『イメージ先行型の環境性能からの脱却』
◆米国の消費者、ハイブリッド車とディーゼル車の燃費に過度の期待
<2006年09月12日号掲載記事>
◆ホンダ、稲わらや雑草からバイオ燃料を製造可能に「RITE-ホンダプロセス」
◆ホンダ、バイオエタノール車を日本車メーカーで初の量産、ブラジル投入へ
年内にまず、バイオエタノール車の普及で世界一のブラジルで製造・販売へ
<2006年09月14日号掲載記事>
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【FFVとは?】
FFV (Flexible Fuel Vehicle)とは、ガソリン、エタノール、及びその二つ
をどんな比率で混合した燃料でも走行可能なクルマである。ブラジルを始め、
一部の地域では普及が進んでいたが、京都議定書に代表される昨今の地球温暖
化対策や原油価格の高騰に伴い、注目を集めている。米ビッグ 3 が FFV の生
産では世界的に一歩リードしており、米国政府がエタノールの自動車燃料への
利用を促進する意向を打ち出したことにより、米国市場に利益を依存する日系
自動車メーカーも無視できない存在となりつつある。
FFV が注目される最大の理由は、バイオエタノール燃料に柔軟に対応できる
ことである。バイオエタノールとは、サトウキビやトウモロコシ等の植物を原
料に精製したエタノールの総称である。植物は、空気中の二酸化炭素を吸収し
て成長するため、京都議定書ではバイオエタノールの燃焼により排出する二酸
化炭素は元々空気中にあったものが還元されるものとされ、排出量がゼロとみ
なされる。そのため、バイオエタノールは環境対応という観点から注目されて
いる。
国内では縁遠い存在である FFV やバイオエタノールであるが、海外では着実
に増加傾向にある。BRICs の一角であるブラジルにおいては、年間 80 万台以
上の販売を誇るまで拡大しており、米ビッグ 3 だけでなく、VW、Volvo などの
欧州勢も FFV を投入している。日系自動車メーカーが出遅れる中、米ビッグ
3 は北米市場でのシェア奪還を目指し、政策面でも活動を進めているといわれ
ている。
【米国のクリーンエネルギー車への過度の期待?】
今回の記事は、IQS でお馴染みの J.D.Power 社の調査結果であるが、非常に
興味深い結果が出ている。いわゆるクリーンエネルギー車(ハイブリッド車、
ディーゼル車、FFV)に関する消費者の意識調査を米国で行ったものである。
今回の調査結果によると、2年以内に新車購入を計画している人のうち、選択
肢にハイブリッドを入れている人が 57%、FFV が 49%、ディーゼル車が 12% と
なっており、ガソリン車のみという人は 23% となっている。
このハイブリッド車を選択肢に入れている人は、ガソリン車よりも平均 5,250
ドル高くなるが、約 12km/L の燃費向上を期待しているという。しかし、実際
のユーザーによると約 4km/L しか改善しないという。
また、ディーゼル車の場合、ガソリン車よりも平均 2,800 ドル高くなり、約
9km/L の燃費向上を期待しているものの、実際のユーザーによると約 5km/L し
か改善していないという。
J.D.Power 社では、消費者がハイブリッド車、ディーゼル車に過度の期待を
持っていることを指摘している。消費者に適切な説明をしていくことで、こう
した技術やメリットの理解を深めることが課題であるという。
ハイブリッド車に限らず、メーカーのカタログ上の燃費と実際の使用上の燃
費に明確な差があることは多くの消費者が認知している。しかしながら、メー
カーが作り上げたクリーンエネルギー車の環境性能に優れたイメージが先行し、
その乖離が更に大きくなっていると想像できる。
【日本市場におけるクリーンエネルギー車事情】
上記の調査で注目すべき点の一つは、消費者の環境意識(コスト意識?)の
高さであろう。米国においても、ハイブリッド車の販売シェアは 1、2 %程度
であり、日本と同等レベルである。高止まりする原油価格も考慮すれば、今後
米国市場におけるクリーンエネルギー車の販売シェアはこれまでの予想以上に
拡大する可能性を秘めているかもしれない。
ところで、日本で同様の調査を行った場合、クリーンエネルギー車を購入の
選択肢に入れる人が過半数を占める結果になるであろうか。調査したわけでは
ないので、断言はできないが、米国ほどの結果には至らないかもしれない。し
かし、環境性能に関して言えば、クリーンエネルギー車全般に対して、少なか
らず米国同様にイメージが先行している状態にあるのではなかろうか。穿った
見方をすれば、自動車メーカー自身、環境性能に関し、実際の使用上の燃費向
上以上にブランドイメージの向上に注力しているとも言えなくもない。
実際、国内販売シェアトップのトヨタが積極的にハイブリッド車の車種拡大
を進めており、着実にハイブリッド車のシェアは拡大しているとは言え、他社
は 1、2 車種あるかないかという状況である。多様化が進む自動車市場の中で、
クリーンエネルギー車が消費者の半数の購買意欲をそそるほど勢力を伸ばして
いるかは疑問である。レクサス GS ハイブリッドのように、走行性能でのメリ
ットをアピールすることで、ガソリン仕様のグレード以上に販売を伸ばしてい
る車種も登場しているが、ほとんどの車種では、低価格なガソリン仕様のグレー
ドの方が販売台数が多いのが現状である。
また、乗用車市場について考えれば、ハイブリッド車以外については、ほと
んど選択肢が残されていないのが実態であろう。独 Daimler Chrysler は、今
年、Mercedes Benz E クラスのディーゼルエンジン仕様車を日本市場にも投入
することを発表しており、注目を集めているが、日系自動車メーカーを始め、
他のメーカーは追従する雰囲気はなく、静観している状況である。
日系自動車メーカーはディーゼルエンジンを作れないわけではない。各社と
も、欧州ではディーゼルエンジンを搭載した車種を販売しており、欧州市場で
のシェア拡大に注力している。勿論、欧州と日本では走行環境が異なり、急発
進・急ブレーキが多い日本の市街地走行には適さないとか、触媒性能が充分に
発揮できないという話もあるが、日系メーカーがディーゼル車の日本での市場
性に懐疑的であるとも考えられる。
更に、FFV については、インフラの問題も大きく、とても普及を期待するよ
うな状況にはない。ブラジルを始めとした FFV 普及国では、政府が主導する形
でエタノール燃料の開発・生産・供給体制を整えており、米国でもビッグ 3 や
石油メジャーがエタノール供給スタンドの増設を進めるという話も聞こえてく
る。日系自動車メーカーが FFV を開発し、市場に投入したとしても、こうした
自動車メーカー・インフラ・政策によるエタノール燃料の開発・生産・供給体
制が整わない限り、消費者が FFV を購入できる市場にはなりえないであろう。
【ホンダのFFV開発の意義】
こうした中、ホンダが FFV の量産を開始するという方針が明らかになった。
同社がブラジル国内で生産するシビックとフィットをベースに、年内に生産開
始し、ブラジル市場に投入するという。同社のブラジル工場では年間 65 千台
生産しているが、このうち半数の約 30 千台を FFV に切り替えるという。
FFV 自体、基本的には液体燃料を用いる内燃機関を動力としており、ハイブ
リッド車や燃料電池車ほど自動車の構造を変えるものではない。開発にあたっ
ても、燃料系の腐食対策やエンジン制御系の柔軟性向上が主だったところであ
り、技術的な難易度においてもハイブリッド車等ほどの開発リソースを要する
ものではなく、ホンダの動きを受け、他の日系自動車メーカーも近い将来、FFV
市場に参入するのでないかと考えられる。
注目すべきことは、ホンダは車両自体の開発を行っているだけでなく、燃料
の開発にも着手していることである。既にインフラが整い、FFV が普及してい
るブラジル等の市場を狙うだけであれば、車両自体の開発だけで充分であり、
業界全体で慢性的に不足する開発リソースをバイオエタノール燃料の開発に割
く必要はないはずである。
今回のホンダのバイオエタノール製造技術は、従来のサトウキビやトウモロ
コシなどの食用植物からの精製技術と異なり、稲わらや植物の茎などの食用に
ならない材料から精製する技術である。食用植物を原料にする限り、バイオエ
タノールを精製するために原料を栽培・供給する必要があるため、供給量には
限界がある。ところが、稲わら等、従来廃棄物であった材料から精製すること
ができれば、農業との共存が可能であり、供給量の大幅な拡大が期待できる。
つまり、これからバイオエタノール燃料の供給体制を整備していく必要がある
日本のような市場においては、その価値は非常に大きいものと考えられる。
【イメージ先行型の環境性能からの脱却】
自動車メーカーに求められる役割は、クルマを開発・製造し、消費者に供給
することだけではなくなってきている。経済全体における自動車産業の存在感
は増しており、「環境」、「安全」といった業界全体の課題の重要性も高まっ
てきている。
特に「環境」というテーマについては、企業やブランドのイメージが消費者
の購買意欲に与える効果も大きく、使用環境によって性能も大きく異なるため、
前述の通り、商品自体の性能よりもイメージが先行してしまいがちである。し
かし、商品自体の環境性能を向上させ、消費者に明確な保有コスト上のメリッ
トを打ち出せなければ、本格的な普及を実現できないであろう。つまり、イメー
ジ先行型の開発・マーケティングから脱却し、消費者が明確に理解できる環境
性能の実現が求められる。
FFV において考えるとすれば、エタノール燃料に対応可能なクルマを開発す
るだけではなく、環境性能と同時にコストパフォーマンスや利便性においても
消費者にメリットを提供することが必要であり、そのためにはインフラの整備
や政策面での優遇策等の体制強化が求められる。
そのための第一歩とも言える今回のホンダのバイオエタノール製造技術は、
財団法人地球環境産業技術研究機構との共同開発と発表されている。慢性的に
開発リソースが不足する中、直面する課題の解決に際し、知見の集積のない分
野の開発リソースを補うために、社外・業界外との連携により、研究開発に取
り組み、成果をあげたものである。クルマ社会の持続的な成長のためには、こ
うした自動車業界の外側にあるノウハウ・リソースを活用することが重要とな
るであろう。
数年後に、「今度クルマ買いたいんだけど。。。FFV って良いのかな?」と
話題になるような時代が来るのを期待したい。
<本條 聡>
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