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秋山 喬 執筆記事
 
 
 
『部品メーカーと投資ファンドの新しい関係』

◆ユーシン、旧リップルウッドによる増資の払い込み手続きが完了

640万株、約80億円の払い込みが完了。新社長など新しい経営体制も発表。

                    <2006年04月13日号掲載記事>

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 ユーシンは、米国の投資ファンドの RHJ ホールディングス(旧リップルウッ
ド・ホールディングス)が同社に資本参加することで合意したと発表した。ユー
シンはキーセット等を製造する電装部品メーカーであり、RHJ グループはユー
シンの筆頭株主となる。RHJ グループは、ナイルス、旭テックと日本の自動車
部品メーカーへの投資を加速させている。

 RHJ ホールディングスの子会社 RHJ インターナショナルがユーシンの実施す
る第三者割当増資を引き受ける。ユーシンが発行する新株は 640 万株で、RHJ
インターナショナルは 1 株につき 1244 円、総額 79 億 6160 万円を出資する。
ユーシンへの RHJ インターナショナルの出資比率は 20.1 %となり、筆頭株主
となる。

 今回、ユーシンは調達した資金約 80 億円を、主に日系自動車メーカーの生
産が拡大している海外での生産拠点の強化に活用していくとのことである。

 部品メーカー領域で投資ファンドが投資を実行するというニュースを久々に
目にした。

 これまで投資ファンドによる部品メーカーへの投資というと、2000年前後に
日産、三菱自動車といった自動車メーカーの経営再建過程において、系列部品
メーカー売却の受け皿になるというケースが多く見受けられた。日産系列部品
メーカー、キリウの MBO に伴うユニゾン・キャピタルからの出資などはその代
表的な事例である。

 そのような関係ゆえに、日本の自動車業界全体が好調になってからは投資フ
ァンドによる部品メーカーへの投資は、一時期に比べ明らかに減少していた。

 今回、RHJ インターナショナルが出資したユーシンも一見して業績が不調だ
ったというわけではない。実際、売上高は

  51,913 百万円(平成 15年 11月期)→
  54,520 百万円(平成 16年 11月期)→
  62,834 百万円(平成 17年 11月期)

と伸長しているし、平成 17年 11月期も赤字などではなく、10 億円程度の当期
利益が出ている。

 にもかかわらず、設備投資の資金を定石どおり銀行からの借り入れでまかな
うのではなく、なぜ投資ファンドから調達するのか、という疑問が生じる。多
少調べてみたところ、そこには、一見、グローバル化の進展で、活況を呈して
いるように見える自動車業界における部品メーカーの課題と、今後の投資ファ
ンドとの新たな付き合い方が浮かび上がってきた。

 では、今回の事例をユーシン自身が発表している平成 17年 11月期の決算短
信の情報をもとに、企業活動の基本である販売・マーケティング活動→サプラ
イ活動→財務活動の流れに沿って見てみる。


【販売・マーケティング活動】

 売上高が伸長していると述べたように、ユーシンは現在、国内外メーカーか
らグローバル供給の一括受注も含め多くの受注を成約している。

 国内においてはマツダ/フォード、スズキ/ GM 向けにそれぞれグローバル
カー用のキーセット他の部品受注が決まったほか、ホンダ向けの新規受注も拡
大している。

 また、海外でも、欧州、中国、タイ等において様々な国内外メーカーからの
受注が決定している。


【サプライ活動】

 好調な受注活動に対応するため、グローバルレベルでサプライ体制の整備に
努めており、国内、中国工場の増築に加え、タイ、ハンガリー、アメリカでも
設備投資を実施し、その額は総額で約 5,700 百万円にのぼる。

 そのためユーシンの売上高設備投資比率は、約 9 % ということになる。自
動車メーカーの売上高設備投資比率を見てみると、トヨタが唯一 10 %超であ
り、日産、ホンダなどは 4〜 5 %であるから、それと比較しても、ユーシンの
設備投資活動は活発ということができるだろう。


【財務活動】

 上記のような活発な設備投資の資金をまかなうために、ユーシンは数年来、
銀行からの借り入れを増加させており、有利子負債の残高も

  21,750 百万円(平成 15年 11月期)→
  23,830 百万円(平成 16年 11月期)→
  26,875 百万円(平成 17年 11月期)

と推移している。

 また平成 17年 11月期決算の短期借入金約 10,000 百万円のうちの半額以上
にあたる約 5,500 百万円が年内に期限が到来するものであり、年度末の現金残
高が約 10,000 百万円であったからそれを差し引くと、大幅に手元に残る現金
が減少することになる状況であった。

 一方で、債務償還年数(有利子負債/営業キャッシュフロー)も

  7.4 年(平成 15年 11月期)→
  16.9 年(平成 16年 11月期)→
  32.2 年(平成 17年 11月期)

と数年来、悪化していた。

 そして今回、 RHJ インターナショナルからの出資を仰ぐことで現金残高はほ
ぼ平成 16年度末と同じ水準に戻ることとなった。


 このように販売・マーケティング活動→サプライ活動→財務活動という一連
の企業活動の流れを見ると、世界各国で受注は好調であるものの、その供給の
ための設備投資により、銀行借り入れが増加し、財務バランスが徐々に崩れ、
投資ファンドからの出資をあおいで財務バランスを立て直したという構図が見
えてくる。

 そして、このような課題に直面している部品メーカーは今回取り上げたユー
シンだけではあるまい。現在、自動車メーカーは世界的に拡大する新市場での
シェア確保を目指し、海外展開を積極的に進めている。こうした海外展開に対
応できない部品メーカーは、グローバルレベルでは取引関係を解消されかねな
いため、グローバルサプライヤーを目指そうと思ったら、部品メーカーは多少
背伸びをしたとしても、自動車メーカーの動きに追随していかねばならない。

 売上高 60,000 百万円超の規模のユーシンでさえ、そうなのだからティア 2、
ティア 3 といった部品メーカーであれば、海外展開に伴い資金的に窮している
ところも少なくないだろう。

 しかし、考え方を変えてみれば、現在、日本の多くの企業は構造改革が終わ
り、成長軌道に乗りつつある。そして、金融機関からすれば金余りの時代であ
り、投資ファンドなどはむしろ投資案件の発掘に苦労している状態である。こ
のような事業会社優位の現在だからこそ、部品メーカーは投資ファンドの資金
を梃子として活用し、更なる成長を目指すということを考えたらどうであろう
か。

 投資ファンド側も成長が見込める事業に対しては、資金の提供を惜しまない
し、今回のユーシンと RHJ インターナショナルの事例のように投資先との友好
関係を重視し、過半数を取得するということはしないなど投資のスタンスも変
化させてきている。

 このような部品メーカーと投資ファンドの新たな関係により、部品メーカー
のグローバル展開が更に加速すれば、現在、好調な日本自動車業界が更に成長
することにつながるのではないかと考える。

                      <秋山 喬>
 
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