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大谷 信貴 執筆記事
 
 
 
  『トヨタにみるブランド拡張の意義と手法』
(トヨタ、北米の若年層向けブランド「SCION」販売台数予想を上方修正)

 今年の米国販売台数見通しを当初の 12 万台以上から 14 万台に上方修正し
 た。一方、生産能力の問題のために、15 万台には届かないだろうとした。

                   <2005年06月21日号掲載記事>

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【米国で販売を伸ばすカーブランド】

  米国におけるトヨタのブランド戦略の第 2 弾である「SCION (サイオン)」
 の販売が好調である。今秋より日本での販売を開始する最高級ブランド
 「LEXUS」は米国で販売を開始して 16年目で逆輸入ブランドとなった。若物
 向けブランド「SCION」の行く末はどうなるのであろうか。本コラムでは
 SCION のブランド戦略を中心に考察したい。

  現状の SCION の販売実績及び予算の推移は以下の通りである。

 <2005年間販売台数>

    昨年実績      99,259台
    予算(05/1時点)  120,000台 (前期比 120%)

    実績(05/1-5月)   62,003台 (前期比 200% 強)
    年間販売見通し   140,000台 (予算比 116%)

  SCION 部門の責任者、マーク・テンプリン氏は今年はほぼ 15 万台に達す
 るペースではあるものの、生産能力が不足している問題があるため到達でき
 ないであろうとコメントしているが、販売は頗る好調であることが伺える。

  「SCION」 は顧客の評判だけでなくディーラーからも期待されているよう
 である。全販売店の顧客平均年齢はトヨタ車全体の 48 歳に比べ 13 歳も若
 返った 35 歳前後という結果が出ており、SCION 購入者の約 70% が新規顧客
 であるという。


【SCION(サイオン)とは】

  一見、手裏剣のようなロゴマークを持つ SCION はトヨタ自動車が'03年 6
 月にカリフォルニア州のトヨタ店の 1 コーナーで限定販売を開始した実験ブ
 ランドである。戦略の発端は LEXUS 同様、米国における従来のトヨタが持つ
 画一的なブランドイメージとユーザーの高齢化から脱する、新たなマーケッ
 トを獲得する目的で立ち上げた若年層向けブランドであり、カリフォルニア
 州に次いで翌 2004年 2月に南部・東部へ進出し、同年 6月には全米展開へと
 拡大している。

  ターゲットは 20 才代前半〜 30 才代前半の若年層であり、現在の取扱い
 車種は 3 種類:xA (日本名 ist)、xB (日本名 bB)、tC (カルディナ
 をベースとしたスポーツクーペ)で値段を $13,000〜 $17,000 の低価格に設
 定し、値引交渉の無いワンプライス販売としている。
 
  顧客ターゲットを明確にしたブランド戦略は、SCION ブランドを以下の
 要素で確立する。

  (1)個性を重視した車のデザイン
  (2)豊富なアクセサリーを用意した、カスタマイズ対応
  (3)ライフスタイル(ファッション、音楽、スポーツ)との
     コラボレーション

  若年層を対象をしている為、同ブランドの HP は情報発信の大きな役割を
 担っており、コンテンツは様々な分野の情報を提供している。HIP HOP が流
 れるサイト上では車の性能に関する詳細な情報、購入に際するファイナンス
 のアドバイス、各車種につき 30〜 50 種類あるインテリア、エクステリアの
 アクセサリー紹介に加え、SCION の名を冠した各種イベント開催(ストリー
 トバスケットの“3-0n-3”、各種コンテスト等)のお知らせ、同ブランドの
 カジュアル衣料販売まで“車以外の情報”が数多く発信されており、SCION
 のターゲット顧客層の興味を引く、且つオーナーとなった後でも楽しめる
 サービスを充実させている。


【ブランド戦略という武器】

  このターゲット世代はベビーブーマーの子供世代である「ジェネレーショ
 ン Y」が中心である。自分だけの車が欲しい、一般的な車では興味を持たず
 満足しない、といった調査分析を元にトヨタは「SCION」というブランドを中
 心とした独自の販売促進策を上記の如く打ち出している。

  トヨタは小型車から高級車まで多様な車種を取り揃えることで顧客に対す
 る乗り継ぎ需要を提供してきた。しかしながら、顧客の持つトヨタというブ
 ランドへの認識・イメージが出来上がった現状では、ブランドの拡張性は失
 われる。

  トヨタが堅実に実行し続けている“安全性が高く壊れない良い車”に加え
 て、多様なニーズを持つ顧客層へ明確なブランドイメージを伝えること。つ
 まり、ブランドという戦略を物作りに付加していく手法は広範囲に情報を発
 信でき、新たな顧客を開拓する常套手段となるのである。

  例えば、仏の高級老舗ブランドであるクリスチャン・ディオールは決して
 揺ぎ無い商品品質への信頼に加え、既存のブランドイメージと 180度反対の
 存在に位置する鬼才ジョン・ガリアーノを新デザイナーとして迎えることで
 ブランドの革新性を世に訴えた。

  過去からのブランドイメージを現代における独自性と融合させることで、
 人々の心を捉え、一気に若年層の新規顧客開拓を成し得て復活したのである。


【ブランドを活かした販売戦略】
 
  トヨタの LEXUS、SCION は米国マーケットにおける従来のトヨタのイメー
 ジからの脱却がキッカケとなっている。しかしながら両ブランドが米国内で
 支持を受けている結果は正にブランド・アイデンティティーが強く発信出来
 ていることに他ならない。
 
  ブランドとは商品(ハード)のみを指すのではなく、そのブランドが持つ
 商品、サービス、プロモーション、販売チャネル、価格設定を含めた一連の
 マーケティング体系と、ブランドに込められたメッセージや価値自体(ソフ
 ト)を指す。

  両ブランドの戦略は、トヨタであることよりもブランドそのものの個性・
 独自性を重要としたことが新たな顧客獲得へと繋がっている。米国の一人の
 消費者は“ SCION は他に無いデザインで気に入っている。トヨタであれば壊
 れないから安心だね。でもカムリは欲しくないよ。”とコメントしているの
 が象徴的である。

  ブランド拡張の意義を評価している格好だが、実際にブランドを確固たる
 存在とする=市場に認知される迄には相当の時間と体力と新しいノウハウが
 必要となる。トヨタの新しいチャレンジはブランドを育成する上で継続した
 投資と改善が必要になることは想像に難くない。しかしながらトヨタが複数
 ブランドをサポート出来る体力を既に持っていることは大いなるアドバンテ
 ージであろう。

  次期の xB は米国市場のニーズに合わせる為、日本の bB とは異なるプラ
 ットフォームで 1.5L から 2.0L へ変更することが既に決定済みであり、レ
 クサス同様に米国内でのブランド確立を狙っている。

  SCION の日本への進出は米国での成功がカギとなるものの、海外で確固た
 る地位を築いたブランドであれば安易に受け入れられる日本の文化を考える
 と(根底にはブランド好きという国民性があるのかも知れないが)、遠い先
 のことでは無いと感じるのである。

                        <大谷 信貴>
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