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秋山 喬 執筆記事
 
 
 
『事業復興期のお金の使い方』

◆三菱自動車、ランニングコストも含めたIT投資、売上高の1%規模に拡大
 来年秋に満了する日本IBMとのアウトソーシング契約を継続する方向

                    <2006年07月30日号掲載記事>

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【事業再生期におけるIT投資の抑制】

 三菱自動車は 08年度以降のポスト再生計画を見据えて、システム投資を活発
化する。07年秋に満了する日本 IBM とのアウトソーシング契約を継続する方向
で調整するほか、ランニングコストも含めた IT 投資規模を大手製造業の標準
といわれる売上高の 1 %程度の水準で安定させる考え。

 三菱自動車は現在、システム投資に関して、開発力強化を狙いに 3 次元 CAD
「CATIA V5」の導入を急速に増やしているほか、日本版 SOX 法(企業改革法)
施行をにらんだ内部文書の統制化や業務プロセス改革などを計画、一部実施し
始めた。また、コア業務である IT 企画業務などの担当を増員する。アウトソー
シングについては内容を更新する方向だ。

 三菱自動車は近年の業績低迷で売上高に占める IT 投資規模が 1 %を割り込
んでいたが、SUV のアウトランダー、軽自動車の i (アイ)のヒットなどによ
り、再生計画が軌道に乗っていることから復興期に向け IT 投資の金額も増加
させる。

 企業活動における IT の役割は代表的なものとして(1)ビジネスモデルを形
作る一つの要素、(2)業務の効率化、(3)効率的なデータの収集・整理・分
析が挙げられる。(1)が該当するのはアマゾン、楽天等のいわゆる IT ビジネ
スの場合であり、自動車メーカーのようにリアルなビジネスを行っている企業
においては主に(2)、(3)の目的で IT が活用されることになる。

 そして、そのような場合、事業再生期において事業収益の向上に直結しない
という理由で、IT 投資の金額が抑制されるケースが多い。事業再生期は社全体
として現金(キャッシュ)が不足しており、お金の使い道となる投資対象の選
別も平時に比べて厳しくなるからであり、これまでの三菱自動車の場合もそう
であったと推測される。

 但し、事業収益そのものに直結しないとしても、IT はビジネスインフラであ
り、その部分での投資を怠ると徐々に競合他社との企業体力の差が生じてきて
競争条件はますます不利なものになっていく。例えば、デジタル化による開発
期間の短縮は自動車メーカー各社にとって重要なテーマとなっているし、IT を
活用した迅速かつ正確な業績把握は環境がめまぐるしく変化する現在において、
適切な経営判断に影響を及ぼす。

 そういう意味で事業復興期のこのタイミングで IT 投資を増やすというのは、
望ましい動きといえるだろう。


【事業再生期を通じて普及したファイナンスの概念】

 三菱自動車のケースにも該当するが、事業再生期を経て、日系企業に最も一
般化、浸透したのはファイナンスの概念、考え方であろう。株主重視、企業価
値最大化といったキーワードが極端な解釈をされた例はニュース等で一部見受
けられたものの、企業活動を営む上では非常に重要な概念である。テクニカル
な面は割愛し、考え方のみ少し触れたいと思う。

 まず、企業活動を単純化すると(1)銀行借り入れ、有価証券(株式・債権)
発行により資金を調達する。(2)調達した資金を用いて事業に必要な資産を購
入(投資)する。(3)資産を用いて事業運営を行いリターン(キャッシュフロ
ー)を生み出す。(4)生み出したリターンを再投資する、もしくは投資家に還
元するという 4 つのサイクルから成る。

 (1)、(4)のサイクルに関係するキーワードとしては資本コストという名で
資金調達にもコストがかかるということが認知された。銀行借り入れを行う場
合のコストは金利であるし、株式でもって投資家から調達する場合はリスクが
高いため、銀行借り入れ以上のリターン(還元)が求められる。つまり資本コ
ストが高いのである。

 また、(2)、(3)に関係するキーワードとしては投資採算性の概念が一般
化した。資産を購入(投資)するにあたって、いくらのキャッシュを投下して
いくらのキャッシュが将来的に、リターンとして回収できるのかというもので
ある。そして株主の期待にこたえるためには、リターンが前述した資本コスト
を上回らなければならない。

 そして投資採算性の概念が一般化する過程で、投資採算性を定量化して評価
するための手法、ものさしも一般化した。その中で最もメジャーなものは NPV
法 (正味現在価値法)であり、投資により将来発生すると予想されるキャッシ
ュフローをリスクを反映させて現在価値に置き換え、投資額と比較するという
ものである。

 但し、これら評価指標にも限界は存在する。実際に投資採算性の計算を行っ
たことのある人ならわかるかもしれないが、前提のおき方次第で数字が大きく
変動してしまうのである。様々な投資案件を同じものさしで評価できるという
利点はあっても、前提次第で導き出される投資判断は全く異なったものになる。


【事業復興期のお金の使い方】

 今回のニュースの例もそうだが、事業再生期を経て復興期に入った企業の目
の前には設備投資、研究開発投資、M&A、IT 投資、新規事業投資と様々なお金
の使い道が存在する。事業再生にいたる過程の反省も踏まえて正しいお金の使
い方をしたい、適切な箇所にお金を使いたいというのはどの企業も考えること
である。

 上記で挙げたような投資採算性を評価する手法は事業再生期を経た復興期に
おいても用いられる普遍のコンセプトといえる。しかし、前提の置き方次第と
いうこともあり、正しいお金の使い方を導き出すというものではない。あくま
でたがをはめるという効果しかないと認識すべきであろう。

 事業復興期において、より重要になってくるのは、数字の前の前提の部分で
ある。言い換えれば、当該投資の戦略的な意義や狙いといった部分をより一層、
明確にする必要がある。事業再生期には削減しなければならない負債の額など
が存在し、それが足かせ的な目標として、投資判断を行う際の一種の判断材料
になったが、復興期においてはそのような足かせが外れ一気に戦略の自由度が
増すことが背景にはある。

 その意味で復興期における、何にお金を使って、何にお金を使わないかの選
択は成長戦略そのものであり、選択と集中は事業再生期だけに用いられるキー
ワードではない。

 異業種の事例を挙げると、東芝は事業再生期を経た復興期の過程で、6000 億
円以上のお金を使い米原子力大手「ウェスチングハウス(WH)」を買収するこ
とを発表したのに加え、2005〜 2007年度の 3 ヵ年の設備投資額の 50% に当た
る 5500 億円を半導体事業に投資することも発表した。強化する事業を明確に
打ち出したわけである。かつては総合電機メーカーとして横並びだった東芝、
日立製作所、三菱電機だが、事業再生期を経て、各社の事業内容には随分と違
いが見られるようになってきている。

 自動車業界の場合は、どのメーカーも基本的には自動車という単品を扱って
いるので、電機業界のような明確な違いは出にくいものと思われる。ただ、そ
れだけに総花的になることは避けなければならず、メリハリを利かせた、他社
との差別化に寄与するお金の使い方をすることが正しいお金の使い方につなが
るのではないだろうか。

 また、今週の別のニュースでは第 2 四半期に予想を上回る赤字を計上したフ
ォードが資本の使われ方を再検討する特別チームを編成したという報道があっ
た。フォードの場合は事業再生期を抜け出せずにいるため、少し意味合いが異
なるが、事業復興期においても正しいお金の使い方ができているかを常にチェ
ックしていくことが必要だろう。


【自動車業界を顧客とする企業への示唆】

 事業復興を目指す企業も加わり自動車業界全体としての投資意欲が向上して
いる状況の中、様々な業界が自動車業界を重点顧客と位置づけて自動車業界向
け売上の拡大を目指している。今回のニュースなども IT ソリューションプロ
バイダーにとっては朗報となるだろう。

 一方で、言い方は悪いが、顧客にお金を使ってもらおうと思うのであれば、
顧客がどのようなプロセスを踏んでお金を使うのか、顧客の投資判断がどのよ
うになされているかを把握することは重要である。先述したとおり、顧客の目
の前には様々なお金の使い道があり、その中から顧客は最も正しいと思う使い
道を定量的な裏づけをもって選択するのである。

 そういう意味では、自社製品の効果、つまり顧客が享受する便益を定量化し
て訴求することはまず必要になるだろう。

 また、自社が IT ソリューションを提供しているからといって、同業のみを
競合と捉えるのでなく、広い視野で競合というものを捉えたほうが良い。例え
ば、顧客は IT で業務効率化をはからずに人に投資して業務を遂行する人員を
増やすという判断をするかもしれない。極端な言い方をすれば、自動車業界の
お金の使い道全てが競合となる可能性が出てくるのである。

 そして、このように自社製品でなく顧客が感じる便益を考え方の中心にすえ、
競合を従来の定義より広く捉えることによって、従来の自社製品に競合の持つ
要素をプラスした新製品、新サービスのアイデアも生まれやすくなるのではな
いかと考える。


                      <秋山 喬>





 
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