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長谷川 博史 執筆記事
 
 
 
『メーカー保証延長の狙いとメーカー・ディーラー双方から見た効果』

◆米GM、2006年モデル車の保証期間を延長すると発表

 パワートレイン保証期間をこれまでの3年または3.6万マイルから最大10万マ
 イルもしくは5年に延長。すでに販売された2006年モデル車にも適用される。
 「(一部費用負担の)免責条件もなく、業界最高水準の保証」とワゴナーCEO。

            <2006年9月7日号掲載記事>

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【はじめに】

 米国 GM はエンジンやトランスミッションなど基幹部品の保証を走行距離 10
万マイル(約 16 万キロ)または 5年間に延長すると発表した。これまでは通
常で 3 万 6000 マイル・ 3年間、高級車で 5 万マイル・ 4年間であった。

 この保証延長は 9月から米国とカナダで順次発売する 2007年型モデルの全車
種が対象となっており、距離乃至は期間のどちらかが制限に達するまで部品を
無料で修理・交換するとのことで、ワゴナー CEO は、「 免責条件もなく、業
界最高水準の保証」であるとのコメントを発表している。

 今回のコラムでは、こうした「メーカー保証」が、メーカー及びディーラー
それぞれに対してどういった影響を及ぼすかについて考察してみたい。


【自動車メーカーの狙い】

 メーカーが保証期間を延ばす狙いは複数あるが、一番の狙いはやはり消費者
がベネフィットを感じる期間を延長することにより、商品そのものの価値を高
めるて、結果としてより多くの消費者に車を買ってもらうことにあろう。

 10 万マイル保証は現代自動車が米国で既に導入しているが、現代の狙いも同
様に品質面での安心感を顧客に与えることにより、台数を更に伸ばすというも
のであった。

 また、GM のマーク・ラニーブ販売担当重役は今回の販促策について、「価格
を抑えた従来の販売奨励策(インセンティブ)から、保証拡充で消費者の信頼
感を高める戦略への転換」と説明している。つまり、保証延長を提供する代わ
りに、(主に)ディーラー向けに支払っている販売奨励金を削減することによ
り台当たり利益を向上させる効果も、台数増と並行して狙っている。

 しかし、これらの施策が吉と出るかは全て消費者が今回の GM の施策をどう
受け止めるか次第である。というのも、安心感には 2 つ種類が存在する。

 1.「壊れても 10年間も無料で直してもらえる」という安心感
 2.「10年間も故障に対してコミットできるなんて、よっぽど品質に自身があ
  るのだろう」という安心感(信頼感)

 GM としては、出来れば、2.のほうのイメージに先ずは持っていきながら台数
を稼ぎ、並行して車両の品質改善へ取り組むことで故障率を下げつつ、当面デ
ィーラー向けに支払うインセンティブを抑えることで台粗利も確保する、とい
うのがベストであろう。

 しかし、そもそもの消費者のイメージが購入時から 1.の「壊れても修理して
もらえるんだろ」という認識になってしまうと、数ヶ月〜 1年程度は台数増効
果は期待できたとしても、仮に生産現場や設計現場(後者では設計から販売ま
でのリードタイムを考えると間に合わないが)の努力により故障率を下げても、
消費者の購入理由が「故障は全て免責無しで直してもらえるんだから、買った」
というレベルとなってしまっては、ワランティークレームが続出して、台数効
果を失うのみならず、ブランドイメージを損なってしまうことになるだろう。

 拡充分の保証経費は人員削減などを通じて蓄えた 90 億ドルの中から充てら
れるとのことだが、見積もりと実態とのギャップが将来へと先送りになった可
能性は無いだろうか。


【ディーラーから見た効果】

 ディーラーの側から見ても、先ずはメーカー保証期間が伸びたことによる便
益を消費者に伝達することにより台数を確保したい、というのは同様にあるだ
ろう。これまで品質面での理由から日本車など(米国から見た)輸入車を購入
してきた層を如何に取り戻すかという部分である。

 しかし、喫緊の問題はインセンティブの削減である。上述の通り、GM のマー
ク・ラニーブ販売担当重役は今回の販促策について、従来の販売奨励策(イン
センティブ)から、保証拡充で消費者の信頼感を高める「戦略の転換」と説明
している。

 つまり、今回の施策の結果メーカーからの販売奨励金を削減される可能性が
高く、台当たり利益は減少する。これを台数増で如何にカバーするか、という
のが直面する状況であろう。(勿論、この分を消費者に転嫁することが出来れ
ば良いが、消費者が値上げを許容するだろうか。とはいえ、小売価格への転嫁
は必須で、今度は台数が伸びないといったことにもなりかねない。

 もうひとつの効果はワランティー収益増だ。ディーラーは、メーカー保証期
間内の故障部品については部品の交換と工賃を元にメーカーへと事態報告と共
に請求し、収益を獲得しているという実態がある。

 自動車ディーラーの売上総利益の約半分がサービス・部品の売上総利益であ
る、というのは標準的な姿であるが、このサービス・部品売上・売上総利益を
分解すると、1.車検、2.点検、3.事故整備、4.保証(ワランティ)となる。

 国内の例を見てみたい。

 自動車整備白書(平成 17年度)にある、ディーラー 1 事業所当り作業内容
別売上高・入庫台数を見ると、ワランティ※は売上高でサービス・部品売上全
体の 4 割程度、入庫台数では 6 割強を占める。

 ※ワランティ対象の売上が「その他整備」の殆どを占めると仮定

 残念ながら売上総利益レベルでの内訳は無いが、大凡上記 3.の事故整備が入
庫台数当たりの収益性が一番高く、ワランティ対象売上の収益性はレーバーレー
ト他をメーカーとの間で握っている背景もあり、そこまで高くは無いと想像さ
れるものの(メーカーやディーラーによって異なるだろう)、元々の入庫対象
台数では全体の 6 割強を占めることから、ここの利益は無視できないレベルで
あろう。

 メーカーによる保証期間が延びるということは、その分このサービス・部品
売上を伸ばす要素となる為、ディーラーとしては歓迎である。しかし、その効
果が出てくるのは今すぐではなく、今までの 3年保証が 10年になる場合は、今
年 9月販売のモデルから起算して 4年後※になってようやく追加のサービス売
上を獲得するチャンスが訪れるはずだ。(それまでは、これまでと同レベル)。

 ※逆にメーカーの立場から見れば、キャッシュアウトを遅らせることが可能
  となる。

 また、「●台売ったら、○円販売奨励金を出す」という明確な形の取り決め
があるインセンティブ制度に比べて、メーカー保証の審査基準決定権と審査権
そのものはメーカー側に留保されることから、ディーラーから見ると今まで以
上にメーカー依存が高まる可能性も秘めている。


【全ての価値の源泉は「顧客」にある】

 各種記事によると、前述の現代による 10 万マイルに加えて、フォードは 5
年間または 6 万マイルへの延長、クライスラー、ダッジ、ジープの各ブランド
は 7年間または 7 万マイルを 3年間または 3.6 万マイルというへと短縮した。
トヨタは現行の保証期間の変更を予定していないなど、各社の対応は異なる。

 しかし幾ら目先を変えても、結局は主体は顧客にあり、お客様に車両本体の
品質と、それに付帯する「安心して継続的に乗り続けられる」という価値を包
括した「商品」をどれだけ評価してもらえるかが一番重視すべき点である(勿
論、相対的な価格や広告・宣伝によるイメージ、購入ディーラーでの満足度な
ど総合的なマーケティングミックスの結果が「商品」であるが)。

 現代は 10 万マイル保証を実施した際に、ラインの最終検査を厳しくし、そ
の後生産レベルでの不具合改善、更には設計・開発段階へのフィードバックを
実施していると聞く。10 万マイル保証の結果としての実績を判断するにはまだ
時期尚早ではあるが、妥当な試みであろう(品質改善の実績は調査会社の指標
では出つつある)。

 会社の状況によっては、

 1.先に顧客に対して約束をして
 2.同時に、自らの商品(前述の総合的なマーケティングミックスの結果とし
  ての「商品」)をその約束レベルに合わせていく

というやり方が必要な場合もあるだろう。特に組織が肥大化していくと、こう
した外部への全社でのコミットを先に打ち出していく必要が生じる場合が多い。

 GM も顧客に一番近い場所での安心の約束から順を追って、徐々にそこから離
れたサプライサイドの改善を実施していくことが出来れば、今回の施策は成功
に近づいていくであろう。

 しかし、もし上記「自動車メーカーの狙い」の章で仮説立てしたのような
「直近の業績・キャッシュへの影響」というのが主たる狙いであるとすれば、
「ディーラーの疲弊」と同時に「顧客」の支持を失いかねないリスクを内在し
ている。

 結局のところ、全ての価値の源泉は「顧客」にあるのだから。

                      <長谷川 博史>








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