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 岸田 能和 執筆記事
 
 
 
自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸
田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカー
を経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画
などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た
発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。
著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第47回 『診察室』


 私はお酒が嫌いではない。いや、酒好きだと言った方が正しいだろう。おま
けに、私は多様な文化や価値観を認め合うことを大切にしているので、ビール、
焼酎、ウィスキー、日本酒、紹興酒…と分け隔てなく、飲むようにしている。
それは、おつまみも同じで、刺身、焼き鳥、刺身、オデン、シュウマイ、チー
ズ、キムチ、枝豆、冷やしトマト、卵焼き…と手当たり次第に注文し、多様な
文化をおなかに入れるようにしている。幸い、私が行くような下世話な居酒屋
はメニューに多様性がある。しかし、五十を過ぎてから、体が多様性を認めな
くなってきている。

 先日も、血糖値が高いということで、近所の医院へ行くはめになってしまっ
た。待合室で待っていると、診察室に入るドアが気になり始めた。それは、ド
アに表示された「診察室」という表示プレートが中途半端な位置に貼られてい
てキモチが悪いと思ったから。調査したことはないが、2 メートルくらいの高
さのドアだと、床から、150〜 160 センチメートルくらいに貼られていると、
バランスが良く見える。しかし、その診察室の表示プレートは高い床から 120
〜 130 センチくらいの高さに貼られていたからだ。これでも、元はデザイナー
なので、ドアの高さの半分よりちょっとだけ高いという、中途半端さ加減が気
になったのだ。

 しかし、しばらくすると、その高さの意味が分かった。その医院に来るのは、
今どきの若い人たちに比べると小柄な高齢者が多い。しかも、彼らは、多少は
腰が曲がっていたり、体調が悪かったりして訪れているので、自然にうつむき
加減になっている。そのため、診察室という表示プレートをわざと普通より低
い位置に、貼り付けたようだ。

 そんな配慮が分かり、改めて、その表示プレートを見ると、「それなりのバ
ランスだと思った」と、言いたいところだが、中途半端なバランスでキモチが
悪いことには変わりがなかった。

 問題は、高齢者の方たちに見えやすいような配慮だけでとどまっていること
だ。見えやすいという機能を満たす一方で、多くの人が美しい、安心する、オ
モシロイなどと思うような配慮も忘れてはいけない。例えば、この医院の診察
室ドアなら、上端から下端をつなぐ、ストライプを貼った上で、同じ高さに
「診察室」と表示をすれば唐突な印象は薄まるはずだ。そんな、あと一歩の配
慮がなければ、モノの完成度を高めることは難しい。そんなことを考えている
と、「岸田さん、どうぞ」と診察室のドアが開いた。


                            <岸田 能和>









































 
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