住商アビーム自動車総合研究所 SC-ABeam Automotive Consulting お問合せ地図 サイトマップ English


住商アビーム自動車総合研究所
ホーム
私たちについて
サービス概要
自動車業界の皆様へ
自動車業界以外の皆様へ
ネットワーク
プレスリリース
メールマガジン
ライブラリー
会社概要/スタッフ紹介
お問合せ
 
メールマガジン
加藤 真一 執筆記事一覧
 
 
 
◆Chrysler franchises attract buyers
(クライスラーのフランチャイズが投資家を惹きつける)

            <2005年4月4日付けAutomotive News掲載記事>

 最近筆者が注目している経営者の一人がダイムラー・クライスラーのクライ
スラー部門の社長兼 CEO の Dieter Zetsche 氏である。
 4年前同氏が旧クライスラー社出身の Jim Holden 社長の後を引き継ぎ、ダイ
ムラー出身で初めてクライスラー部門のトップとなった際には然程大きな注目
を集めなかった。また、長い間同部門はダイムラー・クライスラーのお荷物的
存在だった。そのクライスラー部門が Zetsche 氏のリーダーシップの下に静か
に変化を遂げている。

 本誌 Vol.48 ( http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/kato/kato0048.html )
にて筆者は同社のサプライヤーズ・リレーション(SR)再構築の動きについて
述べた。GM や Ford に率先して「コスト削減一本やり」からの脱却を図る動き
である。
 また、本誌 Vol.4 ( http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/kato/0004.html )
にて「新車部門の収益拡大のためにはカスタマイズが一つの方向性」であるこ
とを主張していたが、最近同社が自社製品のラインナップの中に次々に加えて
顧客からもディーラーからも引っ張りだこになっている「SRT (ストリート・
レーシング・テクノロジー)」という高性能バージョンは究極のカスタマイズ
である。

 その Zetsche 氏が今度は全くユニークな IR (インベスターズ・リレーショ
ン。投資家に対する広報)活動を始めた。大きなサプライ・チェーンやバリュ
ー・チェーンを構築している日本のメーカーやインポータにも示唆に富む内容
なので今回はその活動の目的や内容を紹介したい。

【クライスラー部門がやっていること】

 クライスラー部門(Chrysler、Jeep、Dodge)は、昨年 12月にメガ・ディー
ラー・グループ 164 社を集めて「Investment Conference (投資説明会)」を
開催した。その内容は、同部門のディーラー事業がいかに投資機会と経済価値
に溢れたものかを説明するもので、同部門が進める商品戦略や宣伝計画、品質
管理活動などに触れた後、同部門の既存ディーラー事業の M&A における現在の
一般的な相場価格(買収価格)が相対的に割安であることを訴えるものである。

 そして、その目的はメガ・ディーラーによる既存ディーラーの買収を促進し、
自社の流通チャネルの集約統合、事業基盤拡大を図ることにある。

 米国の自動車流通業界に精通されていない方のためにいくつか補足説明が必
要であろう。
 (1)相場価格、(2)ディーラー再編統合の試み、(3)メガ・ディーラーの
存在感について、である。

(1)相場価格

 米国ではディーラー事業は古くから M&A の対象になっており、取引価格の目
安は「EBITDA (金利・税金・減価償却・無形固定資産償却前の営業利益)の何
倍」という形で交渉されることが多い
 筆者の経験では 5 倍以下なら比較的割安で、8 倍を超えるとよっぽどの事情
がなければ経済的に割に合わないという感覚だが、昨今 Lexus 等ホットなブラ
ンドでは 10 倍を超えることも多いらしい。
 Zetsche 氏は投資説明会の中で、クライスラー部門のディーラーの相場が
「EBITDA の 4 倍」であることを積極的に述べているそうである。

「EBITDA の何倍」というのは、株式市場における「PER (株価収益率)」と
同様で、倍率が高いということはそれだけそのブランドの将来性が市場で評価
されていることを示す。従って、「クライスラーの倍率が低い」ということは
多くの投資家が同部門の将来性を低く見積もっていることを示すものだが、同
時に開示される商品政策や宣伝政策、品質活動などに理解・共感を示す投資家
にとっては将来性のある事業に割安に参入できる機会だという印象を与えるこ
とができる。

(2)ディーラー再編統合の試み

 日本では凡そ 1500 社のディーラーが年間約 6 百万台の新車を販売している
から一社あたりの新車販売台数は約 4 千台である。米国では日本の約 3 倍に
あたる年間 17 百万台の新車が販売されるが、ディーラーは約 15 倍の 21,650
社(NADA)あるため、一社あたりの新車販売台数は 800台弱と日本の 5分の 1
に過ぎない。
 多くが零細企業であり、事業基盤が弱いため、設備や人材、在庫や宣伝への
思い切った投資が期待できず、結果として自動車メーカーが販売チャネルに期
待する役割に応えてくれないところが多い。また、ディーラーの乱立が乱売を
招き、有力なディーラーの収益性も低下する。その結果、自動車メーカー自身
の収益性やブランド価値の低下も招くことになる。

 従って、事業基盤・販売能力の弱い零細ディーラーを、投資能力・営業基盤
の大きいディーラーに切り替えていくことが自動車メーカーの悲願であるが、
法規制がなかなかこれを認めない。
 自動車製造業において 労働組合の影響力が強く競争力強化を阻んでいること
を 本誌 Vol.54( http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/kato/kato0054.html )
にて触れたが、流通サイドでも米国の法規制は歴史的経緯からこと自動車業界
については社会主義的であり、メーカーが既存ディーラーの立場を不利にする
形で契約の解除や変更を行なったり、別のディーラーを起用すること、自動車
メーカー自身がディーラーを兼営すること等に対して極めて厳格である。

 こうした制約条件を踏まえてなおディーラーの再編統合を実現する試みはか
つてもあった。97年にフォードが当時の Jack Nasser 会長の下で推し進めた
「Auto Collection」と呼ばれるイニシアチブである。
 これは、地域ごとにメーカーが新会社を設立し、そこが地場ディーラーの資
本を買い集める(多くの場合は株式交換の)形で地域のディーラー統合を進め
るというメーカー主導の再編統合の試みである。全米 5 箇所で始めたが、地場
ディーラーの反発とモチベーション低下を招いてどこでも台数と収益性は却っ
て低下する結果となり、頓挫した。1999年末にはこの戦略を撤回し、2002年に
Salt Lake Cityの「Auto Collection」売却により完全に幕を閉じた。

 今回のクライスラー部門の試みは、自動車メーカーが買収主体・経営主体と
はならず、仲介役に徹する点と、外の血を入れる・外の経営に一任する点が根
本的に異なる。(Ford のケースでは外の血を入れるのではなく、身内の寄り合
い所帯であった。) Automotive News 誌の記事では、クライスラー部門の取り
組みは「既存ディーラーの事業売却の機会拡大につながるもの」と支持を受け
ており、寧ろ彼らの要請により今年 10月には第二回の投資説明会が開催される
計画という。効果においても異なるものである。

(3)メガ・ディーラーの存在感

 上述の通り米国のディーラーは総じて日本のそれよりも圧倒的に小粒である。
 しかし、潮流は明らかに変化している。
 20年前の 1984年、米国の自動車ディーラーは 24,725 社あったが、これを年
間販売台数(a) 150台未満、(b) 150台以上 400台未満、(c) 400台以上
750台未満の四つに分類すると、多いものから順に、(a)35.0 %、(b) 34.5
%、(c) 16.6 %、(d) 14.0 %であった。
 昨年 2004年には全ディーラー数 21,650 社の内訳は、同じく多い順に、(d)
29.9 %、(c)27.7 %、(b) 26.5 %、(a) 16.0 %と完全に逆転している。

 また、Automotive News 誌のランキングによれば、上位 20 ディーラー(ト
ップは AutoNation、20 位が CarMax)が全米の新車販売台数に占める割合は
昨年 9.3% に達した。全米 21,650 社の 1000分の 1 にも満たない 20 社が全
米で販売される新車の 10台に 1台を販売しているということである。
 大半は M&A により事業規模の拡大(マルチブランド化、マルチロケーション
化)を図り、システムやバックオフィスの統合によって経営効率を高めて収益
性を追求していくタイプの「コーポレート型ディーラー」である。中には株式
を公開し、自社株をいわば現金の代わり(通貨)にして M&A を加速させている
会社もある。

 自動車メーカーの中にはこうした「コーポレート型ディーラー」を嫌悪する
声も根強い。地域に根ざした顧客満足や、メーカーとの長い人間関係に基づく
ブランド・ロイヤリティーよりも、短期の売却益や損切りを重視した移転や売
却を頻繁に行ないがちなので、自動車メーカーの価値観や戦略と相容れないと
いう理由である。

 それももっともではあるが、一方では上記(2)のような構造的問題の解決を
誰が担えるか、20年前と比較した流通構造の変化が顧客やメーカー、既存ディー
ラーの意思を全く無視した形で実現されたと言い切れるかという問題がある。

【日本企業へのインプリケーション】

 冒頭筆者は今回のクライスラー部門の試みが「ユニークな IR 活動」だと述
べた。それはつまりこういうことである。

 通常、IR とは自社に投資してくれる(株式を購入してくれる)投資家に対し
て行なうものである。今回のケースでは、自社そのものではなく、自社のバリ
ュー・チェーン(チャネル)に投資してくれる投資家に対して行なう IR 活動
だという点がユニークなのである。

 弊社篠崎が本誌 Vol.43 の「今更聞けない財務用語シリーズ第 11 回〜連結
会計」( http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/shino/shino0043.html )で、
本当の企業価値とは単なる資本関係に基づく連結会計の資料から導き出すべき
ものではなく、サプライ・チェーンやバリュー・チェーンの強み・弱みや価値・
リスクも考慮した「バリュー・チェーン会計」から導き出すべきだということ
を提唱している。

 今回のクライスラー部門が行なっていることとは、正に篠崎がいう「バリュ
ー・チェーン会計」に基づき、その価値を最大化してくれる投資家に呼びかけ
る IR 活動であろう。通常の IR 活動に呼応してくれる投資家は単なる資金の
出し手にとどまるが、今回の活動に呼応してくれる投資家は資金の出し手にと
どまらず、一緒に企業価値の最大化に努めてくれる戦略的投資家であるから、
ある意味ではこれこそが本来の IR 活動であるということができるかもしれな
い。

 日本でも自動車メーカーは、原材料・素形材・設備工具・構成部品のサプラ
イヤーで構成される長いサプライ・チェーンや、ディーラー・部用品卸会社・
金融会社・物流会社等で構成される長いバリュー・チェーンを構築している。
 自動車メーカーに限らず、輸入車のインポータでも少なくともディーラー・
チェーンは擁している。

 ところが、日本のメーカー、インポータで自社の株式への投資家以外に対し
て IR 活動を行なっているケース、自社のサプライヤーやディーラーを対象と
した投資説明会を開いているケースは殆どない。
 資本関係のない自社のバリュー・チェーン(サプライヤーやディーラー)に
関してクライスラー部門と同様の課題を抱えていたとしても、そこに「外の血
を入れて解決を図る、そのためのイニシアチブを取る」という発想は殆どなく、
身内の間で密かな解決を図るというのが普通だろうと思う。

 ディーラーの M&A が日常茶飯事の米国と違って日本では M&A をオープンに
議論することは対象会社にとっても自社にとってもリスクであったり、期待し
たほどの効果が得られないといった問題はあるかもしれない。
 だが、それは技術論で解決できることも多いはずで、「バリュー・チェーン
の強化を自社が主体的に取り組むべき課題と認識できるか」という経営思想の
問題や、「解決にあたって外の血を呼び込む勇気を持てるか」というリーダー
シップや企業文化の問題の方がより本質的な問題だと思う。
 私たち住商アビーム自動車総研は「3 つのターボ」というサービス・メニュー
でこうした微妙なご相談にも応じているのでお気軽にお声掛けいただきたい。

【おまけ】

 クライスラー部門の IR 活動の成果であるが、まずまずのようである。
Automotive News 誌は、昨年 12月の投資説明会に出席した 164 社のメガ・
ディーラーのうちこの 4 ヶ月で 8 社が早速同部門のディーラー買収を実行し、
21 社が商談中、42 社が検討中、と報じている。

 なお、今年 1-3月の全米新車販売台数は 389 万台で、前年同期比 0.4 %の
微減にとどまるが、内訳は現代(同 13.3 %増)、日産(同 11.5 %増)、ト
ヨタ(同 9.1 %増)など総じてインポート・ブランドが台数を伸ばし、その分
ドメスティック・ブランドが煽りを食らう構造である。ドメスティック・ブラ
ンドでは GM も Ford も同 5.2 %減と落ち込む中、クライスラー部門(Chrysler、
Jeep、Dodge)は同 5.6 %増とひとり気を吐いている。だからこそ Zetsche 氏
の呼びかけが説得力を持つものになっているのであろう。

                        <加藤 真一>

メールマガジントップへ
 
ディスクレイマー 2004 SC-ABeam Automotive Consulting All Rights Reserved