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本條 聡 執筆記事
 
 
 
『欧州戦略のベストプラクティス』

◆NTN、仏ルノーからベアリング製造・販売の100%子会社を買収へ

 今後1年間で仏SNR社の株式50%超を取得し、5年以内に80%超まで買い取る
 ことでルノーと基本合意した。買収額は総額200億円弱になる見通し。同社
 は世界シェア7位、買収でNTNのベアリング事業の世界シェアは3位に。

                   <2006年07月25日号掲載記事>

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【NTNの事業戦略】

 国内最大手のベアリングメーカー NTN であるが、自動車分野においては単な
るベアリング製造に留まらず、国内トップシェアのベアリング事業と等速ジョ
イント事業の二つを中核に据え、多機能型ハブベアリングや CVT、ワンウェイ
クラッチなどの付加価値の高いシステム製品の事業化を推進しているサプライ
ヤである。

 同社は「マーケットプレゼンスの向上」として以下項目を長期ビジョンとし
て掲げている。

 ◆ 世界 No.1 事業や他社の追随を許さない商品を有する存在感のある企業
 ◆ 日本・米州・欧州・アジア・中国の 5 極でプレゼンス(知名度)のある
   企業
 ◆ 人を活かし、社会に貢献するグローバル企業

 その長期ビジョンを 2010年に達成するために、2004年に策定された 3 ヵ年
の中期経営計画が「飛躍 21」であり、企業価値の向上、「価値創造」をコンセ
プトとして掲げている。この計画の骨子の一部は以下の通りである。

 ◆「営業革命」:攻めの営業による新規顧客や新規案件の獲得
        →3年間で売上1,000億円拡大
         (2007年3月期で4,500億円目標)

 ◆「もの造り革命」:「ひと造り」による生産性向上、比例費低減
          →営業利益 420 億円、売上高営業利益率 9.3%の達成

 この目標を達成するために、同社は近年事業基盤の拡大に注力しており、世
界 5 極(日本、米州、欧州、アジア、中国)での開発・生産拠点の整備を加速
させている。国内では「もの造り革命」を具現化するモデル工場として NTN 三
重製作所を立ち上げた他、長野にもローラを生産する新工場を設立した。海外
でも、中国で 5 番目の生産拠点を常州に設立し、ニードルベアリングの生産を
開始し、タイでも流体同圧軸受の新工場を設立した。

 こうした取り組みもあり、「飛躍 21」の 2年目にあたる 2006年 3月期は売
上高 4,300 億円を超え、計画は順調に推移している。3年目にあたり今期は、
目標達成に向け、さらに事業基盤の拡大、企業価値の向上を図る施策を進めて
いる。


【欧州市場の攻略に向けて】

 グローバルに事業展開する同社の地域別売上高の推移は以下の通りとなって
いる。

     <NTNの地域別連結売上高推移の概況>

           2004年3月    2006年3月    増減比
  日本     1,745億円(49%)  1,974億円(45%)  13%増
  北米      855億円(24%)  1,122億円(26%)  31%増
  欧州      570億円(16%)   670億円(15%)  18%増
  アジア他    360億円(11%)   582億円(13%)  62%増
  (中国含む)
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  合計     3,530億円      4,348億円     23%増


 すでにトップシェアを誇り、既存商品の市場規模自体も成熟している国内市
場においても、新工場設立やそれに伴う新製品等の投入により売上を拡大して
いる。しかし、全社売上の飛躍的拡大を大きく牽引しているのは海外市場であ
ることは間違いない。特に「アジア他」は、中国の市場拡大に着実に生産体制
を整備していくことで売上を大きく拡大している。

 こうした中、今後売上を拡大する余地が大きく残っていると考えられるのが
欧州市場である。同社は、これまでも欧州市場のおける事業展開を積極的に進
めてきた。ドイツ、フランスにベアリング、等速ジョイントの製造拠点を構え、
欧州各地に販売網を展開している。また、昨年顧客ニーズに技術対応の迅速化
と現地化を両立するため、欧州の技術拠点を再編し、ドイツに欧州技術センター
を設置した。

 そして、2006年 4月には、独 VW と強固な取引関係を有するドイツの等速ジ
ョイント製造メーカー IFA-Antriebstechnik GmbH 社(IFA-AT 社)に資本参加
した。欧州での等速ジョイント事業展開を加速させると同時に、VW グループと
のグローバルな事業展開への足がかりとして活用していくという。現在は 25%
の出資だが、今後段階的に出資比率を引き上げ、数年後に買収完了する計画に
なっている。


【仏SNR買収の狙い】

 今回、仏 Societe Nouvelle de Roulements 社(SNR 社) を買収するという
戦略も、こうした全社戦略の延長線上にあるものである。ルノーの子会社であ
る SNR 社に資本参加することで、ベアリング事業展開における欧州での拠点と
して活用することを狙い、ルノー側と提携交渉を進めていた。

 今回合意した内容も、前述の IFA-AT 社と同じく、段階的な資本参加による
買収である。これにより、ベアリングと等速ジョイントという二つの中核事業
の欧州における開発・製造基盤が揃うと同時に、仏ルノーと独 VW という二つ
の欧州自動車メーカーという顧客基盤も得られることとなる。

 同社の手がけるベアリング、等速ジョイントといった部品は、製品単体での
差別化が難しく、これまで以上に Q (品質)、C (コスト)、D (納期)とい
った基本ニーズを向上させるだけでなく、多機能化、システム化等による付加
価値向上が求められる。従って、顧客ニーズを吸い上げる営業基盤と、高度化
する顧客ニーズを実現する技術基盤、多様化する商品ラインに柔軟かつ迅速に
対応する生産基盤の 3 つを整備しなければならない。

 SNR の持つ欧州の顧客仕様に合わせた製品開発・生産ノウハウも取り入れる
ことで、他の商品の顧客満足度も向上し、売上拡大に貢献することが期待でき
る。こうした観点からも、両社の事業提携は、単なる足し算によるスケールメ
リット以上の効果が期待できる。


【他社との共通点】

 NTN と同様の事業戦略を進める日系自動車部品サプライヤがある。住友電装
である。同社は、親会社である住友電工とともに、2006年 3月に独 VW と独
SiemensVDO の合弁会社で、自動車用ワイヤーハーネス等を製造する VW
Bordnetze GmbH 社(VWBN 社)を買収した。これにより、グローバルプレイヤー
としての事業基盤の確立と欧州でのプレゼンス拡大を図るという。

 NTN と住友電装のケースを見比べると、非常に似通っている。主な共通点を
マーケティングの 3C に合わせて整理すると、以下の通りである。

(1)Customer(客先)
 ・ 独立系サプライヤであり、多くの日系自動車メーカーに製品供給している。

 ・ 海外展開も進めており、北米、アジアの売上規模は順調に拡大している。

 ・ 欧州にも拠点を設けて事業展開するも、欧州大手自動車メーカーは充分に
   攻略できていない。(いなかった。)


(2)Competitor(競合)
 ・ 主要製品で、国内トップクラスのリーディングカンパニー。
    NTN: ベアリング、等速ジョイントの国内シェア 1 位
    住友電装: ワイヤーハーネスの国内シェア 2 位

 ・ 主要製品の国内市場はほぼ寡占状態。
    NTN: 等速ジョイントの競合は、内製を除くと事実上 GKN と豊田工
        機の 2 社
    住友電装: シェアトップの矢崎と同社で国内シェアの約 8 割、古河
          電気工業も加えた 3 社で約 9 割を占める。

 ・ グローバル規模でも、世界トップクラス。
    NTN: ベアリング市場で世界第 3 位。
    住友電装: ワイヤーハーネス市場で世界第 3 位。


(3)Company(自社)
 ・ 売上高が同規模の上場企業。
    NTN: 4,348億円(06年3月期) 東証1部上場
    住友電装: 4,415億円(06年3月期) 名証2部上場

 ・ 自動車メーカーの系列傘下にない、独立系サプライヤである。

 ・ 核となる製品を軸に、製品の多機能化、システム化により付加価値向上を
   進めている。
    NTN: ベアリングから等速ジョイント、クラッチ、CVT、
        高機能ハブベアリング等へ
    住友電装: ワイヤーハーネスからハイブリッド車用高圧ハーネス、
          カメラシステム、統合スイッチパネルディスプレイ等へ

 こうして考えると、両社が欧州で同様の戦略を取ったことが当然のようにも
思える。


【まとめ】

 日系自動車メーカー自身も他の地域に比べシェア拡大が課題となっている欧
州市場においては、他地域のように、既存顧客である日系自動車メーカーに依
存する形での事業展開には限界がある。実際、北米、中国には事業基盤を確立
していても、欧州はまだまだ攻略できていない大手サプライヤも少なくない。

 だが、こうしたサプライヤの誰もが欧州の競合企業を買収すれば成功すると
いうわけでもないだろう。顧客基盤の拡大、生産拠点の拡大という面ではメリ
ットを得られるかもしれない。しかし、買収に要する資金以上のメリットを享
受するためには、競合他社を上回る技術力や製品開発力が求められる。

 NTN と住友電装の両社のように、部品メーカーからシステムサプライヤとし
て、事業領域(縦軸)の拡大を図ると同時に、海外展開・顧客基盤(横軸)の
拡大を進めることが、その効果を最大限に発揮する鍵となるのではなかろうか。

 昨今、好調な自動車業界の波を受け、どこか買収したいという企業の話をよ
く聞くが、シナジーを発揮しやすいパターンとして、この二つの事例から学べ
ることは少なくないのではなかろうか。

                      <本條 聡>











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