自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸
田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。
【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカー
を経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画
などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た
発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。
著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある
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第14回 『ひねる』
子どもの頃に聞いた漫才の話だ。漫才師の一人が「今日は、英語の勉強をし
よう。犬が寝るところだから『ケンネル』。それでは、水道の蛇口は何?」と
聞く。すると、相方(あいかた)が「そりゃあ、カンタンだよ。『ヒネルトジ
ャー』だろ。」と言う。最近は、オフィスビルや駅にある洗面所では蛇口の前
に手を出すだけで水が出る「テヲダストジャー」が増えているので、この手の
ダジャレは使えなくなりつつある。
ところで、私は根が貧乏症なので、使い終わると、水道栓を力任せにひねっ
てしまう。そのため、妻や娘たちに「"馬鹿力"のお父さんが使ったあとは、水
道栓は開けづらい。」と評判が悪い。ただ、言い訳をすれば、水道栓のハンド
ルのカタチが良くないことも、開けづらくしている原因だと思っている。つま
り、水道栓のハンドルが円筒形となっているために、石鹸などを手につけてい
ると、力が入らず、実に開けにくい。ところどころに、申し訳程度の溝があっ
て指がかかるようにはなっているが、あまり効果はない。
そんなことを考えながら、建物の歴史を紹介する写真集を見ていて気がつい
た。昔の水道栓のハンドルは真上から見ると、一文字型や十字型、あるいは少
し時代が進むと三角形などのカタチになっている。そのため、しっかりとハン
ドルをつかんで、ひねることができる。そうしたハンドルがいつの頃からか、
プラスチックでできた円筒形のハンドルに変わっていった。一昔前のハンドル
は金属にピカピカのめっきが施されており、冬の朝に触るのは少し気が重い。
その点、プラスチックであれば、冷たくはない。しかも、透明なものやカラフ
ルな色使いもでき、洗面所を明るい雰囲気にすることに一役買ったことは認め
るべきだろう。しかし、そうした効果を認めたとしても、水道の栓を開け閉め
するという大切な機能が後退しているとしたら、問題のはずだ。
近頃は、一昔前の家具、家電製品、インテリアなどが若い人たちに人気があ
るという。その秘密の一つには、一目見ただけで、使い方や使い勝手が分かる
ような素直なデザインもあるようだ。たまには、そうした目で先人達のデザイ
ンしたモノを見てみるのも大事だ。
ところで、エッセイはネタにひねりがなければ、「ツマンナイ」と言われる
し、ひねりすぎると「ワカンナイ」と言われてしまう。どうやら「ひねる」の
はむつかしいようだ。
<岸田 能和>
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