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大谷 信貴 執筆記事
 
 
 
『プレミアム化する日本の伝統文化』
(トヨタ「レクサス」開業 全国 143 の新店舗で営業開始)

 8月 30日にトヨタの高級車ブランド「レクサス」の国内販売が全国 143 の
新設店舗で一斉に始まった。

                  <2005年 08月 30日号掲載記事>

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 トヨタ自動車は 30日、新しい高級車ブランド「レクサス」の専用店舗を開業
し、新型車 2 モデル「GS」、「SC」の発売を開始した。レクサスは米国で
1989年から展開している、車体に「L」バッジを付けた高級車ブランドであり、
米国での成功をもって今般、日本へ逆上陸するものである。価格帯は 390 万円
から 680 万円に設定し、欧米メーカーの輸入車が席巻している国内高級車市場
のターゲットである富裕層の取り込みを狙っている。レクサスの専用店舗は高
級ブランドに相応しく御影石を敷き詰め、デスクや小物にまで拘わり、顧客へ
のおもてなしサービスを提供する空間と位置付けており、従来の販売方法とは
一線を画している。年内には「IS」を来年には最高級車「LS」やハイブリ
ッド車種を追加投入する予定である。

 レクサスの登場に欧米メーカーは高級車市場の活性化を期待する一方、自社
の店舗改装、カスタマーサービス強化等の対応策を打ち始めている。輸入車に
は日本の高級市場を形成してきた歴史があり、そのブランド価値・商品価値は
安全性等の根本的な問題が発生しない限り、簡単に崩されるものではないだろ
う。にも関わらず戦々恐々とする訳は、トヨタが放つブランドであるというこ
とと、レクサスという商品自体に少なからず高級市場で対峙できる素質を感じ
ているのではないかと推察する。

 本コラムではレクサスのブランドコンセプトである「和」を基調とする日本
の芸術文化の現状を確認し、レクサスが目指すワールドプレミアムブランドと
しての素質について考察したい。


【世界で認められる日本の芸術文化】

 一見すると大人しいデザインと感じるレクサスではあるが、商品開発におけ
るデザインフィロソフィーを「L-finess」(先鋭−精妙の美)と表現し、日本
芸術の伝統文化を根幹に据えている。

 レクサスにはアローヘッド(矢じり)をモチーフとしたデザインが随所に盛
り込まれ、光のコントラストで表現される美しさは日本伝統の芸術美を感じる
ものである。自分達が考える最高のモノを表現するというフィロソフィーは決
して一方通行なものではなく、お客様が欲しがること、独創的であること、付
加価値を感じること、この 3 要素がバランス良く存在している必要があるが、
「L-finess」は「予、純、妙」としてその要素を取り入れている。

 レクサスのブランドコンセプトにもなっている日本芸術の伝統文化の現状に
ついて、ブランド構築を数多く手掛けるランドーアソシエイツインターナショ
ナルリミテッドの小松社長兼 CEO のコメントが興味深い。

「高級といえば知名度と価格の高いものを指していたが、今は成熟した自分を
証明するモノ、精神的な豊かさを味わえるサービスを指すことが多い。」

「ライフスタイルが西洋化した中で日本的なデザインには斬新さがあり、特別
なモノ、プレミアムなものと受け止められている。」

(出典:NIKKEI DESIGN)

 日本を代表するファッションデザイナー川久保怜(コム・デ・ギャルソン)、
山本耀司らが欧米で認められ、数年前からパリの有名セレクトショップである
「コルソ・コモ」では湯呑、急須、等が高級ブランドと並んで販売されている。
陶器が持つ画一的でないフォルムが妙美であり、芸術性が高く評価されている
のだという。海外で再び見出された日本文化がもつ芸術性「質素・精妙・わび
さび」感がプレミアムを生み出す価値観として世界で認識されているのである。

 確かに日本の伝統文化には長い歴史があり、普遍的な匠の技術、モノづくり
に拘りを持つ姿勢、独自の雰囲気を持ち合わせており、ブランドアイデンティ
ティーを語る上では多くの要素を満たしていることに気付く。

 最近では我々の身のまわりにも日本の伝統文化が「逆輸入」されている。
高級商品を取扱う店舗では木や石をモチーフに盛り込んでいるケースが多く、
最近オープンした外資系高級ホテル「コンラッド東京」、「マンダリン オリ
エンタル 東京」には日本の織物や絵画がインテリアデザインに盛り込まれて
おり、西洋文化と見事に融合し高級感を醸し出している。同様なことは身近な
家電製品にも応用されており、薄型テレビや電子レンジ等に漆塗りが施された
商品が高級商品としてラインアップされているのである。


【高級ブランドで在り続けること】

 高級ブランドを代表する「ルイ・ヴィトン」も既に日本の芸術文化を融合し
ている。2003年春夏コレクションで発表した“モノグラム・マルチカラー”、
“モノグラム・チェリーブラッサム”はルイ・ヴィトンとアーティスト村上隆
のコレボレーションであり、従来にないカラフルでポップなデザインはその斬
新さから好評を博した。製作した立体の少女像がニューヨークのオークション
で約 6800 万円の値を付けたといったような村上氏の話題性に目を付けた訳で
はなく、同氏が製作する作品の色使いや表現力の斬新性にアーティスティック・
ディレクターのマーク・ジェイコブスが興味を持ち、起用が決まったものであ
った。実は、村上隆が製作するアニメキャラクターを用いた絵画には、葛飾北
斎が描いた「富嶽 36 景図」の構図がモチーフとなっていたり日本絵画の色彩
文化が味付けとして反映されていたりと、いわば日本の伝統文化と近代文化が
融合した作品であることは興味深い。

 時代性を捉えた大胆な発想を恐れることなく融合するデザイン力と普遍的な
商品力で高級ブランドを維持するルイ・ヴィトンはあらゆる商品分野において
高級ブランドのベンチマークとして参考となることは多い。しかしながらルイ・
ヴィトン自身も成長すると共に新たな問題を抱え始めている。

 それは顧客層が拡大することによる、コア顧客=富裕層への対応である。
そもそもブランドは高い品質と価格によって希少価値が生まれ、それを持つ事
による精神的な豊かさを顧客に享受するものである。しかし日本では若年層ま
でも持ち歩くようになってしまい、本来の顧客層を逃してしまうことになりか
ねない。そこでブランド母体であるLVJグループが運営する会員制販売組織
「セリュックス」がコア顧客に対して特別なサービスの提供を始めている。


【日本のおもてなし文化は現代に活きる】

 セリュックスは日本独自に作られた非公開の組織であり、誰でも簡単に入れ
る訳ではない。(入会条件が、既存会員からの紹介+入会金 21 万円である。)
その会員のみが受けるサービスとは日本の伝統文化である「おもてなし」に他
ならない。ルイ・ヴィトン表参道には会員だけが入ることに出来る隠れフロアー
が存在し、日本未発売の商品や LVMH グループが持つ他ブランドの限定品や車
まで購入することが出来るという。最上階には専用サロンがあり、LVMH グルー
プが持つ高級酒が飲めるサービスを提供している。また、アンオフィシャルな
イベントも催しており、会員であることのステータスを感じてもらう場を設定
している。つまり、ルイ・ヴィトンを購入することの悦びを新たに提供してい
るのである。

 セリュックスは高級ブランドが支持されている理由を理解し、本来の顧客の
心を掴むため、あらゆる「おもてなし」を今後も提供していくという。ルイ・
ヴィトンが高級ブランドとして維持できる理由は、顧客自身が感じている商品
に対する付加価値が余りに大きいからなのかもしれない。


【日本文化を日本から発信する】

 高級車の国内市場は従来から国内メーカー不在の市場と揶揄されていたが、
今回参入するレクサスは、プレミアム市場をグローバルに捉えた用意周到さが
伺える。日本人が気付けなかった伝統ある日本芸術の美を日本メーカーとして
デザインコンセプトの根幹に据えることは、決して世界的な流れから外れてい
る訳ではなく、成功の可能性は高いのではないかと感じる。

 しかし、そのデザインに頼り過ぎることになればエゴとなり、危険である。
あくまでクルマという PRODUCT に付加する“レクサスらしさ”を構築するエッ
センスであり、本当の意味で高級車市場でのポジションを獲得するには 5-10年
という中長期の時間が必要なことも認識しなければならないだろう。

 またレクサスが提供する「おもてなし」はルイ・ヴィトンの事例の如く、ブ
ランド価値を高める常套手段であり、現代に引継がれる日本の伝統文化である。
その環境を店舗に整備していることや、それをバックアップする社員教育制度
を設けていることはレクサスのプレミアムな価値を創出する上で有利に働くで
あろう。

 上記の如く、高級車市場では従来の自動車産業にとって決して優先されなか
った領域のクオリティが成功のカギの一つを握っていることを改めて認識した
い。ブランドの持つアイデンティティーを顧客に伝達すること、且つ時代性に
合わせ変化させていくことを継続していかなければ、高級車市場では埋もれて
しまうだろう。レクサスが始める世界への挑戦が、日本の自動車産業にとって
新たな成長領域に向かうキッカケになることを期待する。日本芸術の伝統文化
がグローバルプレミアムとして認識された経緯と同じように、日本ではなく世
界で認められる方が早いのかもしれない。


                          <大谷 信貴>
 
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