自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸
田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。
【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカー
を経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画
などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た
発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。
著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある
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第63回 『ベイフロントの朝』
ある朝、ベイフロントにある駅に電車が到着した。ドアが開くと、同じよう
な色の服を着た数十人、いや数百人の集団が降りてきた。それも、同じくらい
の年代の女性ばかりだ。ただ、彼女たちはお互いに話すどころか、目を合わす
こともしない。しかも、ベイフロントにあるしゃれたお店や街並みには目もく
れず、一斉に駅から少し離れたところに建つホテルに向かって歩いていく。や
がて、ホテルの入り口にある回転ドアの前に立つと、一人の例外もなく、コー
トを脱いでからホテルのロビーへ入って行く。ロビーには、地方から来た観光
客や海外出張とおぼしき青い目のビジネスマンがいたが、次々に入ってくる彼
女たちを興味深そうに眺めていた。やがて、彼女たちは、背筋を伸ばし、ロビー
にあるエスカレーターにひとりずつ乗って上の階にある大きなホールへ向かっ
て行った。ホールの前にある案内板を見ると「ユニバーサル株式会社・会社説
明会場」とあった。
同じファッションに身を包んだ学生たちが会社説明会に向かうのは毎年恒例
だ。しかも、ここのところの不況で採用が絞られているため、まじめそうに見
せようと紺か黒のスーツが多いが、口の悪い友人に言わせと、まるでお葬式だ。
「誰でも」同じ服で用が足りるということからすれば、まさに今流行りのユニ
バーサルデザインなのかも知れない。
そんな冗談はさておき、隣にいる人と見分けのつかないようなファッション
に身を包んで、居心地は悪くないのだろうか?彼女たちも、普段はそれぞれ、
個性的なファッションを楽しんでいるはずだ。なのに、なぜ、会社に入ろうと
すると、いきなり他人と同じファッションでも構わなくなってしまうのだろう
か。そんな他人との違いを表現できないような人が、会社に入って、隣の人と
違う仕事ができるはずはないし、そんな会社が伸びるはずはない。もちろん、
目立つだけの奇抜なファッションで会社説明会に参加すべきだと言うつもりは
ない。ただ、紺や黒以外でも、おちついた雰囲気を出す色はあるし、ツーピー
スのスーツ以外にも選択肢はあるはずだ。そんな自分らしさを表現しないよう
な人が、会社でオモシロイ仕事はできないのではないだろうか?
ただ、そのホテルの大ホールで開かれた説明に入ってくと、同じようなグレー
のスーツを着た人事担当者がずらっと並んでいて、みんな同じような顔に見え
たそうだ。
<岸田 能和>
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