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長谷川 博史 執筆記事
 
 
 
エンジニアや、普段「数字」にあまり触れる機会の無い方、
若しくは「数字」には触れているものの、それらの意味合いについて
あまり考える機会の無かった方に、なるべく分かり易く「価値を生み出す」
という行為がどのように数字に置き換えられているかという、基本的な
考え方を紹介したいと思います。気楽に書きますので、気楽にどうぞ。

第5回(最終回): 原価って?

<前回までのおさらい>
 前回までは、4回に渡って「お金」の意味、どういったことをすると結果
としてお金が貰えるか、という話を中心にしてきた。
即ち、貨幣というものの持つ意味と、(相手の立場にたって)与える
ものが多くなればなるほど獲得出来る貨幣量は増えるということ、
その過程で差別化についても簡単に説明した。

<今回の話>
 しかし獲得する貨幣量が幾ら多くなっても、売上がどれだけ増えても、
それ以上の貨幣を支払ったり、各種費用が増えてしまえば手元に
「お金」は残らない。
 モノやサービスには当然「原価」というものが存在する。加工を全く
必要としないものであれば、そのモノやサービスを自分が取得する
ことにかかったコストが「原価」となり、加工・製造等を伴う場合には、
予め定められた手法に則って各種コストを仕掛品や製品に賦課する
計算を経て「原価」が導き出されたりする。
 この原価を低減させることは、手元に幾らのお金が残るかの重要な
要因である。

 今回は、原価低減活動の持つ根本的な意味について紐解いてみたい。

(原価計算の方法や、期間損益の導き出し方 といった技術的な話は
今回の話の趣旨ではない)

<簡単な例を挙げて考えてみよう>
 当たり前の話で、企業は手元にお金を残す為に原価低減を行っている
わけだが、この原価低減という行為について、もう少し深く考えてみよう。
 例えば、ある企業(B社)にとっての売上と原価が以下のようになって
いると仮定する(製造に用いる設備の減価償却などは省き、純粋に
原材料費、人件費、支払利息のみがコストと想定)

  A社 →→     B社  →→ C社
  70 →→     100  →→ 110
 (原材料費)  (原価) (売上)
      ↑    ↑
↑    ↑
   従業員   銀行
     27    3
 (人件費)  (金利等)

  1)B社にとっての売上 110
  2)B社にとっての原価 100(=3)+4)+5))
  3)A社にとっての売上 70
  4)従業員にとっての売上 27
  5)銀行にとっての売上 3

<B社にとっての原価はA社、従業員、銀行にとっての売上>
 B社が100の原価を低減しようとする行為は、即ちA社(70)、
従業員(27)、銀行(3)の売上を削減しようとする行為であることが
分かる。

<売上は顧客が期待しているレベルを遥かに超えた価値の提供の証>
 ここで、前回までの議論を思い出して欲しい。
第3回、第4回で繰り返し述べてきたのは、売上は、「顧客が期待している
レベルを遥かに超えたモノ・サービスを提供することで、初めて計上される」
ということでした。

<原価低減行為=提供されている価値のチェック行為>
 即ち、B社による原価低減行為の持つ意味は、正に「自分が期待
しているレベルの、否それを超えた価値を、モノやサービスを通じて
A社や従業員、銀行から受けているか」というチェックなわけである。
 このチェックを行うことにより、A社・従業員・銀行は、より多くの価値を
B社に与えようとするだろう。
 また当然、チェックの結果、B社が期待しているレベルにも達していない
価値の提供しかしてくれない相手に対してはより少ない対価で良い
=コスト削減余地があるわけである。

<原価低減しようにも、難しいケース>
 但し、100の支払の代わりにB社が受け取っているモノやサービスには、
C社が価値として感じるもの、即ちC社向けに110の売上を計上する為に
必要不可欠なものも含まれるだろう。
 このような部分をも、原価低減の名の元に省いてしまうと、C社に
提供できる価値そのものが低下してしまい、値引きを迫られ、結果として
手元に残るお金は減ってしまうことになる。

<原価低減で気をつけるべきポイント>
 顧客が価値と感じる個所にまでメスを入れて、原価低減のみを
金科玉条の如く取り進める行為は、原価をベースに一定のマージンを
設定して市場に売りに出す行為と同様に、顧客・市場のことを忘れた
「目的と手段の逆転現象」となってしまう。
 飽くまでも、「顧客に何を提供できるか」、という観点に、仕入先や
従業員、銀行等からどういう価値を提供してもらっているか、という観点を
加えて考えることが重要である。

<全5回を通じて、最後に>
 全5回に渡って「価値を生み出す」という行為がどのように数字に
置き換えられているかという考え方を説明させて戴いてきました。
 さて、それでは「顧客が期待しているレベルを遥かに超えた価値を、
モノやサービスを通じて提供するような活動が連鎖していく」結果、
貨幣はどこに移動していくのでしょうか?そう、貨幣は必然的に
「より提供できる価値の高いところ」へと流れる形となります。
 自由な市場における、健全な取引、といったところでしょうか。

 しかし、現実社会はそこまで甘くないのも事実です。
色んな力関係や、相手企業の有力者に対して提供される便益などで
モノやサービスをベースにした取引が成立することがあります。

 「より多くの価値を提供するもののところへ貨幣が集中していき、
ここをベースに更なる再配分へと向かう」ことを阻害するような取引は、
結果として消滅していくはずですが、これからは今まで以上に「自分が
提供できるサービスや商品を通じて相手が感じてくれた価値の範囲内で
お金を受け取る」ということが当たり前の社会に徐々に近づけていかねば
ならないでしょう。その為には、先ずは自分から始めなければならない。

 国全体として経済成長率が低い云々、というのも「価値の提供と対価の
支払いにアンマッチが生じる取引がまだ横行している」ことにより、
より多くの価値を提供できる人のところに金が集まらないということと
無関係ではないでしょう。

                        <長谷川 博史>

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