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宝来(加藤) 啓 執筆記事
 
 
 
『自己表現手段としての車の価値を高めることについて考える』

◆話題のDTM・ボーカロイド『初音ミク』、痛車の世界でも注目集める

                    <2007年10月15日号掲載記事>

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 まず始めに記事の補足をさせて頂きたいと思う。 DTM とは Desk Top Music
の略で PC で楽曲を創作・編集することである。また、ボーカロイドとはボー
カル・アンドロイドの略で、ボーカル・アンドロイドとは PC 上で編集した楽
曲のバーチャルの歌い手である。そして『初音ミク』とは超人気ボーカロイド
で、いわゆる「萌えキャラ」だと思われる容姿と実存する有名声優の声を持つ。

 今回は「痛車」を例に取り上げて、一般に自己表現手段としての車の価値が
低下していく中で、その価値を高める余地がないかを考えてみたい。


【痛車ユーザとは】

 「痛車」とはボンネット・ドア・リアガラス・リアウイングなどにアニメや
漫画、ゲームなどに関連するキャラクターやメーカーのロゴをカッティングし
たりペイントしたりした車のことである。

 「痛車」というネーミングは、そういったキャラクターを描いた車で走る
「痛い車」という自嘲とデザイン性の強いイタリア車を示す「イタ車」に掛け
たものということである。

 最近ではライトアップやバニングなどその他のカスタマイズとクロスオーバー
させた「痛車」もあるそうだ。

 また内装も様々であり、シートカバーにキャラクターがプリントされた等身
大シーツを使用したり、側面や後部の窓に液晶ディスプレイを設置しキャラク
ターの映像を流したりといった拘りようである。

 こうした動きは車を自己表現に活用する若者が再登場してきたと捉えられる。
ただし、かつてはスポーツカーや高級車など車そのものが自己表現であったの
に対して、「痛車」ユーザは寧ろ車自体ではなく車を自己表現の舞台の一つに
している(車は寧ろ脇役であり、舞台はストリートでもいいし、ウェブ上でも
どこでもよい。車も車格やブランドを問わない。)ということが従来と異なる。

 車という「モノ」での自己表現から、どの舞台で表現するかという「コト」
での自己表現に関心が移行してきたとも言える。


【自動車業界の現況と課題】

 低迷を続ける国内市場であるが、決して、業界側が何もしなかったわけでは
なく、商品開発領域でも販売領域でも様々な策を講じている。

 しかし、結果として低迷が続いている一因は自己表現手段として車の価値が
低迷していることにあるのではないだろうか。その理由の一つはユーザ属性が
変化していることだと考えられる。

 かつて自動車市場が拡大してきたときには自動車ユーザの多くは若年男性だ
ったが、今や女性層とシニア層が大半である。免許保有率の割合で見ると、若
年男性(30 歳以下)の割合は 86年の 29.1 %に対し 06年は 18.6 %で、女性
とシニア(60 歳以上)の合計割合は 86年の 41.6 %に対し 06年は 57.2 %で
ある。

 女性層とシニア層は自動車という「モノ」での自己表現にそれほど関心がな
い。というのも彼らの関心は旅行や自己啓発など内面的な「コト」に向かって
おり、しかもそれらは車での移動圏内にある「コト」ではなく、徒歩圏内もし
くは電車や飛行機を使う超近距離または中長距離圏内にある「コト」だから、
自動車という外形的な「モノ」での自己表現から遠ざかる。自工会の「乗用車
市場動向調査」によると高齢者(男性:59-62 歳、女性:55-58 歳)の今後の
過ごし方で増加しているのは海外旅行、国内旅行、体力作り、芸術鑑賞、絵画
・陶芸である。

 相対的に自動車という「モノ」での自己表現に関心が高いはずの若年男性は、
数が減っている上に、彼ら自身も「モノ」への関心が薄れている。日経新聞の
調査では 20 代で車を持っている人の割合は 00年の 23.6 %に対して 07年は
13.0 %、車が欲しいという人の割合も 00年の 48.2 %に対して 07年は 25.3
%となっている。

 また「痛車」のように差別化(個性の表現)というより「グループ内での同
化行動」や「同化を表す記号」を好む傾向にある。日経ビジネスオンラインの
「U 35 男子マーケティング図鑑」は 「小さい頃から電話、ポケベル、ケータ
イ、メール、ネットと様々なツールでつながってきた彼ら 35 歳以下の若年男
性」のことを「つながり男子」と表現している。「つながり男子」は同時に「
お買い物男子」でもあり、「お買い物男子」は「男子だけでつるんでお買い物
に出かけ」、「男同士で温泉に出かけたり、海外旅行に行ったりも」するとい
う。「彼らが求めているのは、同じおしゃれを楽しむ男子によるアドバイスで
あり、評価」であり、「つながりあうこと、そして、それを確認しあうこと自
体が目的になった」のだという。(「」内は日経ビジネスオンライン「U 35
男子マーケティング図鑑」からの引用。)

 若年男性向けに、自動車という「モノ」での自己表現という価値を売りにし
てきた自動車産業が曲がり角に来ており、そのブレークスルーが打ち出せてい
ないことが販売不況の元凶だと思われる。


【課題解決の方向性】

 「グループ内での同化行動」や「同化を表す記号表現」を好むという傾向は、
若年男性だけではなく実は女性やシニアでも同様で、旅行も自己啓発も一人だ
け他人と違うことをやろうとしているのではなく、気の合う友人どうしで作っ
たグループでの活動であることが多い。

 こうした層は必ずしも自己表現への意欲が減退しているわけではない。ただ
し、それが自分ひとりだけのオリジナリティを万人に向けて発信する方向には
向かっていないのである。

 ここでは mixi を例に取り上げたい。 mixi は、自分のプロフィールに写真
を登録することが出来る。その写真はいつも自分のトップページに表示され、
他の人が見る時に先ず最初に目にするので「私を一言で言えば・・・」的な意
味を持つ写真である。写真は必ずしも登録する必要はないが、登録している人
が多く、自分の顔や子供、ペット、俳優、旅行先の写真などを載せている。

 「痛車」ユーザのようにキャラクターではないかも知れないが、それに類似
する「コト」を持っていると捉えることが出来る。

 また、mixi は自分のプロフィールやブログを公開する範囲を、全体(mixi
に登録している人全員)、友人の友人(自分の仲間として登録した人の仲間ま
で、自分は直接知らない人も見ることができる)、友人のみ(自分の仲間のみ)
の 3 つから選択することが出来る。全体の中で 3 つが占める割合は明示され
ていないが、少なくとも友人には自分の情報を公開している。

 「痛車」ユーザのように万人に向けての発信ではないが、仲間内には表現し
たい「コト」を公開していると捉えられる。

 ということは、自動車が、自動車という「モノ」そのものの自己表現から、
「グループ内での同化行動」や「同化を示す記号」という「コト」を自己表現
する舞台に転換していくことにブレークスルーのヒントが隠されていると考え
ることができる。

 「痛車」そのものはかなりマニアックな現象で構造変化の予兆や課題解決の
方向性を示しているとまでは見えないかもしれないが、商品ライフサイクルの
最初に現れる顧客層や商品・サービスは常にそういう見え方をしているもので
ある。

 現象をそのまま採用するのではなく、現象の本質と構造を把握して、それを
ユーザにより分かり易く使い易い形で再構成した商品やサービスを提示するこ
とが重要と考える。


【方向性に見合った施策例】

 「痛車」はカスタマイズに重点が置かれるため、ベースとなる自動車は基本
的なパフォーマンスとユーティリティに徹し、必要以上の個性表現に繋がるス
タイリングやデコレーションは廃する。

 一方で自動車を舞台にした「グループ内での同化行動」や「同化を表す記号」
の表現の余地や可能性は出来る限り広げる。

 商品領域ではグレードやオプションのバリエーションを広げるよりも、商品
ラインナップはシンプルにした上で、使用過程でドアトリムやシートは自由に
張り替えられる、ペイントもいつでも自由に塗り替えたり、カッティングシー
トで自在に意匠変更したりできるようなことが考えられる。ただし、過度なカ
スタマイズは自動車の残価にブレが発生するから、直ぐにベースとなる車両に
戻せるような自動車の残価に影響与えないような工夫が必要だろう。

 販売領域では仲間内での同化に注力することが考えられる。例えば口コミに
よるマーケティングが考えられる。日頃から持ち歩けたり、日常過ごす空間に
飾られたりするような口コミを引き起こす仕掛けである。完全に消費者任せの
口コミには限界があろうから、売り手側が裏で仕掛けた口コミにするのがよい
だろう。

 「痛車」が示しているのは、上記のような車作りやビジネスモデルに意識変
革していかなければならないということではないだろうか。それは同時に使用
時期が長くなり、新車販売時に単体で一気に儲ける構造が成り立たなくなって
きた自動車メーカーが、保有期間を通じて連結ベースで持続的に儲ける事業構
造に変革していくことも意味する。

 現時点では極論に見えるかもしれないが、日本についで、ドイツ、イタリア、
スペインなど主要西欧自動車市場や、今はまだ成長過程にある東アジア地域の
多くが少子高齢化する今後 20年間のものづくりや事業構造を考える上で一考の
価値があると思う。

                          <宝来(加藤)啓>
















 
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