『材料分野の新技術がクルマを変える』
◆東レ、ゴムのように変形し、衝撃を吸収できる新型プラスチックを開発
NEDOの委託を受けて「衝撃吸収プラスチック」を開発した。特殊な押し出し
機を使い、プラスチックとゴムのような性質の樹脂ポリオレフィンを溶けた
状態でナノレベルで混ぜ合わせた。普通のプラスチックは急激に力を加える
と割れるが、新型プラスチックはゴムのように変形して衝撃に耐える。
車のバンパーや電子機器などへの応用を想定し、2010年の実用化を目指す。
<2007年01月31日号掲載記事>
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【普遍的ではなくなった自動車の原材料】
自動車ほど多様な原材料から構成される工業製品もないのではなかろうか。2
万点とも 3 万点とも言われるその部品は、鉄、アルミ、銅などの金属や樹脂、
ゴム等の化学品、ガラス、繊維、、、と多岐に渡る原材料から作られており、
こうした原材料を製造する業界とも密接な関係を持っている。
自動車が生まれて 100年が過ぎたが、70年代以降は定番的な原材料が長らく
使われてきた。ボディは鋼板、ウィンドウはガラス、タイヤはゴム、、、とい
ったように、ほとんどの部品は、細かい改良・改善は継続されてきたが、フロ
ンやアスベストなどの環境規制上の要因で代替されたものを除けば、その定番
的な原材料の地位が揺らぐことはほとんどなかったと言える。
しかし、近年、こうした原材料にも変化が訪れてきている。アルミや樹脂を
使ったボディや、樹脂を使ったウィンドウなど、定番的な原材料を代替する新
技術を積極的に採用していく動きが広まりつつある。
その要因として、材料分野における技術革新の進展があることは間違いない。
しかし、ただ進化したから採用されるようになった、それだけであろうか。今
回のコラムでは、自動車業界から見た材料分野の新技術の必要性について考え
てみたい。
【衝撃吸収性に優れるプラスチックの意義】
近年、材料分野における技術革新は、目覚ましい勢いで進展している。「自
動車ニュース&コラム」においても、「新技術コーナー」の中で、毎日のよう
に金属、化学品ほか材料分野の新技術ニュースが取り上げられている。
今回コラムのテーマとして取り上げた、東レが開発した新型プラスチックで
あるが、衝撃に弱いというプラスチックの常識を変えるものであるという。通
常、プラスチックは強度や剛性が高い反面、衝撃を与えると脆いという欠点が
あり、一方、ゴムは強度や剛性は低いが、衝撃を吸収する靭性(耐衝撃性)を
持つ。これまでも高衝撃ナイロンなど、耐衝撃性に優れるプラスチックの開発
が進められてきていたが、耐衝撃性を高めると、強度・剛性が低下するなどの
課題を抱えていた。
今回、東レが独立法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託
を受けて開発した 2 種類以上のポリマーを混合する製造装置により、従来ミク
ロンメートル単位でしか異種ポリマーを混合できなかったものを、数十ナノメー
トル単位で混合することが可能になった。これにより、プラスチックの強度・
剛性とゴムの耐衝撃性を持つ材料の開発に成功したという。
この材料の採用により、耐久性や耐候性の要件を満たしつつ、衝撃吸収性に
優れ、歩行者保護性能を高めたバンパーなどの外装部品や、衝撃吸収性を満た
しつつ、耐久性や耐熱性を高めた制振部品などの実現が期待できる。ぶつけて
へこんでも元に戻るボディや磨耗しない交換不要なワイパーなんてものも実現
されるかもしれない。
【自動車業界の慣習という壁】
一方、自動車業界の慣習として、長年使ってきた原材料を変えるのには抵抗
があるのも事実である。原材料を変えると、製造工程やサプライヤが変わるだ
けでなく、品質管理上、新たな試験を行うリソースも必要となる。特に、PL 問
題やリコール対策が重要な課題となっていること、部品の共通化・標準化が進
み、一つの部品の採用範囲が拡大していることを考慮すれば、原材料を変える
ことに対するコストは増大していく傾向にあると考えられる。
したがって、原材料の変更を伴う部品の採用には、それ相応のメリットが要
求されることとなる。価格が少し安くなる、というぐらいのメリットでは、な
かなか自動車メーカーを真剣に検討させることは難しいのも頷ける。
実際、これまで既存の材料で改良・改善できるところは、かなり深いところ
まで取り組まれてきたはずである。安全性能を高めるために大型化し、快適/
利便性能を高めるために新たな機能・装置が取り込まれることによって、クル
マ自体の重量は必然的に増大する。その一方で、環境性能を高めることも求め
られており、ハイテン材、アルミ化、構造・形状自体の見直しにより、軽量化
を進めることで、重量の増加を最小限に留めてきた。
今後、さらに環境・安全・快適/利便性能を同時に追求していくためには、
より高度なレベルでの軽量化を始めとする技術革新が求められることになる。
だからこそ、これまで不可能であったことを実現する、常識を覆すような材料
技術が求められるのであろう。
【クルマ業界が持続的に発展していくために】
勿論、こうした取り組みは簡単なことではない。しかし、様々な形で事業の
多角化、効率化が進む中、材料メーカー、サプライヤ、自動車メーカーの距離
は以前よりも縮まってきていると同時に、その境界線もグレーなものになりつ
つある。材料メーカーの立場から見れば、自分で技術開発に取り組まなければ、
競合先だけでなく、サプライヤや自動車メーカーが自らこうした技術の開発を
始めてしまうというリスクも存在する。実際、2003年に実用化されたトヨタの
ポリ乳酸事業(ポリ乳酸を利用したスペアタイヤカバーやフロアマットをアラ
コ(現トヨタ紡織)と共同開発して実用化)はその最たる例かもしれない。
また、こうした大企業ばかりでなく、ベンチャー企業もこの分野への参入を
試みている。神奈川県にあるベンチャー企業、株式会社イスマンジェイは、独
自の製法によるファインセラミックス粉末の製造に取り組んでいる。燃料合成
法という手法により、サイアロンと呼ばれるファインセラミックスの一種を従
来よりも大幅に安価で製造する技術を確立している。このサイアロンは、耐熱
性、高温強度、耐熱衝撃性、耐摩耗性に優れ、安価に製造することで、セラミ
ックスだけでなく、特殊鋼の代替としても注目を集めている。
自動車業界の社会的責任は確実に増大している。こうした責任を果たすため
に、クルマは環境・安全・快適・利便全ての性能において、より高度なレベル
を追求していく必要がある。だから材料分野においても、革新的な新技術が求
められるのである。
クルマが環境や安全を害する存在として非難を浴びることなく、夢と豊かさ
をもたらす存在としてあり続けるためにも、こうした常識を覆す革新的な技術
の導入を推進すべきであり、当社もその一助を担うことを目指している。
<本條 聡>
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