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 岸田 能和 執筆記事
 
 
 
自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸
田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカー
を経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画
などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た
発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。
著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第3回 『かけにくいボタン』

 以前から、ラフでありながら、どこか洗練された印象のあるラガーシャツを
着てみたいと思っていた。しかし、ルールさえ全く知らないラグビー音痴の私
としては、かっこだけで着ることにどこか抵抗があった。それが、ひょんなこ
とからラガーシャツを買ってしまった。

 買ってきて襟元のボタンをかけようとして驚いた。それは、ボタンが柔らか
いゴムでできており、かけにくかったからだ。当然、外すにも少し手間取って
しまう。そこで、なぜボタンがゴムででききているのかを想像してみた。恐ら
く、柔らかいゴムであれば滑りにくいので、激しく動いても、ボタンがはずれ
にくく、襟元がいつもキチンとしている。その上、ラグビーの試合を見ている
と、シャツの裾や襟を思いきり引っ張ることは珍しくない。そのため、一定以
上の力がかかれば柔らかいボタンが変形することで、ボタンが飛んでしまうの
を防いでいるようだ。(普通の硬いボタンだと、太い糸で丈夫に縫いつけるし
かないが、ボタンが飛ばない分、布地をいためる可能性が高くなる。)こうし
て、いつも襟元をキチンとしようとしていることもラグビーあるいは、ラガー
シャツの洗練された印象を支えているようだ。

 そんなことさえ知らなかったのかと言われれば、それまでだが、私としては
大きなショックだった。つまり、私は今まで、ボタンはかけやすい、はずしや
すいことが大切だと思い込んでいたが、それだけにとらわれていると、どこか
で落とし穴にはまってしまうことに気がついたからだ。

 もちろん、かけやすさ、はずしやすさをないがしろにしてはいけないが、一
番大切なことはボタンがかかっているときのはずだ。少しくらい動いても、力
がかかってもボタンが外れないでいるのが、おしゃれなのだ。しかし、私たち
が普通に買うような服は最初のうちはともかく、何度か着るうちに、ボタンが
外れやすく、だらしない印象を与えるものが多い。(安物の証拠だと言えばそ
れまでだが・・)ならば、ラガーシャツのボタンのようにゴム素材や硬くても
すべりにくい表面加工にする、あるいはボタンホールの糸の素材を工夫するな
どの手はありそうだ。そうなると、ボタンのかけはずしはカンタンではなくな
るが、あとはバランスの問題だ。

 ボタンに限らず、カンタンに操作できることは落とし穴があることを心して
おくべきだ。たとえば、ちょっと触っただけで電源が入るようなスイッチは、
不注意で触れただけでも電源が入るのだ。カンタンにするというのは案外カン
タンでないことは分かっておくべきだ。

                             <岸田 能和>










 
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