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宝来(加藤) 啓 執筆記事
 
 
 
『「存在」を教えてあげるビジネス』

◆オークネットが新下取りシステムを運用開始

             <2006年12月13日付日刊自動車新聞掲載記事>

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【新車ディーラーにおける下取り仕入れと AA 卸売りの困りごと】

 中古車の仕入方法は一般消費者や企業からの下取りや買取り、オート・オー
クション(以下 AA)での落札があり、販売方法は一般消費者や企業への小売、
業販や AA での卸売り、そしてスクラップがある。中古車の仕入れから販売ま
でのパターンは仕入方法と販売方法のマトリクス分あるが、この内今回取り上
げるのは新車ディーラーにおいて下取りで仕入れて AA で卸売りするパターン
である。下取り仕入れと AA 卸売りに纏わる凡その困りごとは以下である。

<下取り仕入れの困りごと>

・対顧客との交渉に目安を持って臨めない。
 価格交渉の主導権は顧客側にある。顧客は買取り店や複数の店舗に下取り価
格を見積もりに回り複数の価格情報を持つ。そしてその価格に一定のマージン
を乗せて交渉に臨んでくる。

 一方で新車ディーラーは取扱経験の少ない商品については肌身での感覚が薄
いため自信を持って値決めすることができない。特に他銘柄車となると取引の
ある業販店、場合によっては買取店に値決めしてもらっている。そうしたこと
から採算の合わない価格で下取りしたり、必要以上に保守的な下取り条件を出
して商機を逸したりすることがある。

・対新車部門との責任の所在が曖昧である。
 新車部門としては自動車メーカーとの関係もあり新車の値引きはできるだけ
押さえたい。そこで新車価格を値引けない場合には、下取り価格を高くするこ
とで実質的な値引きをしようとする。

 中古車部門は、もちろん高値での下取りは避けたいが、新車ディーラーのビ
ジネス構造上、新車を販売しないことには始まらないので、時には中古車市場
の相場よりも高値で下取りする必要も生じる。その際に高取りしていることは
わかるが、どれくらい高いかという客観的な指標が明確でないので新車部門と
中古車部門の責任の所在が曖昧となる。そうすると中古車部門は新車部門のい
いなりであるという空気も生まれ易く中古車担当の意識の低下も懸念される。

<AA 卸売りの困りごと>

・中古車ビジネスが安定化に繋がらない。
 AA は全国 150 会場で毎週のように開催されており、小売と比較して AA で
の卸売りは安定した売り先となる。

 しかし、どこで売却するか、いつ売却するか、幾らで売却するか、が組織知
になっておらず、中古車担当に頼っており属人的なビジネスになっている。従
業員の入れ替わりもあるだろうから人的な意味での安定性がない。

 また、中古車の相場は季節変動や地理的変動がある生モノである。もっと高
く売れる商品を安値で販売して逸失利益が発生したり、もっと柔軟で機動的な
価格政策で臨んでいたら早目に処分できたはずの商品がいつまでも在庫で残る
機会損失が起きたり、といったチグハグなことが起きやすい。


【オークネットが新下取りシステムの運用を開始】

 今回オークネットは保有する AA データに基づき下取り相場価格を提供する
新下取りシステム「DPS (ディーラー・プライシング・サポート)」の運用を
開始した。下取り相場価格だけでなく AA 平均価格を確認できる。そしてオー
クネットが開催する AA に出品することを前提として、価格保証制度を設けて
いる。下取り仕入れ、AA 卸売りにおいて次のような効果が期待できる。

<下取り仕入れで期待される効果>

・対顧客との交渉に目安を持つことができる。
 オークネットの AA は取り扱い車種に偏りがないので新下取りシステムで提
供できる下取り相場価格の車種にも偏りがない。だから自銘柄車だけでなく他
銘柄車であっても業販店や買取店に依存することなく自社で値決めをすること
ができる。

 また、下取り相場価格や AA 平均価格情報を把握できるので、採算が取れな
いような高値で下取りしたり、必要以上に保守的な下取り条件を出して商機を
逸したりすることが減る。つまり、情報を元に自社の目安を持ち顧客との価格
交渉に臨むことが

・対新車部門との責任の所在が明確になる。
 目安となる下取り価格を持つことができるので、新車部門との兼ね合いで高
取りしたとしても、目安金額との差をペナルティとして新車部門と中古車部門
で一定の比率に応じて責任を分担する等の対策ができるようになる。その結果、
中古車部門の下取り意欲低下も防ぐことができる。

<AA卸売りで期待される効果>

・中古車利益の安定化に繋がる
 同システムを保有することは中古車相場を組織知にすることに繋がるので属
人的に左右される部分を減らすことができる。

 また、AA 平均価格を参考にして、AA 売却のタイミングを掴むことができ、
店舗に展示しておく期間を 1 週間売れなければ店頭から下げる、2 週間売れな
ければ 10 %値引きする、1 ヶ月売れなければ AA に売却するといったカレン
ダー的なルールだけでなく、AA で 3 %以上の粗利が獲得できる期間に売却す
るといった利益ベースのルールを設定でき中古車利益の安定化に繋がる。

 そして、オークネットの AA に出品すれば価格保証が付くから、オークネッ
トの出品基準を満たすよう査定していれば赤字になることは理論的にはない。
また当初は査定の誤りから価格保証が適用されなかったとしても、AA に出品す
るときに出品検査を受けるため査定能力も向上していく。


【新下取りシステムのサービスから学べること】

 同種のシステムは一部の自動車メーカーやプロトコーポレーションが先に開
発・運用している。そこに価格保証制度で差別化を図るオークネットが参入し
た形である。オークネットは、一部を除いた下取りシステムの導入が進んでい
ない自動車メーカーやインポーターの新車ディーラーをターゲットとしている
と思うが、競合他社の動きを含めて今後どのような競争を展開するか注目して
いきたいところである。

 しかしながら、今回の新下取りシステムを取り上げた目的はそこではない。
新下取りシステムを例に新たなビジネスやサービスを具体化する上での考え方
や考慮点を抽出したいからである。

 今回のオークネットのサービスを一言で表現すると、「存在」(下取り相場
情報)を教えてあげるビジネスだと思う。そしてそのビジネスを具体化するに
は以下の 3 ステップが必要だと考える。

<ステップ 1:「存在」を知らせる>

 オークネットは AA を運営する企業であるから、AA データを保有しているこ
とは誰もが知っていることである。ただ AA データを加工した下取り相場情報
を保有することは一般には認知されていない。

 新車ディーラーの困りごとを解決する下取り相場情報を持っているという
「存在」を知らせることが最初のステップだろう。

<ステップ 2:「価値」を伝える>

 オークネットの AA は現車 AA ではなく衛星通信を利用したバーチャル AA
である。バーチャル AA は、どこからでも出品が可能であるから、相場が全国
レベルに収束され、出品時に会場までの輸送コストが掛からない。従って地域
間の相場のバラツキを考慮する必要がなく、出品の品揃えが広がり、流札・再
出品の商品に輸送費が 2 回掛かることもない。

 所謂現車 AA 会場には出来ないことである。現車 AA は取引価格が地域毎に
偏るし、出品時に輸送費が掛かる。メーカー系 AA では品揃えも偏りがちであ
る。現車 AA のネットワーク化(資本系列化と情報化)が進んだ今日オークネ
ットのバーチャル AA の相対的優位性は薄れてきたと言われるが、なくなった
わけではない。現車 AA による開拓が進んでいない新車ディーラー 1,300 社の
参加自体がバーチャル AA の価値を再び引き上げる可能性もある。こうした
「存在」(情報)の「価値」を伝えることである。

<ステップ 3:「動機付け」を与える>

 今回の新下取りシステムにオークネットは AA への出品を前提にした価格保
証制度を付けた。AA 相場は変動するから売却には出品側にリスクが伴う。価格
保証制度がこのリスクを失くしてくれるわけだから、AA へ売却するのであれば
オークネットの AA へ売却しようというのは自然な考え方であり、同システム
を使用して現在他の AA へ売却している車両を オークネットの AA へ出品しよ
うという動機が働く。

 情報の「存在」を知らせる、「価値」を伝えるところまでで「総論賛成」を
勝ち取る「仕組み」ではあっても「各論賛成」の「仕掛け」が足りず新車ディー
ラーのアクションを引き出すことは難しい。リスク(売れ残りリスク、価格変
動リスク)を取ることでアクションに結びつけようというのがオークネットの
戦略であろう。

 弊社コラム No137 号で佐藤が「アクション重視!」を提唱したが、顧客にア
クションを取らせるためのアクションが必要だということだろう。


【まとめ】

 今回オークネットの新下取りシステムを取り上げて、「存在」を教えてあげ
るビジネスを具体化するために必要な考え方や考慮点を述べてきた。

・ステップ1:「存在」を知らせる。
・ステップ2:「価値」を伝える。
・ステップ3:「動機付け」を与える。

 今回の「存在」は下取り相場という情報であったが、顧客へアクションを起
させる 3 ステップは情報だけでなく自動車を始めとした商品やサービス一般に
言えるのではないだろうか。

                          <宝来(加藤)啓>









 
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