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 岸田 能和 執筆記事
 
 
 
自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸
田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカー
を経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画
などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た
発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。
著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第29回 『ギックリ腰は忘れた頃にやってくる』


 最初にギックリ腰をやったのは二十歳の頃だ。姪が水遊びをしたビニールプー
ルの水を汲み出すのが面倒なので、プールの一方を持ち上げて捨てようとして
ギックリ腰になったのだ。しばらくは激痛で立てないほどだったが、1 週間く
らいで何とか痛みはなくなった。しかし、その後、デザイナーを生業としたの
がいけなかった。一日中、椅子に座っているため、何年も経っているのに、腰
がひどく痛むようになった。そのため、接骨医の友人に治療してもらったが、
彼からは腰を支える腹筋や背筋を鍛えるような運動をするようにとのアドバイ
スをもらった。しかし、「喉もと過ぎれば・・」で何もせずに過ごし、ギック
リ腰をやったことさえ忘れていた。しかし先日、庭仕事のようなことをやって、
またまたギックリ腰をやってしまったのだ。

 ほうほうの体で、近くの接骨院に行き治療を受けた。そして、しばらくの間
は湿布薬を貼り、サポーターを巻いてオフィスへ通うことになった。悪いこと
は続くもので、こんなときに限って忙しく、朝から夜遅くまで椅子に座りっぱ
なしの仕事が入っていた。

 しばらくすると、腰だけでなく、お尻が痛くなってきたことに気がついたが、
その原因は私の使っている椅子にあった。その椅子の座面は薄っぺらで、クッ
ション性がほとんどないのだ。普段は無意識のうちに適当に動かしていて気が
つかなかったが、ギックリ腰用サポーターをしているため、一定の姿勢をとっ
たため、お尻にかかっている負担が分かったのだ。ためしに、同じオフィス内
にある別の椅子で仕事をすると、お尻は痛くならなかった。

 私の座っていた椅子は、経費削減活動の一環で購入した一万円を切る低価格
のものだった。それでも、高さ調整ができ、ひじ掛けさえついている。一方、
借りたほうの椅子は有名メーカーのもので、見た目もたいして変わらないが、
値段は三倍以上だ。しかし、これが問題なのだ。値段の差が使ってみないと分
からないからだ。

 さらに、問題なのは、そうした値段の差を思い知ったときの反応だ。座り心
地が違う 2 つの椅子の値段が少しだけしか違わなければ、メーカーや販売店に
文句を言っただろうが、三倍以上もの差があると、「何しろ、安いのだから、
こんなのだ。」とあきらめてしまう。

 値段がとんでもなく安いのは、それなりの使い心地や耐久性であるからだ。
しかも、それを外観だけは本格的なモノに似せて悪いところを隠している。そ
んなモノ作り、モノ選びをやっていると、経費削減はできたとしても、腰やお
尻を痛めた人だらけのオフィスになってしまいそうだ。


                            <岸田 能和>




























 
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