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加藤 真一 執筆記事一覧
 
 
 
スーパーやコンビニなどの異業種小売業態で活用されているマーケティン
グテクノロジーを自動車業界で応用できないかを全5回のシリーズで考えてみ
ようというコーナーです。

 第3回の今回は、「自動車小売業における来店客の買上客化 前編」として、
まずは「動線長」と「売り場立寄り率」の改善までを考察します。

前 2 回を復習すると、次の通りになります。
(1)スーパーやコンビニなどの小売業態では、ISM (インストア・マーチ
ャンダイジング)と呼ばれる、来店客の行動を分解して各々のポイン
トで店舗側が「品揃え」と「陳列」の面で効果的、効率的な刺激を与
えることで、「買上客数」と「買上個数」を増やすための仕掛けが展
開されている。
(2)スーパー、コンビニと自動車小売業態の間では扱う商品の購買特性
(店内購買決定率の低さ)、パッケージセールスの難しさ、日本の自
動車小売業特有の事情という違いが制約条件となって単純な応用は難
しい。
(3)しかし、自動車小売業においても店内購買決定やパッケージセールス
は実際に存在しているうえに、購買意思が強くて来店頻度が極少ゆえ
に ISM を活用する価値と必要性はより大きいとも言える。

 第 1 回にて、買上個数は、動線長X売場立寄率X商品視認率X商品買上率
X商品買上度数に分解されるとお話し、そのうち商品買上率までが「買上客
数」増大のためのの仕掛け、商品買上度数が「買上個数」を増やすための仕
掛けに相当すると述べました。「買上個数」は正確に言えば、買上客一人あ
たりの買上個数を増やす方法と、一人あたりの買上個数は同じでも買上客数
を増やす方法の 2 種類があるからです。
 今回は、前者の「買上客数」を増やすため、この公式 を使って、まずは動
線長〜売場立寄り率までの指標を改善する施策例を考えてみることにします。


●動線長を伸ばす

 日本の自動車ディーラーは、道路面からいきなりショールームが始まっ
ていますね。そのショールームはガラス張りで、その中には自動車だけで
なく、商談スペースやセールスオフィスも入っています。
 ディーラーの側から見たら当たり前の風景でしょう。

 しかし、一度お客様の視線で来店してみてください。ウィンドウショッ
ピングのつもりで入ろうとすると、そこには商品のディスプレイがあるだ
けではなく、獲物を待つ肉食動物のようなセールスマンが待ち伏せしてお
り、商談机が並び、口元は笑っているものの鋭い目を持って営業マンの尻
を叩いている営業所長のオフィスが垣間見えることが問題なのです。

 入店時の敷居が高いだけでなく、一度足を踏み入れても誠に居心地悪く、
運転席に半分腰掛けてウィンカーレバーをちょこっと動かしてみたら、誰
とも目を合わさず、店内を歩き回るどころか、他の展示物や掲示物にも
目もくれずに退散したくなります。その間、約 2分。
 動いたスペースは商品の回りの 10m だけ。

 お客さんはわざわざ店舗まで足を運んで来てくれているのです。居心地
がよければ、もっとあちこち歩き回り、じっくり色んな商品を眺め、色ん
なところに触れてみたい、試してみたいと思っているはずです。

 では、この居心地の悪さはどこから来るのでしょうか。
 ショールームは売り物を陳列する売場ではなく(特に在庫販売をしない
日本の場合はそうです)、本来は買い物の前にコンセプトを理解し、
イメージ付けをしてもらうためのディスプレイスペースです。
 洋服屋さんで言えば、ショーウィンドウやアイランドステージであって、
ゴンドラではないのに、日本の自動車ディーラーでは両者が識別されるこ
となく、混ざり合ってしまい、売場の匂いがプンプンしていることが居心
地の悪さを生んでいます。

 そこで筆者は、ショールームと売場(商談スペース)の分離を提案しま
す。まず、路面に近い側は、半屋外ショールームスペースとして、そこに
営業マンはや商談机は置かず、代わりに取り扱い商品ラインナップをずら
りと並べます。来店客が好きなだけ商品を観察し、触れることのできるス
ペースを創出します。
 商談スペースは、道路面からセットバックさせ、半屋外ショールームの
奥に配置します。屋根だけは路面まで延長させ、ショールームの屋根とし
て活用します。
 
 お店からの反論が色々聞こえてきそうです。
(1)ショールームとオフィススペースを分けるような土地の余裕などな
い。
(2)自動車は高額商品であり、貴金属と同様にショーケースの中に飾る
のが当たり前。特に日本では雨も多くて汚れるし、盗難や事故のリ
スクを考えても半屋外なんてとんでもない。
(3)動線長や店内滞留時間、店内回遊率だけ伸ばしても意味がない。肝
心の売場立寄り率は寧ろ下がってしまうんじゃないか。
何年に一度しか来店しない、それも購買意欲の高いお客さんに接触
もしないで放置しておくなんてありえない。

 しかし、次の点を考慮してみてください。
(1)土地の制約があるのであれば、思い切って売場(商談スペース)を
2 階に上げてしまってはどうですか。平屋しか建てられないような
建築制限でもありますか。もし、そういう制約があるのなら、そも
そもそこが立地条件としてベストでしょうか。
(2)米国の新車ディーラー、国内でも中古車ディーラーは屋外展示スペー
スを持っていますがきちんと手入れされています。しかも、半屋外
なら、汚れ、盗難、事故のリスクも最小限でしょう。
(3)その通りですが、売場立寄率の引上げは、次の項目での課題として、
ここではまず動線長を伸ばすことに集中しませんか。
それとも、動線長の確保と売場立寄率は二律背反するとか、動線長
を短くしても売場立寄率の向上でカバーした方が効果的だといった
経験やデータでもあるのでしょうか。

もっと効果と効率の高い動線長の伸ばし方があるかもしれません。これを
叩き台にして色々検討してみてください。

●売場立寄率を上げる

 前項で、動線長を伸ばすためにショールームと売場を分離してしまいま
した。売場は 2 階に持ち上げられてしまう可能性もあります。
 いくらショールームの敷居を下げ、居心地をよくしても、その分、売場
(商談スペース。以下、「売場」「店内」と言えば商談スペースを指しま
す。)への立寄りに抵抗感が増してしまえば意味がないのは、スーパーや
コンビニでも同じです。

 まず、最初に考えなければいけないのは、売場の敷居を下げることです。
自動車の場合は、売場の敷居が元々高い上に、スペースの関係で売場が
2 階に移ってしまったのならなおさらです。
 まず、どんな店舗でも、床材や家具調度類、照明や BGM 等を親近感のあ
るものにしておかなければならないでしょう。また、奥様連れや子供連れ
のお客様にはご家族が、退屈しない環境や施設、グッズが必要です。売場
が 2 階になってしまった場合には、天井を吹き抜けにする等して、抵抗感
を薄めることも考えてみる必要があるでしょう。

 それ以上に重要なのは、来店客に売場に立寄る理由、目的を与えてあげる
ことでしょう。プッシュ型、威圧感を与えるやり方で売場立寄りを勧誘し
ては、折角親しみやすいショールームに大変革した意味がなくなってしま
います。できるだけお客様の側から売場に入って来たくなるプル型のアプ
ローチが望ましいと思われます。以下はサンプルです。

<1> ノベルティの引渡し
単純ですが、スタンプラリーや、ミニクイズなどを行ない、ショー
ルームの車の中のあちこち(よく開け閉めされるグローブボックス
やトランクの中等)にスタンプやクイズの答えやヒント、クーポン
券等を隠しておき、ゴールと景品の引渡し場所を売場商談スペース
に設定します。

<2> 洗車サービスのオファー
新車ディーラーならどこでも持っている洗車設備を売場立寄り率向
上に活用するものです。人件費もかかるので流石に無料というわけ
にはいかないということであれば、プロに洗車してもらう為のコス
トとして、数百円くらいなら喜んで払っていただけると思われます。

なお、同じような目的でコンディションチェックのオファーも考え
られないことはないのですが、お客様の視点に立つと、その結果、
「あそこが痛んでいる、ここを交換しておいた方がよい」といった
プッシュ型マーケティングが次に来ることを予想しがちですので、
逆効果になる可能性があります。

<3> お客様の車の査定
車を買うために売場に立寄ることに抵抗はあっても、自分の車の価
値を聞くためなら多少抵抗感は下がるはずです。
屋外のショールームにいるお客様にアナウンスを掛けて、査定をさ
せてもらえないか打診し、関心があれば売場でお待ちいただきます。
ロールプレイングでいえば、次のような感じです。

【店】多摩 333 あ 1234、ブルーの日産サニーでお越しの鈴木様は
いらっしゃいますか?
【客】私ですが、何か?
【店】実は、いま日産車の買取強化キャンペーン中なのですが、お
客様が随分綺麗にお乗りなので査定だけでもさせてもらえないでし
ょうか?
【客】いま売る気はないよ。
【店】もちろん時期が来た時で結構です。ただ、こんないいお車を
お持ちのお客様がいらっしゃるということをエントリーだけでもさ
せていただきたいのです。お客様もお車の価値を知りたいと思われ
ませんか。お時間は取らせませんから少しだけ店内でお待ちいただ
けませんか。(更に<2>や<4>を組み合わせると一層効果的。)

言うまでもないことですが、店内では顧客情報を登録してもらい、
その後のフォローに繋げます。また、次回の話になりますが、査定
結果の通知と合わせて代替のハードルを低くするための情報提供も
合わせて行い、店内購買決定率向上に繋げます。

また、ここでも「あら捜し」の印象を与えないようにいいところを
見つけてあげるような工夫をしたいものです。(もっとも、お客様
の期待を高めておいて結果的にいい査定が出なければ却って逆効果
になる恐れがありますから、お声がけする前にざっと年式や走行距
離等、書類や概観上のチェックは行なって相場観を持っておき、そ
れに合わせた声の掛け方をする必要があるでしょう。)

<4> 実車ドライブシミュレーター
 少し IT 系の設備投資がかかる話になりますが、店内に実車を使
ったドライブシミュレータを設置して、屋外ショールームにいるお
客様にも分かるようにしておきます。
      ショールームでは通常蓋ものの開閉や、シート、スイッチ類の操
     作くらいは行なえても、加速感や制動感はもちろん、エンジン音や
排気音、カーナビやウインドウの作動感覚等は体験できません。
 そこで、この実車をベースにしたドライブシミュレータを使えば
それらが疑似体験できるようにしておこうというものです。
 お金もかかる話ですから、メーカーと一緒になって共同投資にす
るとか、メーカーの技術を借りる等の方法を検討します。

 こんなことをしなくても、試乗で解決できる問題ですが、試乗と
なるとお客様も少し、身構えてしまうのではないでしょうか。
 エンターテイメントであれば抵抗は下がるはずですから、店内へ
の効果的な誘導のためのマグネットになるのではないかと思います。

これらはあくまで ISM による売場立寄り率向上のためのサンプルですから、
もっと効果、効率の高い方法があると思います。
 

次回は、「自動車小売業における来店客の買上客化 後編」として、
「商品視認率」と「商品買上率」の向上のための施策に触れることにします。

                        <加藤 真一>

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