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加藤 真一 執筆記事一覧
 
 
 
◆日産、高級車ブランド『インフィニティ』を日本を含む、世界で展開へ
26日に発表した05年度からの新中期経営計画「日産バリューアップ」の
一環

                    <2004年04月26日号掲載記事>

日産の新たな3ヶ年計画「日産バリューアップ」が発表された。
今や米国でBig6と呼ばれ始めた世界有数の自動車メーカーの
新3ヶ年計画を部品サプライヤーの立場に立って眺め、サプラ
イヤーとしての課題を抽出してみたい。

 「日産バリューアップ」の主たる中身は以下の3つである。
(1) 2007年度の世界販売台数420万台、世界シェア7%の達成
(2) 世界最高水準の2桁の連結営業利益率の維持
(3) 同じく投下資本利益率(ROIC)20%の維持

 お気付きの通り(2)と(3)は現状の維持(03年度実績で連結営業
利益率11.1%、ROIC21.3%)であり、実質的なストレッチゴールは
(1)のみである。これまで後回しにしてきた(1)、即ち量的拡大を
最重点目標に掲げる一方、その実現のためにこれまで大事に培っ
てきた(2)と(3)、即ち質的改善に大きな犠牲を払うことがないよ
うに釘を刺したもの、と理解するのが自然な解釈だと思われる。

 このことは「日産バリューアップ」に先行する2つの3ヶ年計画、
「日産リバイバルプラン(NRP)」および「日産180」と比較して
みるとより顕著である。いずれのプランもゴーン社長の名経営者
たる所以の一つとして、達成すべき目標(コミットメント)が
絞り込まれていてかつ明瞭というのは同じだ。しかし、NRPでは
4つ、180では3つの数値目標が並立的にどれも重要かつ十分にス
トレッチなものとして掲げられており、今回ほど絞り込みと軽重
が鮮明ではなかった。

  NRP:(1)2002年度までにコスト1兆円削減
     (2)2000年度連結黒字化 <98/99年度は赤字決算>
     (3)2002年度連結営業利益率4.5% <98/99年度は1%台>
     (4)自動車事業連結有利子負債7千億円以下
        <99年度末は1兆3千億円>

  180:(1)2004(04/10〜05/9)年度世界販売1百万台増
     (2)連結営業利益率8% <00年度は4.8%>
     (3)自動車事業連結有利子負債ゼロ <00年度末は9.5兆円>

 「日産バリューアップ」が量的拡大を志向したものであることは
明らかだが、これを部品サプライヤーの立場で見るときにはどのよう
な点に留意するべきだろうか。
 「日産バリューアップ」の中身をもう少し深く読み込んでみると
いくつかのヒントが隠されている。

 第一に「インフィニティブランドのグローバル化」、第二に「新興
市場の開拓」、第三に「研究開発費・設備投資の計画」である。

(A)インフィニティブランドのグローバル化
 拡販の道筋の一つとして、米国専用のラグジュアリーラインを西欧
はもちろん、日本、中国、韓国、ロシアに拡張展開していく方針が掲
げられた。これを「二桁連結営業利益率の維持」の目標と合わせて
考えてみる価値があろう。

 ゴーン社長がこのブランドをお気に入りにしている理由は二つある。
03年度に日産は米国で総市場が前年比1%増にとどまる中で約18%も台数
を伸ばしたが、その台数増の2割以上は前年比29%もの成長を見せたイン
フィニティブランドによることが一つ。しかも、それがメルセデスの
4分の1、レクサスの3分の1、BMWの半分、日産ブランドの3分の2の
インセンティブで達成されたことが二つ目である。
 販売費を掛けずに(従って利益率を向上させながら)台数が出るので
あれば放置しておく手はない。
潜在的市場成長が見込まれるものの現段階では日産ブランドの浸透度が
低く、量販営業網も弱いロシア、中国、韓国や、逆に市場が成熟し、
日産ブランドでの成長余地の限られている日欧市場に持っていけばかな
りの成功が見込まれるという期待が感じられる。

 サプライヤーの立場では二つのことを読み取ることができる。

 第一に、インフィニティに関して言えば販売費を掛けるよりも商品力
の強化に充てることが利益率と台数を両立させると日産は考え始めた
はずだと思われることだ。
 部品に関してもそれが最終製品の商品力の向上に繋がる提案の方が、
コスト競争力中心の提案よりも受け入れられやすいと思われる。
 何しろ営業利益率の更なる向上は目指していない、維持されればいい
のだし、販売費が少ない分、営業利益段階では一定の原価の上昇は相殺
される。最重要な量的拡大が利益率を維持しながら実現される方が日産
にとってはありがたいはずだ。

 第二に、開発提案の方向性についてはグローバル化が鍵になろう。
米国専用モデルでは、J.D. Powerの評価の対象として初期不良の少なさ
や、耐久性の高さ、大排気量、高トルクを活かしたクルージングの快適
性は重要なファクターである。もちろん、これらは他市場でも無視でき
ない要素だが、それに加えて日本では変速時のATのスムーズさや塗装の
見栄えや静粛性、欧州ではエンジンにしてもブレーキにしてもピーク時
の性能の高さや燃費、環境適合性など他に気を配ることが多くなる。
 これらを高い次元でバランスさせる能力が部品レベルにも求められる
ことになる。また、前述の指摘と多少矛盾するようだが、これに関わる
開発費をいくら掛けてもいいということではなく、グローバルカーとし
て量的拡大が可能になる分相当のコスト競争力は必要となろう。それも
含めたグローバルモデルに相応しい魅力ある部品提案がサプライヤーに
求められると解釈できる。

(B)新興市場の開拓
 「日産180」の三大目標のうち唯一達成が微妙になっている(だから
こそ今回絞り込んだ目標となっている)のが2001年度比1百万台増とい
う台数目標である。この1百万台の割り振りは、日米に各30万台、欧州
に10万台、カナダ・メキシコを含む一般海外市場に30万台となっており、
本来なら「180」の最終年度である「変則2004年度(04/10-05/9)」に
日本101万台、米国102万台、欧州59万台、一般97万台の計360万台に
到達しなければならない。
 しかし、全体台数は維持しつつも内訳はおそらく変更され、日欧を
削って一般市場に上乗せする配分となるはずだ。

 というのも、最終年度を1年半後に控えた03年度時点での目標達成率
は、元々ハードルが低かった欧州の91%を除くと一様に80%台前半にとど
まる(全体でも84.9%)うえ、「純粋04年度(04/3-05/3)」にも日本と
欧州は各々前年比3.9%増、0.7%減の計画にとどまっているので、半年
ずれた「変則04年度」に日欧では「純粋04年度」比16.6%増、10.2%増
と二桁の大幅ジャンプアップが求められることになる。
 上記のインフィニティ投入を考慮に入れても日欧の負担は重く、
無理をすれば利益率の維持やルノーとの共存共栄関係に皺寄せが出る。
 一方、米国と一般海外市場は現在のモメンタムで順調に「純粋04年
度」の計画を達成すれば「変則04年度」へのストレッチは各々1.9%増、
0.1%減と軽い。
 しかし、好調とはいえ今年1百万台載せにチャレンジする米国に更
なる上乗せを期待するのは無理があり、一般海外市場の一層の開拓は
不可避だろう。

 そこで今回の計画では重点市場として短期的には韓国、エジプト・
中近東、タイ・アセアン、長期的にはインド、パキスタンを掲げている。
既にタイでは連結子会社化、エジプトでは現地工場の買収、韓国とロシ
アでは販売会社の新設など着々と手を打っている。

 自動車メーカーがこうした新興市場の開拓を掲げる以上、サプライヤ
ーに求められる役割は、市場開拓の効率を手助けすることだろう。
インフィニティの投入市場である韓国やロシアでの役割は前述の通り
だが、現地生産になるタイやエジプトでは納期と品質要求に応えられる
供給体制、それも自らの下請となる素材、素形材や設備メーカーも含め
た体制の構築が求められよう。

(C)研究開発費・設備投資の計画
 トヨタの02/3月期、03/3月期の研究開発費は各々5900億円、6700億円
だった。ホンダのそれは4000億円、4400億円、04/3月期は4500億円である。
 対して日産は2600億円、3000億円で、04/3月期も3500億円である。
年々増えているし、売上高に対する比率ではトヨタに遜色はないとはいえ
理論的にはリーダーの戦略として模倣でも構わないトヨタ並みではなく、
チャレンジャーとして差別化が求められる日産はホンダ並みの比率を
投じてもおかしくない。売上高比ではホンダが常に5%台半ばにあるのに
対して日産は4%台にとどまる。僅か1%の差と言っても金額では毎年1千億
円前後の差となり、何年か積み重なると無視できない乖離を生む。

 一方、設備投資はトヨタは毎年売上高比10%弱、金額にして1.5兆円を
投じている。日産も毎年5%弱-6%弱、3-4千億円を投じており、ホンダの
3-4%前後、2-3千億円程度の設備投資額に比べると設備投資をやって
きた自動車メーカーではある。だが、日産の過去3年の設備投資額は同期
間の減価償却費の91%にとどまり、実質的には縮小である。ホンダ、トヨ
タのそれは各々140%、180%を超えており、正反対の動きとなっている。

 このことがサプライヤーにとって何を意味するのか。
日産が技術・商品開発や能力増強、生産性改善に不熱心だというわけ
では決してなく、寧ろより積極的でなければならない立場にあったこと
がここまでの考察で明らかだと思う。
 とすると、日産は技術・商品開発および能力増強と生産性改善をサプ
ライヤーに期待または依存する度合いが少なくとも今日まで他の自動車
メーカーに比べて高かったという解釈が成り立つことになる。

 過去ではなく今後3年間ではどうか。「日産バリューアップ」には
研究開発費と設備投資額までは示されていないが、営業利益率と投下
資本利益率の「維持」が掲げられていることが鍵になる。
 「率を下げてもいい」とは言っていないのだ。部品調達の内外作区分
で言えば、新計画においても内製化の方向は出てきておらず、日産は
サプライヤーとの間で効率的なアライアンス関係の維持、外部に商品力
と生産能力を期待する方向性を表明していると解釈できる。
 それに応えられるサプライヤーは日産の量的拡大とともに成長と
利益を両立できる可能性が高い。

                        <加藤 真一>

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