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加藤 真一 執筆記事一覧
 
 
 
◆フォード、中国当局から中国における自動車金融業務の認可を受けたと発表
 中国で展開している100社超の系列ディーラーに対し、金融サービス提供へ

<2004年8月4日号掲載記事>

フォードの金融子会社フォード・モーター・クレジットが中国銀行業監督管
理委員会から会社設立の認可を受けた。6 千万ドルを投資して 2005年から営業
を開始する予定と報道されている。GM、VW、トヨタの三社は、昨年末に同じ認
可を取得済みで、今年中の営業開始に向けて最終準備中と言われており、
フォードもようやく追撃準備が整った。

 破竹の勢いで成長してきた中国の自動車市場に対して悲観的な見方がここに
来て勢いを増している(筆者自身は中国が日米欧に並ぶ巨大市場に成長してい
く過程で今後も繰返し起きるであろう調整局面の一つに過ぎないと考えている
が)。その論拠として指摘されているのは次のような現象である。

 ●販売が停滞していること
(今年 4月以降 6月迄、全国自動車販売が 3 ヶ月連続で前年同月比割れと
なっている。北京市内の販売店の 7 割が 2日に 1台の売上しかないと伝え
られている。)
●在庫が急増していること
(今年 6月末時点の全国の自動車在庫は、 409.0 千台と昨年の平均月販台
数 (365.9 千台) の1ヶ月分以上に達しているとされる)
●ラインを停止するメーカーも出ていること
(一汽大衆は電力不足が原因だと反論している)
●値引き競争が蔓延していること
(今年 6月の北京国際自動車会議の講演の際に筆者は価格下落率を年率 10%
という前提でお話したが、昨今はこれが 14.4% に達するとの予測まで出て
いる。また、最近は、値下げによって経済的損害を受けたとするユーザー
の反発を懐柔する目的で、無料のアップグレード等に応じるメーカーまで
出ている。)

 これらの事象が起きている背景の一つとして、貸倒れリスクや実損の増大に
辟易した中国地場の自動車ローン各社が新規のローン供与に極めて慎重になっ
ていることが指摘されている。
 冒頭に案内している弊社の「日中韓ユーザー調査レポート」の中でも触れて
いるが、確かに中国自動車市場での販売金融事業には、貸倒れリスクへの備え
が制度的に、構造的に不十分な点が見受けられる。例えば、次の点である。

●信頼に足る個人信用情報へのアクセス手段の未整備、
●自動車ローン信用保険というリスクヘッジ機能の喪失、
●新車価格の継続的下落による担保価値の想定以上の下落。

 こうした中でキャプティブ・ファイナンス(自動車メーカー直系金融会社。
連結会計対象である。)が争って中国事業に走るのは、一見無謀にも見える。
(勿論、金融事業がない限り自動車事業の成長にも限界があるという判断や、
米系自動車メーカーが実質的に金融事業会社に移行してしまっているという背
景があってのことではあろうが。因みに、フォードは 2003年度の営業利益 34
億ドルのうち 97% にあたる 33 億ドルを金融事業で稼ぎ出している。GM に至
っては、同年度に自動車事業で 16 億ドルの営業赤字を出す一方で、金融事業
では 10 億ドルの黒字を計上している。)

 今回は、キャプティブ・ファイナンスの立場に立って、この段階で中国事業
に着手することが得策かどうかを検証してみたい。

 ここでは、典型的な戦略評価の手法である SWOT分析(S は Strength で自社
の強み、W は Weakness で弱み、O は Opportunity で機会、T は Threat で脅
威)を使うことにする。
 順番は前後するが、T (脅威)→ W (弱み)→ O (機会)→ S (強み)の
順番で見ていくことにする。

(1)T(脅威)
 既に述べてきたように貸倒れリスクへの備えが制度的に不十分なことで
ある。特に正確な信用情報が取れないということは、万全なリスクの予防
策・回避策が取れないということなので、本来ならリスク発生時の損失の
軽減策・転嫁策(いわゆるリスク・ファイナンス)を万全にしておく必要
がある。自動車における最大のリスク・ファイナンスは、担保である自動
車を引揚げ、処分して損失の清算に充てることであるが、その価値が経年
劣化や減価償却のスピードを上回って下落していく構造には対処しがたい
ものがある。

(2)W(弱み)
 最大の弱みはデータベースの欠如だろう。金融事業の最終的なリスクヘ
ッジは、統計学(確率論、大数の法則)の活用である。これだけの母数が
集まれば、統計学的にリスクの発生(損失の実現)確率はこのくらい、そ
の際の損失の大きさはこのくらい、という見積りをして、それを価格設定
と引当金に織り込むことでリスクマネジメントを行なう。日本の消費者金
融事業のモデルが正にそれである。
 ところが、キャプティブ・ファイナンス各社は、海外では膨大なデータ
ベースの蓄積を持つものの、新規参入の中国にはそれがない。他市場の数
値を持ち込んでも異質な制度・文化を持つ中国ではおそらく通用しない。

(3)O(機会)
金融会社の視点で見ると、次の3つが指摘できる。

●顧客の所得増加が見込まれていること
 貸倒れ事故のうち、支払能力に対して借入負担が大きすぎることが原
因で発生している事故の確率が減少することを意味する。
 仮に自動車価格が下がらない(従って、ローン総額も下がらない)と
仮定した場合、中国経済が年率 7% で成長を続け、可処分所得(2002年
で 7703 元)も見合いで増加するとしたら、2010年には可処分所得が 2002
年の 1.7 倍、2015年には 2.4 倍と見込まれる。ローンの負担感が 2002
年対比で各々 1.7分の 1、2.4分の 1 に減少することを意味する。
 もし、自動車価格が年率 10% で低下していけば、2010年にはローン総
額が 2002年の 56%、2015年には 39% まで低下することになるから、ロー
ンの負担感は 2002年対比で各々 33%(3分の 1)、16%(6分の 1) に低下す
る。
 さらに途中元の切り上げが実施されると、実質的な負担感は一層低下
することになろう。

●顧客層の拡大が見込まれていること
 データベースが急速に蓄積されていくことを意味する。
2002年に 58 万台に過ぎなかった家庭用乗用車の販売台数が、2010年に
は 8.6 倍の 501 万台、2015年には 913 万台に増加するというのが国務
院発展研究中心の推計である。

●競争と新規参入が少ないこと
 過当競争の防止とデファクト化実現の可能性が高いことを意味する。
中国の自動車ローン市場は、ライセンス事業であり、今日まで 4 大国営
商業銀行の独占市場だが、上記に挙げた脅威の抜本的解決策が見付かっ
ていないため、積極的なプレーヤーが内にも外にも少ない。

(4)S(強み)
 キャプティブ・ファイナンスの場合は、自動車メーカーと一体となった
リスクマネジメントが可能であることだと思われる。

●顧客情報が蓄積できる
 自動車メーカーが CS (顧客満足)とブランドロイヤリティー(忠誠
度)を高めて、顧客を囲い込む戦略をうまく展開していけばいくほど、
キャプティブ・ファイナンスのデータベース蓄積が促進される。

●担保価値をある程度制御できる
 自動車メーカーが新車の品質と価格、ディーラーの補修整備力と顧客
対応力を高く維持し、流通の量と方法と時期を適切にマネージしていき、
ブランド力を高めることが中古車相場の高値維持に繋がる。

(5)結論

 いくつもの仮定や前提条件を置いた話なので、それらが全て正しいと見
て、かつ当座の事業性に目を瞑って長期的視野で考えた場合の話だが、キ
ャプティブ・ファイナンス各社の現時点での中国事業着手は一つの有力な
選択肢だと筆者は考える。
 T (脅威)と W (弱み)に指摘した事項がかなりの程度、S (強み)に
よって克服できると考えられるし、門戸が狭く競争の少ないこの時期に独
自の手法で市場を押さえて、O (機会)を手にすることが可能になると判
断されるからだ。
 逆にキャプティブ・ファイナンス以外の金融事業者には、かなり慎重な
対応が求められる局面だと考える。O (機会)はあっても、T (脅威)と
W (弱み)を克服できる S (強み)がこの市場、この局面ではあまりない
と思われるからだ。

                        <加藤 真一>

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