当性向を目指しており、大幅な配当の増
加を決定している。これは、ホンダも同様であり、投資家や株主が連結純利益
を重視し、株価を分析する上で使用される各指標が全て連結ベースの数値で作
成されている事から、投資家への利益配分に対する納得感を高める狙いがあっ
たものと思われる。
この連結ベースの利益に対しての配当を行うという考え方は非常に斬新なも
のである。そもそも、配当は、商法で規定されている通り連結決算の利益では
なく各会社単体の利益を基に各会社で決定するものである。しかし、連結利益
が重視されている現状では、単体の利益を基に配当性向を上げたから株主を満
足させられるというわけにはいかない。
よって商法の枠の中で連結利益をベースとした配当性向を決定し、株主に分配
するという手法は株主重視の経営を推進する中で納得感が高まり、IRの効果は
高いと思われる。
しかし、配当性向を上げるというのは簡単なことではない。今期のトヨタの
単体の対 EPS 配当性向は、40.54 %である。よって、当期の利益を基に算出す
ると、配当性向を 40.54 %にするには、配当額を 144 円にする必要があり、
合計の配当額に約 5,200 億円の資金が必要になるからだ。
この為には継続して利益を計上し続けることは勿論の事、資金の調達や運用
などを連結グループの中で効率的且つ効果的に行う事が必要であり、その為の
インフラの整備などに時間と資金が必要だろう。これらのインフラや従業員の
意識が整った上で行わなければ必要な資金が足らなくなるなど不測の事態を招
いてしまう恐れもある。
株主重視の経営とは、数値や見栄えだけではなく、企業のインフラや従業員の
意識など、企業としての総合力が求められるのである。
<篠崎 暁>
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