『企業の経営目的と実行力』
◆クルマのIT化が招いたデルファイ破綻
デルファイの破綻、自動車部品のエレクトロニクス化、IT 化の遅れが要因。
クルマの電子制御化や情報端末化は更に進み、電気メーカー等との競争に。
<2005年10月11日号掲載記事>
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経営不振に陥っていた米自動車部品最大手のデルファイが今月 8日に米連邦
破産法 11 条(日本の民事再生法に相当)を申請した。米自動車業界で最大規
模の負債総額を抱え破綻した背景にはいくつかの理由が取り沙汰されている。
デルファイが GM から 1999年に独立する際に引き継いだ高水準の賃金・福利
厚生に起因した高コスト体質、デルファイの売上高の約半分を占める GM の大
幅な減産、労働組合との賃金交渉不調等が相まって申請に至ったとされている。
以上の点は破綻に至った同社の内的要因であるが、一方で外的要因の一つと
してクルマの IT 化への対応の遅れが指摘されている。
自動車のエレクトロニクス化は部品調達の枠組みをガラリと替え始めている。
【クルマを取り巻く環境の変化】
現代のクルマには単純にブランド、デザイン、性能、価格が求められるので
はなく、環境と安全の技術への対応も重要視されている。その為、半導体等の
デジタルデバイスを用いた IT 技術がクルマ本体や周辺環境に多く導入されて
おり、将来のクルマ社会の発展における重要な役割を担っている。
車体及び車内環境については、エンジン、ブレーキ等の最適制御化やカーナ
ビゲーション、テレマティクス等の情報端末機能の発達、ETC を駐車場決済等
への汎用、安全運転を支援する脇見防止装置、車速・車間制御装置、車線維持
支援装置等の開発があり、クルマ社会の環境については、交通管理の最適化や
道路管理の効率化、公共交通の支援、緊急車両の運行支援等、ITS (高度道路
交通システム Intelligent Transport System)と呼ばれる交通システムが
整備され、人と道路と車両を情報でネットワーク化することで交通事故や渋滞
の交通問題を減らし、安全と環境に役立てることを目的とした開発が進められ
ている。
また同時に、低燃費化・低公害化を実現する環境技術に対応するための自動
車部品の高度化も急速に進行している。
今回の東京モーターショーでも新ハイブリッド車種のお披露目に加え、新開
発の燃料電池車、水素ロータリー車、新型ディーゼルエンジン等の低公害・低
燃費を実現した車両を各メーカーが数多く発表する予定となっている。また、
日本の部品メーカーも関連する新技術及び部品を展示する予定である。
ガソリンの代替燃料の市場ニーズは、予想を上回るスピードで拡大しており、
各自動車メーカーは、他メーカーとの技術提携をグローバル規模でに行ってお
り、今後の自動車メーカーの勢力図を占う意味でも重要なファクターとなって
いる。
この背景には、新規技術開発には多大な資金が必要となることに加え、短期
間に消費者の嗜好にあった商品を世に出さなくてはならない切迫した状況であ
るということが挙げられる。
急速に高まる環境対応を意識した消費者動向に対応する為には自動車メーカー
各社は開発期間を大幅に短縮化せねばらならず、コスト重視で推進してきた車
両部品の系列外取引を環境問題等の技術革新による新たな目的で加速させてい
るのである。
【企業のコンセプト力を考える】
上記状況から、自動車部品メーカーのライバルは業界内競合に加え、IT 技術
を携えた新規参入企業が数多く存在するのは間違いないようである。
しかしながら、何故、デルファイは急速なクルマ環境の変化に対応出来ない
と評されるような、GM からの支援も取り付けられない企業に陥ってしまったの
だろうか。
企業には必ず経営目的があり、それを支える経営理念と経営目標が明確にな
っていなければならない。それが具体的な企業活動=戦略へと繋がるものだか
らである。
その戦略が具体的に実行された結果が財務諸表に表れてくるので、企業分析
を実施する際には、企業の目標を明確にしておくことが、企業の財務分析の基
準をどこに置くのか判断する上でも重要になる。
デルファイが 1999年に GM から独立した時の事業の方向性は、価格競争も無
い状況から脱し、GM に頼らない経営、GM とデルファイで競争力を高め事業の
目標を絞り込むというものであり、独立企業となって飛躍的成長を目指すという
ものであったようである。
経営目的が上記のものとするならば、それを支える経営理念=経営行動基準
の具体化と Corporate Identity の統一化が社内で図られていなければならな
い。つまり経営理念は普遍的な企業コンセプトであり、重要なことは社員一人
一人が日常の業務の中でも自然と行動指針や規範となって浸透していることで
ある。大袈裟に言えば思想みたいなものである。
売上の約 50% を GM に依存していたデルファイの経営目的は独立後も以前と
変わらない状態にあったのではないかと推察する。
【ビジネスは変化する】
今日の企業には常に変化に対応する能力と自ら新たな施策を打ち出していく
能力が必要とされ、同じ事業を継続しているだけではやがて倒産してしまうと
言われているし、そうリアルに感じられる経済状況下にある。
しかしながら、変化を脅威とするのか、好機とするのかは各企業が常に社内
に浸透させている思想や考え方で決まってくるのである。
一般的に変化を脅威に感じるのは、業界内のリーディング・カンパニーと呼
ばれる企業に多いと言われている。所謂、大企業病とされる既存取引を重視す
る傾向が強く、新たな変化を求めないという状況の存在である。デルファイも
その部類に属していたのではないかと推察する。
【変化への対応のヒントはどこにあるのか】
変化への対応は全ての企業に平等に訪れるものであり、やはりいざという時
に動ける思想をもった企業体であることに尽きると思えるのである。
その為に行う最善の防御策は変化をチャンスに出来る組織を作り上げておく
ことであろう。それは決して難しいことではなく、日常業務を毎日同じように
遂行することを是とするのではなく、日々、業務内容が変わるのが当り前と考
える企業とするのである。そうすれば、社員一人一人が常に個人でチャレンジ
する姿勢で仕事に向き合い、新しい変化を能動的に求めるようになるのである。
日本の自動車メーカーから分離・独立した部品メーカー大手の系列自動車メー
カーとの取引率は、2004年度決算期のデンソーで 31.6% 、豊田自動織機で 33.
4% と決して高い訳ではなく、系列取引重視=収益依存という構図ではないこと
が分かる。つまり系列の部品メーカーであっても自社の開発技術やノウハウを
活かし取引をヨコ展開することで独自の企業体としての収益を高めているので
ある。
デルファイが破綻しなければならなかった原因は、後日情報が整理された上
で明確になると思うが、たった 6年間という短い時間で破綻したことを考える
と、そもそも 1 つの企業として実質的に独立出来ていなかったのではないかと
考えるのである。
<大谷 信貴> |