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大谷 信貴 執筆記事
 
 
 
『リレーションシップによる差別化』

◆「ハーレーダビッドソン昭和の森」が 9月 17日オープン

 ハーレーダビッドソンジャパン、新規出店を積極化し店舗網を拡充。全国 120
社 166 拠点に。メガディーラーも現在の 4 店舗から 5年で 10 店舗へ。

                   <2005年09月17日号掲載記事>

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 ハーレーダビッドソンジャパン(HDJ)が 全国で 4 つ目のメガディラー店舗
となる「ハーレーダビッドソン 昭和の森」を 9月 17日にオープンした。メガ
ディーラーショップは HDJ の契約正規販売店網の中のフラッグシップショップ
となる。総敷地面積 3,300 平方m、店舗面積 1,650 平方mの広大なロケーショ
ンに常時 40台以上の商品を展示する。

 「ハーレーダビッドソン」(HD)は排気量 750CC 超のアメリカンバイクで、
1989年からは HDJ が国内で本格的に販売している。独特な雰囲気を持つ大型車
に車種を限定しており、高価なこともあって、ライダーにとって憧れの存在と
して君臨しているブランドである。

 しかしながらトップブランドとはいえ、オートバイメーカーが単一ブランド
で広大な敷地のメガディーラーを設けることは少々余剰感があり、高級ブラン
ドにありがちなブランド顕示欲を満たすものではないかとその費用対効果につ
いて懐疑心を持ってしまう。しかし、本当の理由は別にあるのではなかろうか。
今回は、その出店意義と狙いについて考察したいと思う。


【国内二輪業界の現状とハーレー】

 日本の二輪市場はホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内 4 大メーカーと
一部の輸入車メーカーで構成されている。自工会の予測によれば 05年の販売見
通しは前年比 2.1% 減の 71.2 万台で、82年のピーク時に比べ 4分の 1 以下の
市場規模まで縮小している。既に国内 4 大メーカーの主力販売先は ASEAN、中
国等の海外市場であり、日本市場は先行きが不透明な状況が続いている。

 そのような環境下、HD の 04年度販売実績は 11,893台を達成し、20年連続増
加という驚くべき成長を遂げている。同ブランドは排気量 750CC 超のオートバ
イに特化している訳であるが、中型二輪車以上(251CC 以上)の年間販売台数
(39,718台)に対して約 3 割のシェアを持っており、苦戦する業界の中で特異
な存在となっている。堅調な業績を上げている理由は一体何であろうか。


【競合他社との差別化を図る】

 資本主義の下では全ての企業に競合相手は存在するものであり、各企業は存
続する為に様々な独自の事業活動を行っている。その結果、顧客による「差別」
が生まれる。他競合企業との差別化は、物理的差別化、ブランドによる差別化、
リレーションシップによる差別化の 3 点が主なファクターとなる。

 HD の場合、物理的差別化、ブランドによる差別化は既に市場で確立している
為、ここではリレーションシップによる差別化における実態について、CRM を
中心に考察したい。

 既に世の中に浸透した感のある「CRM (Customer Relationship Management
の略称)」であるが、その意味は、経営戦略上自社にとって重要な顧客を特定
し、顧客をより良く理解することでワン・トゥ・ワンで対応し、継続して引き
付けることにより、売上増・利益増を実現するものと概ね定義される。

 CRM の根幹となるものは、データベース・マーケティングである。顧客デー
タベースを構築することで個々の顧客に対し、より適切なアプローチへと繋げ
ることが出来るのである。顧客をセグメンテーション化する場合の基本となる
切り口は以下の 3 つの特性となる。

 (1)デモグラフィック特性:
   客観的に捉える事が出来る人口動態的、地理的な切り口。
   (年齢、性別、収入、世帯規模など)

 (2)サイコグラフィック特性:
   ライフスタイルや意識、性格などの情緒的な切り口。
   (興味、意見、考え方、価値観など)

 (3)消費者行動特性:
   情報感度も含む消費行動に関する切り口。
   (顧客の購買履歴、使用状況、使用頻度など)

  出所:「コトラーのマーケティングマネジメント ミレニアム版」
      フィリップ・コトラー著(ピアソン・エデュケーション)

 以上の基本となる 3 つの特性を重ね合わせ顧客ニーズを分析し、次なる事業
戦略を策定するのである。では、どのようにしてこれらの情報を集積するので
あろうか。通常、販売員やテレマーケティングにより顧客情報等を集積するこ
とは可能であるが、決して充分な情報ではなくコストも非常に掛かるものであ
る。しかし、HD はオートバイ購入者を会員組織化することで円滑に継続的な情
報収集を可能としている。


【CRMには相互関係が重要】

 ハーレー・オーナーズ・グループ(H.O.G.)は米国本社が公認する公式な会
員組織であり、世界 91 万人、日本 31,000 人が登録するライダーズ・グルー
プである。会員資格はハーレーのオーナーであることであり、購入初年度は自
動入会で次年度以降は年会費 10,000 円となる。尚、中古車を正規代理店で購
入した場合は、年会費 5,000 円で入会可能である。

 入会した会員、つまりハーレー購入後にオーナーが全員享受する H.O.G.のサー
ビスは、メンバーズカードの発行、ワッペン、ピンバッジ、ツーリングハンド
ブックの配布、全国のチャプター(支部)が開催するイベントへの参加等があ
るが、その中心にはマイレージプログラムが運用されている。

 マイレージプログラムの基本は自分が居住する近所の正規代理店でメーター
をチェックして貰い、走行した距離に応じて設定されている 9 段階のマイレー
ジレベルをクリアする毎にワッペン、T シャツ、革ジャン等のオーナシップ・
マインドを擽るモノがプレゼントされる。

 最終ランクである 100,000 マイル達成で「走りの殿堂」入りという栄誉を手
に入れることが出来るのであるが、各種イベント参加でもマイレージが加算さ
れ、特別イベント等(全国の正規ディーラーを訪問するディーラースタンプコ
レクション、1年に 5 回以上公式イベントへの参加者にはイベントグランドス
ラマーの表彰など)を通して、より早く楽しみながらマイルを積算することが
出来る仕組みになっている。また、初心者を対象としたオートバイの仕組みを
解説するセミナーや、オーナーに人気のカスタマイズの指南等、顧客からの要
望に応じたプログラムも合わせて用意しており、顧客の積極的な参加を促す工
夫が為されている。

 つまり、HDJ は H.O.G.という会員組織を通じ、購入後のオーナーの行動を追
跡することで、先に紹介した 3 つの特性を網羅する情報を継続的に獲得出来る
のである。しかもディーラー、イベント、セミナー等の各タッチポイントから
顧客の生の声という貴重な情報を自然に汲み上げる仕組みも体系化しており、
マイレージプログラムを通して集積したデータとマッチングすることで、より
効果的にCRMへ繋げる戦略を構築することが可能となる。


【メガディーラーに期待すること】

 メガディーラーの開設目的も CRM に他ならないのではないだろうか。HDJ は
公式発表として『メガディーラーは HDJ が展開している「オートバイを楽しむ
生活」を提供するという「ライフスタイル・マーケティング」を実際に体験す
る場として位置付けており、リテールテイメント(リテイルとエンターテイメ
ントを合成した造語)の店舗である』としている。

 通常の販売機能だけでなくエンターテイメント面を充実させている HD 昭和
の森は、全車種展示、ハーレーの歴史等の専門書ギャラリー、敷地内での試乗、
レンタルガレージの設置、大人の遊び場として、ビリヤードやダーツのあるラ
ウンジ、家族向けのキッズプレイランド等、様々なサービスを用意している。

 本コラムの導入部分で疑問に持ったメガディーラーの出店理由を筆者なりに
分析すると、ディーラーは常に顧客との接点を持つことが出来る CRM の重要拠
点であり、H.O.G.を通じて培ったイベントノウハウを発展させた恒常的なイベ
ント=メガディーラーとして次なる情報戦略を打ち出しているのではないかと
推察する。恒常的な情報集積は、迅速な経営判断を可能とし、CRM をより効果
的なものとするのである。


【顧客との人間的関係の構築】

 HDJ は従来からマス広告をせずに(確かに広告を目にする機会は少ない)、
主催するイベントを重視し、顧客と共有する時間を大切にすることで顧客のロ
イヤルカスタマー化を推進してきた。

 今後はメガディーラーを通じて、顧客と共有する時間を更に増やすことにな
る訳であるが、企業の関心を顧客に必要以上に押し付けてしまうと、顧客にと
って過剰なサービスとなり、かえって関心が薄れるという逆効果となってしま
うことが懸念されるため、十分留意して進める必要がある。

 CRM の弱点は顧客の関心事と企業の関心事が必ずも一致しないことであるが、
HDJ は従来から H.O.G.を通じ、直接顧客に尋ねるという機会を多分に設けるこ
とで、そのギャップを埋めている。メガディーラーでも同様に顧客との会話を
重視することで企業と顧客の人間的関係を構築し、オートバイ業界以外の他業
界も注目するような、新たなディーラーサービスを是非構築して頂きたいと思
うのである。

                      <大谷 信貴>
 
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